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第二章
返事はない
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理亜は丁寧に頭を下げた。それを見た七生が「そっか」と諦めたように自分の後ろのドアを開けてくれる。ドアの先にはコンクリートの上り階段があり、外に繋がっているようだった。
「こっちから出ていいよ。精算分もないしね」
「あ、ありがとうございます。じゃあ、失礼します」
理亜はペコリと頭を下げる。そして壁に右手をついた状態で少しふらつきながらも階段を上っていった。それを見守る七生はもう理亜を引き留めることなくなにも言わなかった。
駅までふらつきながら理亜はなんとか終電に乗り帰宅の途についた。家に帰ってみると、明かりもなく真っ暗だった。案の定、両親は帰っていない。仕事なのかなんなのかはわからないが、スマホに連絡すらない。
(寝てるのか?)
二階の明日香の部屋のドアを静かに開けると、部屋は暗く眠っているようだった。ホッとして理亜は一階に下りて冷蔵庫から飲み物を出して一気に飲み干した。
「ふう……」
失敗したな、と理亜は思った。自分が思った以上にアルコールに弱いことがわかった。あのとき玲央がコーラをよこしたのが正解なのだ。
(玲央、どうしたんだろう)
バイトに入ると連絡をくれたから行ったのに、玲央は行けないからと連絡をくれなかった。
――なんか友菜が大変だからって連絡があったんだ。
玲央は七生には行けないと連絡を入れた。でも理亜にはない。それがどことなく寂しくて、どうしても落ち込んでしまう。玲央からの連絡は翌日になってもなかった。なんとなく気落ちしたまま学校へ行く準備をする。ダイニングテーブルには自分と明日香の分の生活費が置いてあった。
(もう何日も顔を見てないな。お金だけが置いてあるんだから、こんなの一人暮らしと変わらないや)
家の掃除やなんかは週に二度ほど家政婦が入ってやってくれる。理亜たちが学校へ行っている間なので顔を合わせることはない。帰ってきたら家の中は綺麗になっていて冷蔵庫には作り置きのおかずがある。それを見るたびに祖母のことを思い出す。家に帰って来ると明かりが点いていて、食事ができている。おかえり、と声をかけてくれた。ラインの返事だって、わからないと言いながらもしてくれる。ときどき誤字があるのを微笑ましく読むのが好きだった。今でも前ほどじゃないがたまに祖母からはラインが届く。
――今日はお天気ね。お勉強どう?
――またよふかししてない?
そんな普通の内容だ。しかしそれは理亜にどれほど心が救われていたかわからない。その祖母が今は家にいなくて、自宅から離れた施設にいることが寂しかった。
「おはよ」
眠そうにあくびをしながら歩いている中川に声をかける。
「おう、おはよ。あれ、なんか理亜、酒臭くね?」
「え! まじで……? そんなに残ってる?」
自分の口に手を当てて呼気を確認する。なんだか自分ではよくわからなかった。中川が気づくならきっと臭いはしているのだろう。コンビニでミントタブレットでも買うか、と肩を落とす。
「酒臭いってことは、昨日どっかで飲んでたの?」
「あ~うん。パルスで……」
「え~! 誘ってくれたらよかったのに!」
「だって中川は昨日、大学は休んでただろ? なんだっけ、なんかのイベントに行くとか言ってたじゃないか」
「そ、そうだけど~。そんな俺が用事ある日に行くことないじゃんか」
「だって玲央が、今日はバイトに入るからって連絡くれたからさ。なんか断るのも悪いなと思って」
「ああ、そういうことか。前に無料ドリンク券くれたわ。理亜も?」
「うん、もらった。だから行ったんだけど、玲央は休んでていなかったんだよね」
「え、いなかったのか。それなのに一人で飲んでたのか?」
知り合いもいないのに? とそんなことが言いたげな中川の顔だ。理亜が酒飲みじゃないのも、ああいう場所に一人で好き好んで行かないことも知っているからだ。
「うん……なんかさ。玲央の友達に声をかけられてさ……」
七生のことを中川に話している間に、一限目の授業を受ける教室まで来てしまった。話は途中で終わりそのまま大人しく講義を受ける。しかし頭の中ではずっと玲央のことばかりを考えていた。
いつも玲央がいる二階の渡り廊下に姿がなく、そして一階の中庭のベンチにもいなかったので少し心配だった。
(あとでラインしてみよう)
あまり自分からまめにラインをする方じゃなかったが、さすがにこうも連絡がないと心配になる。昨日の夜、七生が言っていた言葉も気になっていたからだ。
講義を終えてすぐに玲央に連絡を入れてみた。
『おはよう。玲央学校に来てる?』
これに対して既読にはなるが返信はなかった。しばらく待ってみようと思い二限目の講義を受けてからまたスマホをチェックする。しかしやはりまだ返事はない。
「応答なしか?」
三号棟の外にあるベンチに中川と座っている理亜は、スマホの画面を見てため息をついていた。玲央に連絡をしているのは中川も知っているから気にしてくれているようだ。
「うん、既読にはなってるけど。体調でも悪いのかな? 今日は学校に来てないみたいだし」
「まあいろいろあるんじゃねぇの? もう少し待ってみたら?」
「……そう、だね」
「こっちから出ていいよ。精算分もないしね」
「あ、ありがとうございます。じゃあ、失礼します」
理亜はペコリと頭を下げる。そして壁に右手をついた状態で少しふらつきながらも階段を上っていった。それを見守る七生はもう理亜を引き留めることなくなにも言わなかった。
駅までふらつきながら理亜はなんとか終電に乗り帰宅の途についた。家に帰ってみると、明かりもなく真っ暗だった。案の定、両親は帰っていない。仕事なのかなんなのかはわからないが、スマホに連絡すらない。
(寝てるのか?)
二階の明日香の部屋のドアを静かに開けると、部屋は暗く眠っているようだった。ホッとして理亜は一階に下りて冷蔵庫から飲み物を出して一気に飲み干した。
「ふう……」
失敗したな、と理亜は思った。自分が思った以上にアルコールに弱いことがわかった。あのとき玲央がコーラをよこしたのが正解なのだ。
(玲央、どうしたんだろう)
バイトに入ると連絡をくれたから行ったのに、玲央は行けないからと連絡をくれなかった。
――なんか友菜が大変だからって連絡があったんだ。
玲央は七生には行けないと連絡を入れた。でも理亜にはない。それがどことなく寂しくて、どうしても落ち込んでしまう。玲央からの連絡は翌日になってもなかった。なんとなく気落ちしたまま学校へ行く準備をする。ダイニングテーブルには自分と明日香の分の生活費が置いてあった。
(もう何日も顔を見てないな。お金だけが置いてあるんだから、こんなの一人暮らしと変わらないや)
家の掃除やなんかは週に二度ほど家政婦が入ってやってくれる。理亜たちが学校へ行っている間なので顔を合わせることはない。帰ってきたら家の中は綺麗になっていて冷蔵庫には作り置きのおかずがある。それを見るたびに祖母のことを思い出す。家に帰って来ると明かりが点いていて、食事ができている。おかえり、と声をかけてくれた。ラインの返事だって、わからないと言いながらもしてくれる。ときどき誤字があるのを微笑ましく読むのが好きだった。今でも前ほどじゃないがたまに祖母からはラインが届く。
――今日はお天気ね。お勉強どう?
――またよふかししてない?
そんな普通の内容だ。しかしそれは理亜にどれほど心が救われていたかわからない。その祖母が今は家にいなくて、自宅から離れた施設にいることが寂しかった。
「おはよ」
眠そうにあくびをしながら歩いている中川に声をかける。
「おう、おはよ。あれ、なんか理亜、酒臭くね?」
「え! まじで……? そんなに残ってる?」
自分の口に手を当てて呼気を確認する。なんだか自分ではよくわからなかった。中川が気づくならきっと臭いはしているのだろう。コンビニでミントタブレットでも買うか、と肩を落とす。
「酒臭いってことは、昨日どっかで飲んでたの?」
「あ~うん。パルスで……」
「え~! 誘ってくれたらよかったのに!」
「だって中川は昨日、大学は休んでただろ? なんだっけ、なんかのイベントに行くとか言ってたじゃないか」
「そ、そうだけど~。そんな俺が用事ある日に行くことないじゃんか」
「だって玲央が、今日はバイトに入るからって連絡くれたからさ。なんか断るのも悪いなと思って」
「ああ、そういうことか。前に無料ドリンク券くれたわ。理亜も?」
「うん、もらった。だから行ったんだけど、玲央は休んでていなかったんだよね」
「え、いなかったのか。それなのに一人で飲んでたのか?」
知り合いもいないのに? とそんなことが言いたげな中川の顔だ。理亜が酒飲みじゃないのも、ああいう場所に一人で好き好んで行かないことも知っているからだ。
「うん……なんかさ。玲央の友達に声をかけられてさ……」
七生のことを中川に話している間に、一限目の授業を受ける教室まで来てしまった。話は途中で終わりそのまま大人しく講義を受ける。しかし頭の中ではずっと玲央のことばかりを考えていた。
いつも玲央がいる二階の渡り廊下に姿がなく、そして一階の中庭のベンチにもいなかったので少し心配だった。
(あとでラインしてみよう)
あまり自分からまめにラインをする方じゃなかったが、さすがにこうも連絡がないと心配になる。昨日の夜、七生が言っていた言葉も気になっていたからだ。
講義を終えてすぐに玲央に連絡を入れてみた。
『おはよう。玲央学校に来てる?』
これに対して既読にはなるが返信はなかった。しばらく待ってみようと思い二限目の講義を受けてからまたスマホをチェックする。しかしやはりまだ返事はない。
「応答なしか?」
三号棟の外にあるベンチに中川と座っている理亜は、スマホの画面を見てため息をついていた。玲央に連絡をしているのは中川も知っているから気にしてくれているようだ。
「うん、既読にはなってるけど。体調でも悪いのかな? 今日は学校に来てないみたいだし」
「まあいろいろあるんじゃねぇの? もう少し待ってみたら?」
「……そう、だね」
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