イチゴのタルト

ヤン

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未来編

第14話 天才

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 十二月半ばになった。あと十日もしたら、光国みつくにのバンドは解散してしまう。今の時点で知っているのは、ごく限られた人だけだ。

 学校は、いつもと変わりない空気だ。そんな中で、私は、誰にも言ってはいけない秘密を抱えている。
 演劇部の練習に参加していても、時々光国を思って、溜息を吐いてしまう。隣に立っていた加津子かつこが、私の顔を覗き込むようにして見ると、

「どうしたの、ミコ。最近、何だか元気ないね。また、進路のことでも考えてるの?」
「違う」

 とは言ってみたものの、説明は出来ない。加津子は、「ふーん」と言うと、

「それよりさ、ここ、どう思う? 何か、しっくりこないんだけど。このセリフ、何か、どうにか出来ないかなって、ずっと思ってるんだけどさ」

 加津子に台本を見せられて、私は頷いた。確かにそのセリフは、何だか落ち着かない感じがある。もっといい言葉に変えられないかな、と思ったことが何回かあった。
 私は、少し考えて、そばに置いていたカバンから鉛筆を取り出すと、

「そうね。じゃあ、こんな風にしてみたらどうかしら」

 セリフの横に、思いついた言葉を書いていった。加津子が、その様子をじっと見ている。そして、

「ああ。そうだね。その方がいいと思う」

 目がキラキラしている。手ごたえを感じて、思わず微笑み、ガッツポーズをしてしまった。

「ねえ、みんな。ちょっとここさ、ミコが直してくれたんだけど」

 加津子の呼び掛けに、みんなが私たちのそばに集まった。加津子が、私の書いたセリフを、その役になって読み上げると、「おー」とみんなが声を上げる。

「あ、それです、加津子先輩。すごくいいです。ミコ先輩、天才じゃないですか」

 後輩の一人が、絶賛してくれる。普段から、嫌味にならない程度に、こうして人を褒める子だ。
 加津子は私の方を見て深く頷くと、

「本当に天才かも。ミコ。ホンを書く人になったら?」
「何言ってるの。たまたま上手くいっただけよ。天才って……褒め過ぎだから」

 そう言いながらも、私は顔が赤らんでいるのを感じていた。褒められて、照れてしまっていた。そして、わくわくしているのを感じていた。

(やってみたいかも)

 心が、物凄く動かされた瞬間だった。
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