癒しの村

Yuri1980

文字の大きさ
上 下
20 / 34

19.麻薬を栽培しているの?

しおりを挟む
 アキヲが立ち止まった場所は、紗羅さんのいる教会だった。

 二人とも、息が荒く、呼吸を整えるまで、だいぶ時間がかかった。

「ねえ、あの人工的な畑みたいの、なんだろう?それに、荷車を引いていた人、山の麓の寺にいた、僧侶さんだった」

 私は、呼吸が整い、心拍数が落ち着いてくると、堰を切ったようにアキヲに向かって、口火を切った。

「ただの野菜を植えている感じではなかった。見たことのない花や、苗木、草木が植えられていた」

 アキヲは、頭をフル回転するかのように、眉間に力を入れ、目を細める。

「まるで、秘密の花園ね。外からは、森の入り口があるようにしか、見えなかった」

「ああ、明らかに、秘密にしなければいけないものを作っているんだ。人には知らせてはいけないものをね」

「人には、知られてはいけないもの?」

「そう。たとえば、麻薬とかね」

「麻薬?」

 アキヲの口からでた言葉に、心臓が飛び出てしまうと思うくらい、強い衝動を受けた。

「そうだよ。麻薬は、けしの花が原材料になる。そのほか、クワなど、草木が大麻の原料になるものもある。この奥深い山の上の村なら、見つかることはない。僧侶が荷車を引いていたから、山の麓の寺が、麻薬の密売を仲介している可能性がある」

 アキヲは、ゆっくりと吟味するように話しを続ける。

「この癒しの村は、麻薬の密売組織ってことなの?」

 私は、冷静な自分を呼び戻すように、深呼吸をしてから言葉を放った。

「その可能性はある。孤児や障害児を助けているように見えて、それを隠れ蓑にして、金を儲けているのかもしれない」

 アキヲは青ざめた顔で頷く。

 これ以上の言葉が出なかった。ミサトや田辺さんは、どこまで知っているのだろうか、紗羅さんの目的は何であるのか、私とアキヲは麻薬の密売を手伝わされているのか、頭の中でぐるぐると疑問が渦巻いてくる。

 アキヲが、また何かを口にしようとしたとき、背後に影があらわれた。

 (だれ?!見つかった?!)

「あら、リサさんに、アキヲさん、おはようございます」

 と、声をかけてきたのは、真っ白な修道衣を来た紗羅さんだった。

「おはようございます」

 私は安堵した瞬間、あわてて笑顔を作って挨拶を返す。

 アキヲもほっとしたように、会釈をしてから挨拶をする。

「今日は、村人全員が集まる、ミサの日を知ってくれていたんですね」

 紗羅さんは、嬉しそうに笑みをたたえ、神に祈るように左右の掌を合わせる。

「はい、昨日畑で仲間たちに聞いたから、今日は早く起きて来たんです。もう始まりますか?」

 アキヲは、咄嗟の機転で話を合わせ始めた。アキヲの目が、私に合わせるようにと促しているのがわかる。

「そうなんです、初めてだから、緊張しています」

 私もアキヲに合わせて、緊張をしている振りをして、心臓に手を合わせて、言った。

「もうそろそろみなさん、そろいます。まもなく、ミサは始まります」

 紗羅さんは、慈悲深い表情を浮かべ、囁くように言った。
しおりを挟む

処理中です...