【完結】【R18】【BL】ミスティの記憶と悲しみの竜

柚槙ゆみ

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第一章

ルトの目的

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 ミスティは近くに落ちている日記帳に気がついて指差した。

「それ……」

 するとルトがミスティが指差した先の日記帳を拾い、手渡してくれる。ミスティは慌てて日記帳の中を確認して、ふう……と息を吐いた。

(僕がこの人を助けたんだ。僕はどうして外で寝てたんだろう……あ、ああ……)

 日記帳のページを捲りながら、ミスティは滂沱の如く涙を零していた。止まらない涙は、ポタポタと紙面に涙の跡を残す。

「おい、大丈夫か?」

 ルトが心配そうな声で聞いてくるが、ミスティは日記帳に書かれてある事実に胸を痛め、どうしようもなく苦しくなっていた。

「父さんと母さんは、数日前に亡くなったって。それで、あなたを助けたのは僕だと書いてある」

 鼻声で声を震わせながら、昨日やその前の出来事を他人事のように口にした。

「……? そうか。それは……大変だったな」

 ミスティはそっと日記帳を閉じて涙を拭った。見覚えのある字。これを書いたのは自分だ。このルトをいう人を助けたのは自分だというのは本当らしい。

「すみません。僕はミスティ・キーランドといいます。行く当てのない旅をしているようです……」

 日記帳にはそう書いてあったので、また他人ごとのように言う。ルトがますます困惑した顔をするので、ミスティがどうして自身の出来事をよそごとのように話すのかを説明した。

「覚えて……いられないのか」

「そうです。だから、その日あったことをこの新しい日記帳に書くことにしていて……。これまでの日記帳は燃えてなくなってしまったみたいです。ただこの日記帳を見るというのを覚えていたことが、自分でも驚きです」

 目の前の焚き火はすでに消えていて、燃え残った木がパチッと音を立てた。辺りは朝靄がかかっているがお互いの顔が見えるくらいには明るい。夜露で湿った毛布を握りしめ、ミスティは締めつけられるように苦しい胸にその毛布を引き寄せた。

「ルトさんは……どうしてあんなところで倒れていたんですか?」
「ああ、旅の途中で食べるものがなくなって、その……腹が減って……」

 そう言った瞬間、ルトの腹がぎゅるるるる、とものすごい音を立てた。驚いたミスティは大きな目をさらに見開いてルトを見つめる。そして自分の鞄を引き寄せて手を突っ込んだ。

「僕を思ってこの荷物をくださった方が、少しばかり食べ物を入れてくれたんです。パンとチーズなら……」

 紙に包まれた食料を取り出して、ミスティは器用に折りたたみナイフで切り分ける。パンの上にチーズを載せて差し出すと、ルトの視線はそれに釘付けになっていた。

「い、いいのか……?」

 ゴクリと喉を鳴らすルト。はい、と笑顔で腕を伸ばす。それと同時にルトがミスティの手からパンとチーズを奪い取るように持って行った。そして一心不乱に食べ始めたのである。

「そんなに急いだら、喉に詰まりますよ?」
「大丈……うっ!」

 言ったそばからルトが喉に詰まらせる。ミスティは慌てて側まで行くと、背中をトントンと叩いた。

「大丈夫ですか?」

 ルトが小刻みに頭を縦に振り、再びパンに齧りついていた。ミスティは鞄から小さなカップを取り出してそこに水を注いだ。そしてルトの前にそっと差し出す。ルトはカップを受け取ってそれを一気に飲み干した。

「はあ……生き返った」

 パンとチーズを一気に食べ終え、それを水で流し込んだルトはしあわせそうな声音で言う。

「本当に死にかけていたんですね」

 クスクスとミスティが笑うと、笑い事じゃなかったんだ、とルトが照れたように呟いた。

「俺は一人で旅をしている。路銀がなくなって飲み水もなくなって、森を抜ける前に体力の限界が来てしまった。あそこで助けてもらわなければ、獣の餌食になっていただろう」

 真面目な顔で話すルトの視線がフッとミスティに向けられた。魅力的な黒い瞳に見つめられ、ドキッとして反射的に目を逸らした。ミスティが知る中で一番美しい男性ではないかと思う。とはいえ、顔馴染みの村人以外の顔を翌日まで覚えていられないのだから一番かどうかはわからないが。

(黒い瞳に吸い込まれそうな感じがした……)

 妙な胸の高鳴りに、ドキドキする自分の胸を押さえる。

「一人旅の目的地はあるんですか? ルトさんはどこから来られたんです? 一人でどのくらい旅をしているんですか?」

 ミスティが尋ねると、ルトの顔色が曇った。どうしてだろう? と首を傾げると、彼は少し寂しそうに微笑む。

「目的地は、ないんだ」

 そう言ったきり黙ってしまう。もしかしたら聞かれたくないことだったのかもしれない。どうしよう、と迷った末に、ミスティは自分についてまず話すことにした。

「ごめんなさい。僕ばかりたくさん質問してしまって……。あ、じゃあ、僕の話を聞いてくれますか?」

 ミスティは覚えている限り自分のことを話し始めた。ククルド村がどんな場所か、両親がどんなにやさしかったか、そしてミスティは八歳までは普通の子供だったことである。
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