【完結】悪役令嬢の純愛

酒酔拳

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第十八話

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 ダリアン王子とミンティア令嬢は、明日、処刑される。その時が、刻々と迫ってきた。

 私はホテルの部屋から、夕暮れを見渡した。38階タワーホテルの最上階だった。陽が沈んでいく街が一望できる。

 一番星だろうか。陽が落ちてもまだうっすらと明るい空に鈍い光が瞬いている。

 ダリアン王子やミンティア令嬢は、かつて私が囚われていた牢に入っている。もはや、空を見上げることもできない。

 私ができることは、何だろう。

 ダリアン王子が謝罪をしたあの日、私はもっと彼に何かをしたかった。責めたかったし、許したかった。そして、黒魔術を使い、彼を助けたかった。

 最後まで、ダリアン王子とミンティア令嬢は愛を貫いた。私が望んだことを、ミンティア令嬢は手に入れたのだ。

 全てに完敗したようだ。黒魔術に手を出してまでダリアン王子への愛を貫こうとした私は、何もできないまま、恋は未消化に終わっていた。

 せめて、最後まであがきたい。

 私は、陽が沈んだのを確認すると、ホテルを出て、アニサスの家に行った。

「え?毒薬を渡したい?」

 アニサスは、私を出迎え、私の話を聞いて目を丸くして声を上げた。

「せめて、2人に楽に死なせてあげたいの。最後のお願いよ。あのときのように、牢まで導いてほしいの」

 私は、自ら作った、苦しまずに即死できる、カリウム製剤を二瓶に入れて作った。私ができる、最後の行動だった。

「、、、、わかったわ」

 アニサスは、何を言っても行くだろうとわかっていた。静かに頷き、出かける準備をしてくれる。

「ごめんなさい。いつも、わがままばかりで。必ず、この借りは返す!」

 私は、アニサスの手を握り、約束をする。

「大丈夫。私も、大切なものをサーラさんから教えてもらっているから」

 アニサスは私の手を握り返して、クスッと笑った。

「大切なもの?科学技術?」

 私は、アニサスの予想していなかった返答に、拍子抜けする。

(もっと、呆れるのかと思ってたのに)

「純愛!」

 アニサスは、優しい笑顔で答えた。

 私は純愛をしているのだと、初めて気づいた。アニサスに教えられる。

「さあ、急ぎましょう」

 アニサスはそう言って、私の手を引いて駆け出した。


 ワクチン開発の報告があると嘘を言い、城内に入りこむと、牢までの道、アニサスは睡眠剤を嗅がせ、次々に門番を眠らせていく。

「1時間程で起きます。そのとき、私たちの記憶は消えているので、大丈夫」

 アニサスは、得意げに言う。

(本当に、頼りになるわ)

 私は頷き、ダリアン王子とミンティア令嬢が囚われている牢へと走った。


 かつて私が囚われた牢に、今はダリアン王子が囚われていた。

 ダリアン王子は牢の中で静かに正座している。無精髭と髪の毛はボサボサ、肌は荒れているのが遠目からもわかる。

 私が牢に近寄ると、ダリアン王子は私に気づき、驚いた表情を見せた。

「サーラ令嬢、どうしてここに?」

「これを渡しにきたの」

 私はそう言い、王子に小瓶を見せた。牢の隙間から渡せそうであった。

「これは?」

「毒薬よ。苦しまず、安楽に死ねるわ」

 そう告げると、私は王子に小瓶を渡そうと隙間から手を入れる。

 しかし、ダリアン王子は、小瓶を受け取ろうとしなかった。

「王子?受け取って?」

 私は懇願するように言った。

「すまない。受け取れない」

「なぜ!?このままでは、火あぶりで苦しまなければいけないのよ?」

「それが、自分が犯した罪の罰だ。受けなければいけない。ミンティアもきっとそう言うだろう」

 ダリアン王子は、真摯な目で私を見つめて言った。

(ああ、私は、そんな王子に、惚れてしまったんだ)

「ミンティア令嬢が、そんなに大切?」

「愛している。私の犯した罪で、不幸にしてしまった」

「私の気持ちは少しもない?」

「すまない。何も言えない。貴方と私は、全く違う場所にいる。きっと、海より遠く離れている」

 ダリアン王子は、無表情で言う。感情はなく、ただ事実のみを伝えているようだった。

 私は王子に近づくために、ワクチン開発の依頼を受けた。王子に罠に嵌められ、ウイルスを注射されても、ダリアン王子が好きで、黒魔術まで考え、ここまでやって来た。

 それなのに、王子にとったら、海より遠く私は離れているという。

 一人芝居をしているようだった。

「酷い人」

 私は、ガラスが割れるように、心が壊れていくのを感じた。

「サーラ令嬢には、本当に悪いことをした。申し訳ない。私のことは忘れて欲しい」

 ダリアン王子は、無感情のまま、ただ言葉を並べて言っていた。

「さようなら」

 私は、それしか言葉が見つからなかった。小瓶をまた鞄に入れて、ダリアン王子に背を向けて走り出した。

 一刻も早く、王子から離れたかった。

 (心が痛い、痛い、痛い、痛い!)

 胸から心臓が爆破し、はり裂けてしまいそうだった。とにかく走って、城から出て、街を駆け抜けた。アニサスは必死に私を追ってくる。
 
 公園に迷い込むと、アニサスが追いついて、心配そうに私を抱きしめた。涙は出なかった。ただ、心が痛かった。

 
 翌日、公開処刑の場に、私は向かった。

 広場には、沢山の人だかりができている。ダリアン王子とミンティア令嬢は、鎖に繋がれている。2人は見つめ合い、2人の世界しか見えていないように感じられた。

 処刑をされるというのに、2人は穏やかで、幸せそうに見える。

「この極悪人に、死刑あれ!」

 処刑人が叫ぶと、大衆から歓声が沸いた。

 ‘’極悪非道!人殺し!早く死ね!‘’

 ‘’地獄に堕ちろ!‘’

 様々な野次が2人に浴びせられても、2人は穏やかな表情を崩さなかった。

 処刑人が油を2人に浴びせ、火をつける。2人は固く手を繋ぎ、離さなかった。

 火が燃えて、ダリアン王子もミンティア令嬢も焼けていく。2人は苦しそうに悶え苦しみだすが、決して手を離すことはなかった。

 2人が焦げていく煙が広場を覆っていく。

 私は、ただ、燃えていく2人を見ていた。

 私の純愛も、焼けて煙になっていくようだった。心の痛みも全て焼けていけば良い。

 煙が舞い上がり始める。

 私は、涙で滲む灰色の煙を見上げる。

(好きでした。ダリアン王子)

                ~完~            
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