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第三章
意識
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頬に冷たいなにかが当てられて、ミスティは目を覚ました。空が見える。雲が多く青空はほとんど見えなかった。すぐ横に、布を手にしたルトの姿がある。心配そうな顔をしているから、大丈夫だよ、と言おうとして声が出ないことに気づく。
「あ……喉が、へん」
ようやく出た声は掠れていた。ミスティの声を聞いてルトが眉尻を下げて微笑んだ。
「大丈夫か?」
「うん、すごく寝た気がする」
「あれから、丸一日は眠っていた」
「え……っ、そんなに……」
ミスティは体を起こした。かけられてあった毛布が剥がれたとき、自分の衣服の前部分のボタンがほとんど飛んでなくなっていることに気がついた。
(これ、なんで……あ、そうか、僕は昨日……)
寝ぼけていた頭がはっきりして、昨夜の出来事が思い出される。自分はルトとなんて淫らなことをしたのだろうと思った。そろりとルトの顔を見やると、彼はいつもと同じ感じだ。しかし頬や額に黒い鱗化ができていた。これは昨日まではなかったはずである。
「あの……」
「ミスティ、俺がわかるよな?」
焦ったようなルトの口調にミスティは小首を傾げる。
「え、うん。わかる。ルトとずっと旅してるし、今は、ハーザンドに向かってる途中、でしょ?」
普通に返答したが、ミスティは自分の頬が熱くなっているのを感じていた。きっと真っ赤になっているだろう。ルトも気づいていると思うがなにも言ってこなかった。
それよりも、自分の頭の中が妙にクリアな気がしてしかたがない。昨日のこともその前の夜のことも覚えている。ルトが変貌した夜の今日さえも――。
「ルト、昨日の、あれは……少し、その……」
「すまなかった。途中で我を見失った。ミスティは疲れ果てて抵抗ができないのをわかっていたのに、手首を押さえて無理に……してしまった。いやだっただろう……」
しょんぼりと肩を落として俯いているルトは、本当に心から反省しているようだ。確かに昨夜のあれは少々強引だった。待って、やめて、と言ってもルトはやめてくれなかったし、真っ赤な目であの恐ろしい夜を思い出した。
(でも、あのおかげで僕の記憶が戻っている。これまでになく鮮明に……)
キス以上の効果を感じていた。昨日は覚えていなかったということも、今ははっきりと分かるのだ。
「少し、怖かった。けど、でもね、僕全部覚えてるんだ。これまでの旅のことも、キャリンやロドリゲス、トラジの家で本を見たことも。それから……ルトが、変貌しちゃったことも……。あれは、その、おいしくなかったけど、僕には効果があったみたい。だから、もういいんだ」
ミスティの言葉を黙って聞いていたルトが手を伸ばしてくる。頭に触れようとしたようだが、その手は触れる手前で止まった。
「頭ぽんぽん、してくれないの?」
にっこり微笑んで言うと、ルトが驚いた表情を見せたが、そっと頭の上に手が載せられた。ジン……と胸が痺れる。そうされることがどれほどうれしいか、きっとルトは知らない。
「僕の服……これ、もうだめだね」
毛布の上で座っているミスティが、ボロ布の如く引き千切られてしまったボタン部分を指で摘み上げた。
「ああ、悪かった。その、ハーザンドでシャツを買おう。それまで俺のを着てくれていいから。それからさっき、これが取れた。これを売れば食料の調達もできる」
ルトが手のひらになにかを乗せてこちらに腕を伸ばす。視線をそこにやると、キラキラと輝く七色の鱗が三枚もあった。
「あ、すごい……綺麗だ。どうしてこんなに、美しいのかな」
ルトの手のひらから一枚取り空に翳す。日差しがなくても、僅かな光でルトの鱗は彩雲の如く美しくミスティを魅了した。
ミスティはルトのシャツを借りた。長すぎる裾をどうにかズボンの中に突っ込み、指先まで隠れてしまう袖を何度も折り上げる。胸元までボタンを留めても、ミスティの鎖骨は丸見えだった。
(ルトの体格のよさを思い知らされる。僕って本当に細っこいなぁ)
ハーザンドへ向かうために身支度を整えて二人は歩き出す。今日の夕方には街に着くだろうとルトは言う。そして歩き始めて気がついた。彼の歩くスピードが異様に遅いのだ。
(あれ? 昨日は走ってもいいくらいのスピードだったのに……? もしかして僕に合わせてくれてる?)
細い一本道を歩くルトの背中を見ながら歩く。ときどき背後の様子を伺うように振り返ってくる。ちゃんとついてきているか見てくれているのだろう。ルトの気遣いが妙に照れくさかった。
ミスティは歩きながら昨夜のことを思い出す。ルトは強引で、やめてとミスティが言ってもやめてくれなかったが、与えられた快楽は今も体に染みついていた。
(キスよりももっとすごい……あれを、今夜もするのかな?)
想像しただけで体が熱くなる。
あらぬところの違和感が強くなる。
ルトに触られるとどうかなってしまいそうになる。
(でもあれをすると、今日みたいに記憶がクリアになる。キスをするよりもずっと……)
トラジの家で読んだ文献には、竜人族の血液や体液を取り込むことによって効果が出ると書いてあった。昨日、口に入れられたのはきっとルトの精液だろう。
「あ……喉が、へん」
ようやく出た声は掠れていた。ミスティの声を聞いてルトが眉尻を下げて微笑んだ。
「大丈夫か?」
「うん、すごく寝た気がする」
「あれから、丸一日は眠っていた」
「え……っ、そんなに……」
ミスティは体を起こした。かけられてあった毛布が剥がれたとき、自分の衣服の前部分のボタンがほとんど飛んでなくなっていることに気がついた。
(これ、なんで……あ、そうか、僕は昨日……)
寝ぼけていた頭がはっきりして、昨夜の出来事が思い出される。自分はルトとなんて淫らなことをしたのだろうと思った。そろりとルトの顔を見やると、彼はいつもと同じ感じだ。しかし頬や額に黒い鱗化ができていた。これは昨日まではなかったはずである。
「あの……」
「ミスティ、俺がわかるよな?」
焦ったようなルトの口調にミスティは小首を傾げる。
「え、うん。わかる。ルトとずっと旅してるし、今は、ハーザンドに向かってる途中、でしょ?」
普通に返答したが、ミスティは自分の頬が熱くなっているのを感じていた。きっと真っ赤になっているだろう。ルトも気づいていると思うがなにも言ってこなかった。
それよりも、自分の頭の中が妙にクリアな気がしてしかたがない。昨日のこともその前の夜のことも覚えている。ルトが変貌した夜の今日さえも――。
「ルト、昨日の、あれは……少し、その……」
「すまなかった。途中で我を見失った。ミスティは疲れ果てて抵抗ができないのをわかっていたのに、手首を押さえて無理に……してしまった。いやだっただろう……」
しょんぼりと肩を落として俯いているルトは、本当に心から反省しているようだ。確かに昨夜のあれは少々強引だった。待って、やめて、と言ってもルトはやめてくれなかったし、真っ赤な目であの恐ろしい夜を思い出した。
(でも、あのおかげで僕の記憶が戻っている。これまでになく鮮明に……)
キス以上の効果を感じていた。昨日は覚えていなかったということも、今ははっきりと分かるのだ。
「少し、怖かった。けど、でもね、僕全部覚えてるんだ。これまでの旅のことも、キャリンやロドリゲス、トラジの家で本を見たことも。それから……ルトが、変貌しちゃったことも……。あれは、その、おいしくなかったけど、僕には効果があったみたい。だから、もういいんだ」
ミスティの言葉を黙って聞いていたルトが手を伸ばしてくる。頭に触れようとしたようだが、その手は触れる手前で止まった。
「頭ぽんぽん、してくれないの?」
にっこり微笑んで言うと、ルトが驚いた表情を見せたが、そっと頭の上に手が載せられた。ジン……と胸が痺れる。そうされることがどれほどうれしいか、きっとルトは知らない。
「僕の服……これ、もうだめだね」
毛布の上で座っているミスティが、ボロ布の如く引き千切られてしまったボタン部分を指で摘み上げた。
「ああ、悪かった。その、ハーザンドでシャツを買おう。それまで俺のを着てくれていいから。それからさっき、これが取れた。これを売れば食料の調達もできる」
ルトが手のひらになにかを乗せてこちらに腕を伸ばす。視線をそこにやると、キラキラと輝く七色の鱗が三枚もあった。
「あ、すごい……綺麗だ。どうしてこんなに、美しいのかな」
ルトの手のひらから一枚取り空に翳す。日差しがなくても、僅かな光でルトの鱗は彩雲の如く美しくミスティを魅了した。
ミスティはルトのシャツを借りた。長すぎる裾をどうにかズボンの中に突っ込み、指先まで隠れてしまう袖を何度も折り上げる。胸元までボタンを留めても、ミスティの鎖骨は丸見えだった。
(ルトの体格のよさを思い知らされる。僕って本当に細っこいなぁ)
ハーザンドへ向かうために身支度を整えて二人は歩き出す。今日の夕方には街に着くだろうとルトは言う。そして歩き始めて気がついた。彼の歩くスピードが異様に遅いのだ。
(あれ? 昨日は走ってもいいくらいのスピードだったのに……? もしかして僕に合わせてくれてる?)
細い一本道を歩くルトの背中を見ながら歩く。ときどき背後の様子を伺うように振り返ってくる。ちゃんとついてきているか見てくれているのだろう。ルトの気遣いが妙に照れくさかった。
ミスティは歩きながら昨夜のことを思い出す。ルトは強引で、やめてとミスティが言ってもやめてくれなかったが、与えられた快楽は今も体に染みついていた。
(キスよりももっとすごい……あれを、今夜もするのかな?)
想像しただけで体が熱くなる。
あらぬところの違和感が強くなる。
ルトに触られるとどうかなってしまいそうになる。
(でもあれをすると、今日みたいに記憶がクリアになる。キスをするよりもずっと……)
トラジの家で読んだ文献には、竜人族の血液や体液を取り込むことによって効果が出ると書いてあった。昨日、口に入れられたのはきっとルトの精液だろう。
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