【完結】癒しの村

酒酔拳

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12.私の居場所

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「よろしくお願いします」

 ミサトの誘いに、私は自然とそう答えていた。境界性人格障害の病気をもつ私が、お世話などできるのか、不安ではあった。

「嬉しいわ。新しい仲間ができた!気を楽にしてね。すぐに慣れるわ」

 ミサトはチャーミングに瞳をくるりと回して言った。

「ここに住まないといけないの?」

 行きがかり上、アキヲの顔が浮かんでく
る。アキヲと離れることに、不安があった。

「佐藤さんの宿に泊まっているのよね。ここからそんなに遠くないから、今のままで、大丈夫よ」

 ミサトは、ニッコリ笑って言う。

「ありがとう。しばらくは、今のところから通うね」

「リサの自由よ」

 ジユウ、という言葉にドキンと胸が高鳴る。今まで、私にはどれほどの自由があったのかと振り返る。

「なかったかもしれない」

「え?」

 ミサトは、怪訝な表情で、私の呟きに反応する。

「自由という言葉を聞いて、今まで私には、自由なんてなかったなと思った」

 今まで、牢の中に閉じ込められているような人生であったことが、走馬灯のように思い出される。

「じゃあ、これから、自由になりましょう」

 ミサトは、優しく微笑んで言う。

「できたら良いわ」

 私は、自由の鐘が頭に鳴ったように思えた。胸がどんどん高鳴っていく。

 ミサトが、力強く頷く。とても、うつ病の人とは思えなかった。

「今日は、もう夕食になるから、また明日来て」

 ミサトがそう言ったので、私は頷き、元来た道を引き返した。

 夕陽が沈む頃だった。山頂辺りであるから、沈む陽も早かった。

 茜色の光が眩しく目に差してくる。

 胸にじわりと夕陽が滲んでくる。風がふわりと髪を揺らす。

 草原に陽が落ちていく、その風景が美しいと感じられる。景色が美しいと感じることが、初めての経験だと気づいた。

 宿に帰ると、ナミが玄関まで迎えてくれる。

「よく帰る時間わかったね」

「うん、お姉ちゃんの足音、聞こえてきたから」

 ナミは私の靴を玄関に並べ、整えてくれる。

「遠くから聞こえるの?」

「うん、目が見えないから、耳は良いの。あと、勘も良いの。お母さんが、言ってた」

 ナミは、白い歯を見せて笑う。あどけない少女のように見える。

「すごいね。人が聞こえない音が、聞こえるなんて」

「うん、褒めてくれてありがとう。だから、お姉ちゃん好き。夜ご飯、できてるから来て」

 ナミは、少し照れたように頬をピンク色に染めて、囲炉裏部屋へと先に歩いて行く。

 私はナミの後ろについて、囲炉裏部屋に行く。

 囲炉裏部屋には、アキヲが先に座って、昨日と同じように、鍋を食べていた。

 アキヲは私を見ると、そっけなく顔を背ける。

「おかえり。先に食べてるよ」

 アキヲは鍋から、もう一杯よそいながら言った。

 私はアキヲの隣に座る。ナミが皿に鍋の具材をよそってくれる。

「今日は、キノコ鍋だよ」

 ナミは、私に箸をのせて、皿を渡してくれる。皿には、エノキにしめじ、シイタケが白菜と煮込まれいた。

「この先の草原で暮らしている人たちのところに行ってきたよ」

 私は、キノコを頬張りながら、先程のサトミや重度障害をもつ人たちのことを話し始める。

 キノコ鍋は、和風出汁の味が染みて、あっさりとしている。歩いてお腹もすいていたようで、どんどんと口に入っていく。

「そこだけ、電気が通ってる?」

 アキヲは、小屋に電気が通っていることに驚き、声をあげた。
 



 
 
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