【完結】癒しの村

酒酔拳

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13.アキヲの疑問

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「うん。人工呼吸器や酸素も電気で動いていたよ」

 私は頷いて、草原の家で見たもの、聞いたものを話す。

「おかしくないか?」

 アキヲは、訝しげに眉間に皺を作って、不審そうに私に問いかける。

「何が?」

「この村は、自給自足で金という流通がない。村に金がないはずなのに、人工呼吸器の稼働費用や酸素代、電気代、もろもろその施設には金がかかっている」

 アキヲは、皿に盛られた具材に視点を集中させ、深く考えるように顎に手を当てる。

「そうね、どこからお金がでてるのか、不思議ね。人工呼吸器や酸素、それに吸引セットもあったわ。けっこうなお金がかかるわよね」

 確かに言われてみれば、アキヲの言う通りに思え、私は頷いて言う。

「そうだろ?それに、重症心身障害児は、脳性麻痺であることが多い。生きるために、薬代もかなりかかる。常に医師に診てもらわないと生きられないはずだ」

 アキヲは、自分に言い聞かすように話した。

「そうなの?アキヲ、詳しいのね。でも、医師は見かけなかったけど」

 もしかしたらどこか別の部屋にいたのかもしれない。明日、ミサトに聞いてみようと、私は考える。

「この村は怪しい。多額の金をどこかで生み出しているはずだが、正統法でそんな方法が、あるはずない」

「じゃあ、犯罪とか?」

「どうだろう。まだこの村に来たばかりだ。探ってみないといけないな」

 アキヲはそう言うと、ちらっとナミを見て、また箸を動かし始めた。

「ハンザイってなに?」

 ずっと黙って座っていたナミが、ぽつりと口を開く。

「犯罪はね、法律で禁止されてること。簡単に言うと、悪いことをするっていうことよ」

 私は、ナミの反応を伺いながら答える。

「ナミのまわりに、悪いことする人いないよ」

 ナミは、無表情で言った。白い肌と黒髪が日本人形のように映る。

「そうね。きっと考えすぎよね。変なこと話してごめんね」

 ナミの無表情な顔に不気味なものを感じ、背筋がゾクッとする。

 しばらく三人で囲炉裏を囲み、私とアキヲは黙々と皿に盛られた、シイタケ、エノキ、ハクサイなどの野菜を口に入れる。

 もくもくと鍋から吹き出る湯気が、目に染みて入る。

「明日から、私、草原の家に通うね。ミクちゃんやケイコさんのお世話をするの」

 あらかた鍋を食べ終えると、私はアキヲのほうを向いて言った。

「そう、働く先を見つけたんだな」

 アキヲは、そっけない口調で言った。

「アキヲはどうするの?」

 私は、アキヲの顔色を見ながら聞く。

「まだわからないけど、畑作業を明日見に行ってみるよ。ルールだからね、仕方ないな」

 アキヲは溜め息をついて言った。

「私、当分はこの宿から通うからね」

「好きにしたらいいよ」

 アキヲは特に嫌がりもせずにそう言った。私は、アキヲに受け入れられたように感じられ、じんわりと心が和む。

 アキヲの面長な顔に、太い眉根、切れ長の目。ひょろっと長い手足。言葉は少ないが、意見をしっかり主張できるところに、引っ張られる。

 その夜、それぞれの布団に入ると、アキヲは静かに私に話しかけてきた。

「草原の家を探るんだ」

「さぐる?さっきの話の続き?」

「そうだ。この癒しの村には、きっと秘密がある」

「でも、草原の家の何を探るの?」

「どんな設備があるのかと、どんな人が家に出入りしているのか、まずはそれを探ってくれ。怪しそうなものを見たり聞いたりしたら、すぐに言ってくれ」

 アキヲは暗闇に呟くように話した。

 私は、アキヲの人を引っ張っていく力にはあがなえなかった。

「わかった。できる範囲でやってみる」

 私は頷きながらも、なぜアキヲは、癒しの村に対して反抗するようなことをするのだろう、と疑問に思いながら目を閉じた。






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