【完結】捨てられた姫の行方 〜名高い剣士に育てられ〜

酒酔拳

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 ミネアはタンジア王子の口づけを拒めなかった。

(王子が、私のことを好き?)

 ミネアは、王子の言葉が信じられなかった。だがそれ以上に、今まで剣士として生きてきたミネアは、恋というものが、わからなかった。

「初めて会ったあの夜、私はあなたに恋をした。ミネア、結婚してほしい。」

 タンジア王子は、ミネアの手に口づけて言う。王子の吐息が、指から感じられる。ミネアは、ほぅっと溜め息をついた。

(王子が、私と結婚する?でも、王子には、確か婚約者がいたはず。。) 

 ミネアは、何度か、タンジア王子とユーナ姫が二人で過ごしているところを護衛している。ユーナ姫は、タンジア王子を愛おしそうに見つめ、タンジア王子もそれに応えていた。

 ミネアは、ユーナ姫の幸せそうな表情を思い浮かべ、正気を取り戻した。

「王子には、婚約者のユーナ姫がいらっしゃいます」

 ミネアは、冷静な口調で言った。

 タンジア王子は、痛いところをつかれ、苦しげな表情になる。

「ユーナ姫とは結婚はしない」

「婚約解消ですか?もう、結婚式は、あと1ヶ月になっています。ユーナ姫を裏切り、悲しませるのですか?」

 その口調は冷たく、ミネアの心は、固く閉ざされていた。

「しかし、私が愛しているのは、ミネアだ。真の愛なく結婚しても、ユーナ姫は幸せにはなれない」

 タンジア王子は、ミネアの手を握りしめ、必死の表情で説得する。

「ユーナ姫は、タンジア王子を愛しています。タンジア王子のために、我が国を離れ、アリシア王国まで来たのです。その姫が、婚約を破棄されたら、愛もプライドもズタズタに切り裂かれます。きっと、ユーナ姫は、壊れてしまいます。タンジア王子は、それでも良いのですか?」

 ミネアはタンジア王子の握りしめた手を払いのけ、きっぱりと言った。

「それは。。」

 タンジア王子は、問題の大きさに気づき、言葉を濁した。

「私は、ユーナ姫の幸せを壊してまで、自分の幸せをとることはありません。王子も、そうでしょう?」

 ミネアは、口調を和らげ、王子に諭すように聞いた。

 タンジア王子は、婚約破棄が非人道的な行為であることを知り、何も言い返せなくなる。

「う、、む。しかし、私の愛はどうなるのだ」

 タンジア王子は、苦しそうに言い返す。

「私への思いは、一時の気の迷いです。ユーナ姫と結婚をし、子が生まれ、安らかな幸せが愛情となっていきます」

 ミネアはそう言って、タンジア王子に背を向けた。

「やはり、私は、後ろから王子をお守りしています」

(危なかった。剣士は、、やはり影の存在。どんな理由があっても、衣を脱いではいけなかったのだ)

 ミネアは、自分の間違いに気づき、悔しく、恥ずかしかった。

(一瞬でも、ときめいてしまった。自分が愚かしい)

 ミネアは、踵を翻し、王子から離れた。タンジア王子は、離れていくミネアを止めることはできなかった。


 その夜、ミネアは天井からタンジア王子が眠るのを見張りながら、タンジア王子の口づけが頭から離れなかった。初めて女の子扱いをされ、雲のように浮いた気分になってしまった。ミネアは、自分を責める一方で、王子に惹かれてしまう気持ちを、抑えることができなかった。

 ふいに、天井に人の気配がした。

(カリューシャ?!)

 ミネアは、天井裏の闇を睨み、剣を取り、構えた。

「俺だ、ランビーノだ」

 ランビーノの声を聞いた途端に、緊張が解放される。

「お父さんか。驚かさないでよ」

 ミネアは心底安心して言った。

「悪い、悪い。さっき戻って、部屋にいないからここかなと思って」

「ええ。夜は一番危険な時間だから、一時も目が離せないわ」

「しかし、ミネアはいつ寝てるんだ?」

「大丈夫。昼に休んでいるわ」

「それも少しの時間だろ?今夜は、俺が変わるから、ゆっくり休め」

 ランビーノは、ミネアの目の下のくまを見逃さなかった。

「大丈夫よ。それより、カリューシャは見つかったの?」

 ミネアは、タンジア王子から目を離したくなかった。

「いや。何の足取りも掴めなかった。しかしな、ある興味深い話を聞いたんだよ」

 ランビーノは、にやにやと笑い、得意気に話した。
 
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