【完結】【R18】【BL】ミスティの記憶と悲しみの竜

柚槙ゆみ

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第二章

キスされた?

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 翌朝、目が冷めたミスティは知らない天井を見つめて瞬きを何度も繰り返していた。

(ここ、どこだ? 自分の部屋じゃない)

 そしてゆっくりと起き上がり、まだ薄暗い部屋の中を見回す。隣のベッドで寝ているのは黒髪の男だ。

「なに、どうなって……日記帳、日記帳はどこ……」

 心臓がバクバクと大きく鳴っている。ミスティは手を震わせながら枕元の日記帳を掴んだ。そして一心不乱に昨日自分が書いた内容を読み始める。ここ数日の出来事があまりにも衝撃的で、声も出せないままだ。

「おはよう。起きたのか」

 隣のベッドで寝ていた男がムクリと起き上がって声をかけてきた。彼はルトだ。日記帳からの情報で見知らぬ人ではないことにホッとした。

「おはよう、ございます。あの、僕はあなたのことを覚えていなくて……すみません」
「いいさ。それは承知の上。そこにも書いてあるだろう?」
「あ、はい……」

「なにか疑問があれば俺が教えるから。なんでも聞いてほしい」
 ベッドから出たルトが窓に近づき、カーテンを開けると思いきや隙間から少し外を覗いてなにかを確認しながら告げてくる。

(なにかすごく警戒しているみたいだけど。このゴロツキって書いてある、このことかな?)

 どうやらルトとミスティは道具屋を出た途端、数名の男たちに追いかけられたらしい。逃げられたのはルトがミスティを抱き上げて屋根を跳んだから、と記されてあった。

(屋根を、跳んだ? どういうことだろう?)

 気になってルトを見やるが、彼は窓の外を入念に警戒している。しかしミスティの視線に気づいたのか、フッとこちらを向いた。

「なにか聞きたいことがあったか?」
「あ、あの、この、屋根を跳んだっていうのは、どういうことでしょうか?」
「それはどんな感じで書いてあるんだ? 少し見てもいいか?」
「はい」

 ルトが手を伸ばしてくるので、ミスティはルトに日記帳を渡した。その日記帳に視線を落としたルトは表情を変えないままページを遡って読んでいた。

「そうだな。道具屋で竜の鱗を換金して、店を出た途端、怪しい男たちに追いかけられた。ここまではわかるんだな?」
「はい。そこに書いてある通りだと思います」
「うん。そのあと、二人で走って逃げたが、ミスティが転びそうだったから俺が抱き上げた。それで高く跳んで住宅の屋根まで上がった。そのあとは屋根伝いに跳んで移動して……」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。跳んだって僕を、抱えて⁉」
「そうだ。俺は黒竜病になってからというもの、身体能力が飛躍的に上がった。その代わり食事も人の何倍も摂らないと持たない。それは日記帳に書いてないようだったな。追加しておくといい」
「はぁ……そうなんですね」

 まるで異国の創作物語を聞かされている気分だった。自分がルトに抱きかかえられて高く跳んだなんて、信じられない。昨日のミスティはどんな気持ちでルトに抱かれていたのだろうか。そのときのことは思い出せない。それが今はとてもつらかった。

(昨日のことを覚えていられないって、こんなにきついんだ)

 この日記を書いて昨日の自分も今と同じように思ったのか、それすらも思い出せない。ミスティは瞳に溜まってくる涙を我慢できずに零してしまった。

「大丈夫か?」
「はい、あの……すみません」

 頬を伝う涙を手の甲で拭うと、目の前にスッと手が伸ばされルトの指先が顎にかかった。なんだろう、とされるがままになっていると、ルトの顔が近づいた。そしてミスティの唇にキスをしてきたのだ。

「泣かなくていい。また明日になったら俺が教えてやる。……このキスのことも明日には忘れてしまうのだろうな」
 切なげにそう言ったルトがミスティの顎から手を離した。ミスティとルトはこういう関係だったのだろうか。日記帳にはなにも書かれていない。

(キス、されたけど、いやじゃないってことは、そういうこと?)

 混乱しつつ濡れた頬を手の甲で拭く。

「その、僕とルトさんは旅の仲間と書いてあるのですが、い、今のは……」
「そうだよ。旅の仲間だ。だから今のは気にしなくていいぞ。驚きすぎて涙も止まっただろう?」

 言われてみればそうだ。唇にキスをするなんて初めてだった。日記帳には書いていないが、昨日までのミスティは経験があるかもしれない。今日の自分は初めてで驚きすぎて、つらい気持ちが一瞬で吹き飛んでしまった。

「この街には換金目的で寄っただけだし、昨日の奴らに見つかっても厄介だ。よし、朝飯は宿を出てからにしよう」
「あ、はいっ」

 ルトが身支度を始めたので、ミスティも日記帳を閉じて急いで出発の準備を始める。とはいえ、ベッドから起きてマントを羽織り、日記帳をバッグに突っ込んだら終わりだ。

「行けるか?」

 部屋の戸口前に立ったルトが振り返って告げてきた。ミスティは「はい」と返事をして小走りで近づく。二人で二階の廊下を階段の方へ進み、ルトが一歩階段を下りたときにその足が止まった。

(どうしたんだろう?)

 すぐ後ろにいたミスティは首を傾げ声をかける。
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