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未来編
第11話 約束の日
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黒羽蜜さんと約束した、その日になった。渡されたメモをじっと見つめる。鼓動が速くなっていった。
もう、迷っていない。役者として生きていく選択肢は、今の私にはない。ただ、その気持ちを彼女に上手く伝えられるか、それが心配だった。
書かれた番号を押していく。最後の番号を押す時は、手が震えた。呼び出し音が五回鳴った後、通話になり、「はい」と男の人の声が聞こえてきた。
「あの……先週、黒羽さんから声を掛けて頂いた藤田と申しますが、黒羽さんはいらっしゃいますか?」
「ああ。聞いてるよ。珍しく黒羽さんが声を掛けた女の子の話。すごく興奮しながら、君のこと、褒め讃えてたよ。
あ、今代わるから、ちょっと待っててね」
少しの間があって、先週出会った彼女の声が聞こえてきた。
「本当に電話掛けて来てくれたんだね。ありがとう。あの後、仲間にあなたのこと、話しまくったのよ。みんな、会ってみたいって言ってて……」
「すみません」
私は、彼女の言葉を遮った。これ以上聞いていたら、断れなくなってしまう。その気は全くないのに、乗せられてしまう。
「私、劇団には入りません」
胸がドキドキしている。何秒くらい経ってからだったろう。黒羽さんが、「え?」と言った。その声は、とても驚いているように聞こえた。
「入らない? 嘘でしょう。入るって言ってよ。絶対断らないと思ってたのに」
「入りません。私は、役者をやっていく覚悟がありません。もっと別のことをして生きていくつもりです」
「あなたは、絶対に才能がある。それに、私に会えたんだから、かなり運もいい。それを活かしてほしい」
私は、首を振った。
「私には出来ません。でも、見つけてくださって、ありがとうございました。嬉しかったのも本当です。それでは、失礼します」
「待って……」
待たずに、通話を切った。少しの間は、彼女から折り返しの電話が来るのではないかとスマホを見つめていたが、それはなかった。安堵感とともに、少しだけ残念な気持ちになっているのを認めない訳にはいかなかった。
「ミコ。違うでしょ。私は、もっと別の人生を歩みたい。そうだよね」
自分に言い聞かせると、大きく伸びをした。
「さあ。勉強しよう」
わざと声に出して言い、教科書を開いた。
もう、迷っていない。役者として生きていく選択肢は、今の私にはない。ただ、その気持ちを彼女に上手く伝えられるか、それが心配だった。
書かれた番号を押していく。最後の番号を押す時は、手が震えた。呼び出し音が五回鳴った後、通話になり、「はい」と男の人の声が聞こえてきた。
「あの……先週、黒羽さんから声を掛けて頂いた藤田と申しますが、黒羽さんはいらっしゃいますか?」
「ああ。聞いてるよ。珍しく黒羽さんが声を掛けた女の子の話。すごく興奮しながら、君のこと、褒め讃えてたよ。
あ、今代わるから、ちょっと待っててね」
少しの間があって、先週出会った彼女の声が聞こえてきた。
「本当に電話掛けて来てくれたんだね。ありがとう。あの後、仲間にあなたのこと、話しまくったのよ。みんな、会ってみたいって言ってて……」
「すみません」
私は、彼女の言葉を遮った。これ以上聞いていたら、断れなくなってしまう。その気は全くないのに、乗せられてしまう。
「私、劇団には入りません」
胸がドキドキしている。何秒くらい経ってからだったろう。黒羽さんが、「え?」と言った。その声は、とても驚いているように聞こえた。
「入らない? 嘘でしょう。入るって言ってよ。絶対断らないと思ってたのに」
「入りません。私は、役者をやっていく覚悟がありません。もっと別のことをして生きていくつもりです」
「あなたは、絶対に才能がある。それに、私に会えたんだから、かなり運もいい。それを活かしてほしい」
私は、首を振った。
「私には出来ません。でも、見つけてくださって、ありがとうございました。嬉しかったのも本当です。それでは、失礼します」
「待って……」
待たずに、通話を切った。少しの間は、彼女から折り返しの電話が来るのではないかとスマホを見つめていたが、それはなかった。安堵感とともに、少しだけ残念な気持ちになっているのを認めない訳にはいかなかった。
「ミコ。違うでしょ。私は、もっと別の人生を歩みたい。そうだよね」
自分に言い聞かせると、大きく伸びをした。
「さあ。勉強しよう」
わざと声に出して言い、教科書を開いた。
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