【完】真実の愛

酒酔拳

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5.ダニエルとの出会い

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5.ダニエルとの出会い


陽が暮れて、暗々としてくる。
町に灯りがついてくる。

以前、私がラダトン町に来た時は、灯りはもっと多く、夜でも明るかった。
今ではひっそりと、かろうじて道端を灯すだけだった。
飢えた人々は道端に座り込み、ある者は寝転がってじっと耐えている。

こんなにも伝染病が流行し、飢えが進んでいるとは思わなかった。
王宮にいるときは、衣食住は事欠かず、歌劇団を招き、華やかな毎日であった。
その生活も、この飢えた市民から、税を搾取して成り立っていたのだ。
私は今までの王宮の生活を恥ずかしく感じてしまう。

今まで、私は何をしていたんだー----


母様はこの一日で、すっかりやつれ果ててしまっている。
どこにも行く当てのない今、灯りを目印に進んでいくしかなかった。

わずかだが、灯りが明るくともっている場所に行きついた。
そこは町の広場になっているようで、人々がひしめき合い、野宿をしている者も大勢いる。
馬車を止めると、7歳ほどの、痩せて骨ばった少女が寄ってくる。

彼女は、馬車から降りた私を、じいっと見ている。

「少ないが、食べるか?」

持っていたパンを彼女に差し出すと、少女はぱっとパンを取った。

「ありがとう!」

そう言って、パンに喰いついて、貪って食べる。
よほどお腹がすいていたのだろう。水筒にいれていた水を差しだすと、ぐいぐいと水を飲みだす。

「ここらへんに、泊まるとこあるか知ってる?」

お腹がふくらみ、一息ついた彼女に聞いてみる。

「うーん。みんな、本当に困ったら酒場にいってダニエル兄さんを呼ぶよ。」

彼女は、あどけない笑顔を見せて答える。

「ダニエル?」

「うん、みんなを助けてくれるんだ。全部は無理だけど、みんなダメもとで、ダニエル兄さんに聞いてみてるよ。お姉ちゃんも、困ってるの?」

「そうなんだ、とても困っているんだよ。」

「じゃあ、ダニエル兄ちゃんに、どうしたらいいか、聞いてみるといいね。この通りをまっすぐ行った道の角に、酒場があるよ。「オルハウス」っていうよ。」

 少女はそう言いながら、物欲しげに私をじいっと見る。

 私は少女の手に、銅銭を2枚乗せた。もっと乗せてやりたいが、私の銭袋にも残りはわずかでこれ以上は無理だった。

「ありがとう、お姉ちゃん!弟もお腹をすかせているから、これで買えるよ」

 少女はそう言って、元気に走り去っていく。

 
「あんな子に、もう少ない銭とパンをあげてしまうなんて。」

母様は荷馬車から顔を出して、恨めし気に言った。

「オルハウスの酒場を教えてもらったからね。行ってみよう。」

私は柔らかい口調で母様に言う。
なぜか、少女に会って気持ちが優しくなっていた。

「ふん、こんな町に流されてしまうなんて、しかも今日の宿もないなんて、本当にみじめだよ。」

母様は涙を流して、またぶつぶつと呟きだした。

母様の言葉は流して、私はオルハウスに行くために馬を進めた。



少女が言った場所に、オルハウスという酒場はあった。
看板は入り口のドアに小さく貼ってあるだけだ。
かろうじて酒場であることがわかる。
それでも窓からは賑わった声が聞こえてくる。

荷馬車と母様には待っていてもらい、酒場のドアを開ける。
カウンターの店主と思われる中年の髭男が目についた。

「いらっしゃい、あんたは?」

髭男は値踏みするように私を見て言った。

「私はシャーロット。ダニエルという男に会いたいのだが。」

単刀直入に切り出してみる。

「ダニエルの知り合いか?」

「いや、もともと王宮の騎兵団の副隊長をやっていたんだが、今日除隊になってこの町に流れてきた。泊まるところがないので困っている。ダニエルという男にどうしたらいいか聞いてみたらいいと、広場で出会った少女に聞いたんだ。」

私は少女に出会った経緯を話した。
ここでダメだったら、もう聞くあても行くあてもなくなる。焦りが強くでてきていた。

「王宮の騎兵団の副隊長様ねえ、なんだか訳ありだね。ダニエルは二階にいるよ。呼んできてやるよ。」

意外にあっさりと髭男は、ダニエルを呼びに動いてくれる。

酒場には、カウンターに数人の男が酒を飲んでいた。
皆、私を見てひそひそと話していた。

数分後に、髭男がダニエルを連れて戻ってくる。

「この女が、お前に用があるってよ。」

そう告げると、髭男はカウンターの中に入って、中断していた酒の準備を始める。

「やあ、俺はダニエル=ケンブリッジ。俺に用があるみたいだけど、会うのは初めてだよね?」

ダニエルは、くせ毛の黒髪に、黒い目、肩幅が広く、長身でがっちりとした野性的な印象だった。

「急にすまない。私はシャーロット=オハラ。どうしようもなくなって、あんたを訪ねてきたんだ。聞いてくれる?」

私は頭を下げて、口を開いた。

ダニエルは私の目をじっと見つめる。数秒くらいだろうが、ダニエルに見つめられる時間がひどく長いように感じられた。

なぜか、彼に見られていると、緊張がとけていくようだった。

「君は貴族なのかな?まあいい。ゆっくり事情を聞こう。」

ダニエルは、気さくな表情で、明るい声で言った。
昨日から立て続けに起こった不幸から、彼の笑顔が一筋の光のように感じられた。





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