カグヤの世界 ~とある世界の現在進行回顧録

尾木洛

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石化の少女

ジュン 1

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「力が欲しいか?」

 変なおじさんに声をかけられた。


 ジュンの朝は早い。
 毎日、赤みがかった髪を、ポニーテールにまとめ、きっちり制服で登校する。そして、委員長たるものと、花瓶の水を替え、天気が良ければ窓を開け、教室の空気を入れ替える。時には、みんなの机を拭いてまわることだってある。
 ジュンは、とっても良い子なのである。

 今日も、いつもと同じように気合を入れて家を出た。

 夜更けから降り出した雨もすっかり上がって、空は青く晴れ渡っている。あちこちにできた水たまりが、陽の光を反射してキラキラ輝いている。頬を撫でる風が心地いい。

 良い一日になりそうだ、そう思っていたのに。

 通学の途上、変なおじさんに声をかけられた。

 とっても嫌な予感がした。
 なにが嫌かって、その変なおじさん、なんだか見たことがあるような気がするのだ。

 猛烈に、壮大に嫌な予感がした。

「力が欲しいか?
 力が欲しいなら・・・・、くれてやるぞ?」

「あの・・・・」

「どうした?
 力が、欲しくないのか?」

「なにやってんですか?」

「なにとは、滑稽な。
 われは、お前に、力を・・・・」

「カグヤのおじいさん」

「だ、だれのことかな、そ、それは・・・・。
 君とは、初対面・・・・」

「ついにボケましたか。
 おばあさんに通報しますよ?」

「ま、待ちたまえ。
 私は、正義のダンディタキシード男爵。
 いらぬ心配は不要だ!」

「ダンディタキシードって、タキシードすら着てないじゃないですか。
 ベネチアンマスクねずみ男ですよ、せいぜい、それじゃ」

「し、失礼な・・・・」

「私、目の前の人が知らない人だったらいいのにと、こんなに強く思ったことないです。」

「わ、私は、ダンディタキシード男爵・・・・」

「わかりました。
 とりあえず、それでいいです。
 それで話を進めましょう。
 こんな恥ずかしい人と話しているところ、知らない人に見られたくありません。
 知ってる人には、もっと見られたくありません。
 とりあえず、それでいいので、話を進めてください。
 いったい何がしたいんですか?」

「だ、だから、力は欲しくないかと聞いている」

「どうして?」

「昨日、うちのチヨが、ご迷惑をかけたと聞いた。
だから、力の均衡をとるために、おまえに新たなる力を授けようと考えたのだ」

「バランスをとる方向性が、ちょっと違うと思う・・・・」

「聞くがいい。
 鬼道を起源とするおまえの家系は、代々、優れた口寄せ巫女や霊媒師を輩出してきた。
 おまえは、まだ幼く、その能力に目覚めてはいない。
 が、いずれは、八百万の神々や英霊の魂を現世に降ろし、その御霊をその身に宿すことで、神の持つ能力を己の力として使役することができるようになるだろう」

「おーい、何言ってんだか、全然わかんないぞ~」

「しからば、我が、その神降ろしの能力を目覚めさせる手助けをしてやろうというわけだ」

「だめだ、自分の言葉に酔って、世間の声が全然聞こえていない・・・・」

「よかろう。
 これを、この神具をお前に授けよう」

「ん、これはぁ・・・? 
 12色ボールペン?」

「ちがーう!
 これは、カプセルに内蔵された超小型プラズマスパーク核融合装置と、そのコントローラーによって・・・・」

「簡単に言うと?」

「あ、ここの赤いボタンをポチッと押すとパッと光って、英霊の能力得ることができる・・・・」

「ん。わかった。
 遅刻しちゃうといけないから。
 それじゃ、またね」

「え・・・・、あの、まだ説明が終わってないんだけど・・・・」


 ようやく逃げられたと、ジュンは足早に学校に向かう。

 あんな恥ずかしい格好で、ふらふらと村を徘徊しないよう、あとでおばあさんに通報しておこう。

 ひとまず、もらったカプセルは、制服のポケットのなかに押し込んでおくことにした。

 少し急がないと、本当に遅刻してしまいそうだ。



**************

放課後。

 それにしても、あの変なおじさ・・・・いや、カグヤのおじいさんは、いずれは、私が神の力を使えるようになる、そんなことを言っていた。

 力のことは、いまは、どうでもいい。

 もし、本当に神様がこの世に存在するのならば、助けてほしいことは他にある。
 叶えてほしい願いは、他にある。

 本当にどうにかできるものなら、本当にどうにかして欲しい。

 そんなことを、あれから、昼休みも、午後の授業の間もずっと考えていた。

 考えても、どうにもならないとわかっていることを、ずっと考え、悩んでいた。

 ・・・・と言うのに。

「お~い。ちょっとそこのカグヤさ~んに、おチヨさ~ん。
 ど・こ・に、行くのかな~?
 今週は、あなたたち、掃除当番だと、こないだ、言ったよねぇぇぇえ?」

 まったく、この二人は、油断も隙もあったもんじゃない。
 おちおち、悩んでいることもできないわぁ・・・・。

「ちぇ~、みつかってしまったかぁ~」

「おのれ、委員長。
 お嬢の行く手を阻むというなら、このチヨが、お相手申すっ!」

 あ。
 また、この展開かぁ。


 チヨは、昨日と同じ青緑色のカプセルをジュンに向かって放り投げる。

「頼むぞっ!ミクルス!」

 青緑色のカプセルは、ポンとはじけて、四本角のずんぐりむっくりが姿をあらわした。

 間髪おかず、怪獣は、ジュンにむかって突進する。

 しかし、ジュンは、間合いに入るや否や、怪獣の大きな角をつかみ、そして、右後方に軽くいなす。

 突進の軌道を変えられた怪獣は、とっさに向きを変えることができない。

 数歩進んだ後、机の角に頭をぶつけ、しばらく悶絶した後、ポンと青緑色のカプセルに戻ってしまった。

「学習能力、無いみたいね・・・・」

「おのれ、猪口才な!」

 ちょざいなって、そんな単語を口にする小学生、初めて見たわ・・・・。
 はいはい、それじゃ、掃除始めましょうか。
 いっしょに、手伝ってあげる・・か・・・・ら?

「まだまだ、勝負はこれからさっ!」

 チヨは、続けて、ボックスから赤いカプセル取り出し、ジュンに向かって放り投げる。

「いけっ!ウインドム!」

 赤いカプセルは、ポンとはじけると、そこからメタリックカラーの怪獣が登場した。

 先ほどの怪獣ミクルスと比べれば、ずいぶんすらっとしているが、首から上が妙に長くて、これはこれで、バランスが悪そうにみえる。

 くの字に曲げた両腕を交互に2、3度、機械的に上下させた後、ウインドムは、2歩進んで、ジュンに正対した。

 先手必勝!
 ジュンは、怪獣に向かって、一歩踏み出す。

 間髪おかずウインドムは、額の赤い発光部からビームを放った。

 とっさにそのビームを避けるジュン。

「あっぶな・・・・」

 しかし、息をつく暇もなく、怪獣はビームを連射してくる。

 ジュンは、教室内を縦横に移動しながら、そのビームをなんとか避け続ける。

「チヨっ!危ないじゃないのっ!
 ちょっとなんとかしなさいよっ!」

 息を切らせながら、二人の方に視線を向けると、

「あばばばば・・・・」

 チヨとカグヤは、ビームを被弾し、床に打ち臥していた。

「からだがしびれて、うごけない・・・・」

「制御できないもの、召喚するんじゃないわよっ!」

 と、言ってはみたものの、このままではジリ貧である。

 それでも、反撃を狙いつつ、何度かビームをかわしてはいるが、そろそろ、体力の限界が近い。

 これまでか・・・・という思いが頭をよぎった瞬間、あることに気が付いた。

 相手の動きに呼応して、ビームを発射している?

 ジュンは、机を盾にしつつ、動きを止めてみる。
 ・・・・ビームは発射されない。思ったとおりだ。

 ほっと一息ついたものの、ジリ貧状態は変わらない。

 もし、教室にだれか戻ってこようものなら、それこそ大惨事である。

 ・・・・力が欲しいか?

 朝の変なおじさんの言葉が脳裏をよぎる。

 ・・・・力が欲しいか?
 ならば、くれてやろう。

 朝、もらったカプセルは、制服のポケットの中にある。

 ええい、ままよっ。

 藁にもすがる思いで、ポケットからカプセルを取り出すと、それを天にかざし、赤いボタンを押す。

 瞬間、カプセルは閃光を放ち、ジュンは白い光につつまれる。

「ダアッ!」

 机の上に仁王立ちになったジュンは、姿こそ制服姿のままであったが、その色は赤と白のツートンカラーに変化しており、胸には青色のタイマーが輝いている。
 光の戦士がそこにいた。



 ジュンの姿に気が付いた怪獣は、身構え、額からビームを放とうとする。

 が、ジュンは、それよりも早く左右の手を十字にクロスさせる。

「スペース光線!」

 垂直に立てた右手の側面から、白色の光線が放たれる。

 光線は、ウインドムの額を直撃。

 怪獣は、もんどりうって倒れると
 ちゅどーん!!
 と爆散してしまった。

「ま、まだまだ」

 痺れた体を引きずって、チヨは、次のカプセルを放りなげる。

「やれっ、バルンチョ!」

 ポンとカプセルがはじけ、怪獣が姿を現す。

 まだ、やんのかい・・・・と、思いつつも、少し楽しくなってきてたジュン。
 両手を差し出し、怪獣に向かって身構える。

 現れた怪獣は、ザリガニのような大きなハサミ状の手を持ったバルンチョを着たような容姿で、頭には太い触角のようなV字の角が生えている。
 そして時折、ハサミ状の両腕を上げて手を揺らしては、フォッフォッフォッフォッフォッと笑い声のような低い音声を放つ。

「キエテ、コシ、キレキレテ」
 突然、怪獣は語り始めた。

「おお、いけない。君に、宇宙語は、まだ難しいようだ。君の星の、君の国の言葉で話そう。
 我々は、バルンチョ星人。
 我々が、君たちの住む惑星に来た目的は、我々が乗る宇宙船の修理のためだ。
 我々の故郷であるバルンチョ星は、すでにない。
 ある狂信的な支配者の暴走により、我々の故郷、バルンチョ星は爆発してしまった。
 幸いにも難を逃れた我々20億3千万の仲間は、仕方なく生存のできる天体を求め、宇宙を旅している。
 あいにく、この地球の近くで宇宙船の重力バランスが狂ってしまった、修理をする必要が生じたのだ。
 しかし、我々は、この星が気に入った。
 この星は、我々がいただく。
 我々20億3千万のバルンチョ星人の第二の故郷とするのだ。
 ・・・・という設定だ」

「設定ねぇ・・・・。
 言ってることはわからなくもないけど・・・・。
 この星ではなく、隣の星、例えば火星に移住するという設定では、ダメだったの?」

 真面目に怪獣の語りに対応するジュン。
 まったく付き合いの良い人である。

「火星はだめだ。
 我々の弱点であるスペース光線を含む放射線を放出する鉱石が多くありすぎる」

「あ、スペース光線が弱点なんだ」

「ああ。
 生命、わからない。生命とは何か?」

 と、わけのわからないことをつぶやくと、バルンチョ星人は、ジュンに向かって攻撃を始めた。

「いったい、なんなのよ、こいつはっ!」

 バルンチョ星人のハサミから繰り出される光線をよけながら、ジュンは反撃の隙を伺う。

 再び、バルンチョ星人は、ハサミ状の両腕を上げて手を揺らし、フォッフォッフォッフォッフォッと低い音声を放ったかと思うと左右に2体、3体・・・と分身を始めた。

「スペース光線!」

 これは厄介と、ジュンは左右の手を十字にクロスさせ、スペース光線を放つ。

 スペース光線が弱点、というのは事実だったようで、スペース光線を浴びたバルンチョ星人は、1体、1体と簡単にその姿を消していく。

 だが、バルンチョ星人は、残り数体となったところで、突然青い光を帯びたかと思うと、100体ほどの手のひらサイズに分裂し、空中を舞い始めた。
 そして、分裂した各々が、両腕のハサミから光線を発射し、攻撃を仕掛けてくる。

「しゅわっ!」

 たまらず、ジュンは、身体の周りに光波バリヤーを展開し、防御を固めた。

 小型化したせいか、手数は多いものの、バルンチョ星人光線そのものの威力は落ちていて、光波バリヤーで十二分にその攻撃は凌げそうである。

「チヨっ!いい加減にしなさいよっ!」

バルンチョ星人の攻撃を凌ぎつつ、ジュンは、二人の方に視線を向ける。

「あばばばば・・・・」

チヨとカグヤは、ビームを被弾し、床に打ち臥していた。

「ううっ・・・。身体が、凍って、うごけない・・・・」

「だから、なんで、あんたらがやられているのよっ!」

 しかし、このままでは、埒が明かないと考えたのか、小型のバルンチョ星人は、再集結をし、もとの大きさに戻り始めた。

 高威力の光線を放ち、勝負にけりをつける考えのようだ。

「でゅわっ!」

 チャンスとばかりに、ジュンは、バリアを解き、スペース光線を発射する。

 スペース光線がバルンチョ星人に到達し、勝負あったかと思われた瞬間、バルンチョ星人は、胸にスペルゲン反射鏡を展開し、スペース光線をジュンに向かってはね返した。

「だああっ!」

 反射されたスペース光線をもろに浴び、ジュンは吹っ飛び、床に打ち倒れる。

 バルンチョ星人は、ハサミ状の両腕を上げて手を揺らし、フォッフォッフォッフォッフォッと低い音声をあげた。

「よ、よくもやってくれたわね・・・・」

 ジュンは、よろよろと起き上がると、片膝をついてバルンチョ星人に向き直る。

 ふらついてはいるが、その瞳は怒りに燃えていた。

「あったまにきた・・・・」

 ジュンは、両手を胸の前に水平に構える。
 両手の間に光球が生じ、それは、次第に大きくなり、激しい閃光を放つ。
 光球が十分に成長すると、ジュンは、頭の側方に挙げる。
 そして、光球は、ジュンの右手で激しく回転をはじめ、リング状に変形する。

「ジュン、さ、さすがに、それは、危ないんじゃないかな・・・・」

 怒りで我を忘れているジュンに、その声は届かない。

 ジュンは、バルンチョ星人に向かって右手を振り下ろした。

「八つ裂きスラッシュ!!」

 光輪は、バルンチョ星人にさく裂し、その姿を真っ二つに切り裂いた。

「やった!」

 ・・・・そして、バルンチョ星人を切り裂いた光輪は、いくつかの机をなぎ倒し、教室の窓ガラスを突き破ったあと、校庭を横切り、離れにある校長室に突き刺さる。

「「「あ!」」」

 間髪おかず、空間が裂ける。

「ばってんパ~ンチ!!」

 マジックハンドに取り付けられた赤いボクシンググローブが3つ、裂けた空間から飛び出し、ジュンとカグヤとチヨを痛打する。

 いてて・・・と顔を上げると、そこには白い少女カヤコ。

 何をしていた? の問いに、掃除をしようとしていました、と答えるも、到底信じてもらうこともできず、すぐに教室にやってききた校長先生に、なが~いお説教を受けることに。

 そして、そのあと、教室の机や窓ガラスをカヤコと一緒に直し終わったころには、陽はすっかり西に傾いていた。

 ああ、なんだか散々な一日だったなぁ。
 ジュンは、はぁとひとつ大きなため息をつく。

 でも、大丈夫。
 きっと明日はいい日になるでしょう。


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