洋館の記憶

ヤン

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第2話 別れ

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 母とともに、プラットフォームに立った。母は、俯いたまま、

かおる。ごめんね」
「何、今さら言ってるんだよ」
「だって……」
「私も、おじいちゃんたちと一緒に暮らした方がいいと思うって言ったじゃん。いつまでも、そんなこと、言わないでよ」

 冷たい口調になっていた。

 祖父母とともに暮らすのが、一番いい解決策だと、私もわかってはいる。それは確かだけれど、私は、今まで仲良くしてきた仲間や、彼氏と別れなければいけなかった。引っ越ししたからといって、それで関係が完全に切れるかどうかはわからない。でも、これで終わってしまう可能性は十分にある。そのことが、何とも言えず、私を暗い気持ちにさせる。


 昨日、友人の家に集まって、仲間とわいわい騒いだ。今までの思い出を話したりして、盛り上がった。でも、終わる頃には胸がぎゅっとなって、泣いてしまった。それが、なかなか止まらなくて、嫌になった。
 私につられたのか、仲間たちも泣き始めてしまった。絶対泣かないだろうな、と思っていた彼氏すら涙を落とし始めて、それにはびっくりしてしまった。でも、私の涙は止まらなかった。

 それからしばらくして、解散した。彼氏は、家まで送ってくれた。別れ際、その人が微妙な顔をして私を見たので、私も見返し、「何?」と言うと、思いつめたような声で言った。

「オレは、おまえのこと、ずっと好きだから」

 ここは、きゅんとしなきゃいけない場面だと思いながらも、出来なかった。私の口から出たのは、

「いや。それ、嘘でしょ。私のことなんか忘れて、新しい彼女、作んなよ」

 彼が呼び止めるのも無視して、背中を向けて家に入った。
 あの人は、私と付き合う前、いろんな子と付き合っていたらしい。距離が出来たら、一人でいられるはずがない。そういう人だ。信用して傷つくのは嫌だ。だから、はねつけた。
 後悔してないけれど、自分の言葉に自分で傷ついていた。上手く説明出来ない感情だ。

 これで終わって、次に行くしかない。肩で風切って生きてやる、と心に誓った。


 母はいつまでも気にしているような顔をしていた。電車が来て、席を確認して座っても、何も言わない。私も、あえて声を掛けようとは思わない。シートの背もたれに体を預けて、私は目を閉じた。

 それから随分経ってから、電車を降りた。寒い。そして、さっきまでいた場所とは、全く見えている景色が違う。その辺に、普通に山が見えているなんて、今までではありえなかった。空気も、気のせいか、澄んでいるように感じられた。思わず、深呼吸をしてしまった。

 在来線に乗り換えて、何駅目かで私たちは降りた。そこから、二人で黙ったまま歩いた。手がかじかんで、時々こすり合わせた。もっと厚着をしておけばよかったと、ちょっと後悔した。10分ほどで、その場所に着いた。

「えっと、ここ?」

 周りの家々とは、一線を画すような洋館だった。
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