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第三章
クソオヤジ
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予想外の返答に驚いたが、妹思いなんだなと胸の中が温かくなる。それを考えれば、玲央自身も友菜のこととなるとすべてを犠牲にしているから似たようなものだろう。
「やっぱ俺らって兄貴だよなぁ」
「え? どうしたの? 急に」
理亜がクスクス笑っている。今日、もし友菜が家にいて留守番をしていたら、腹が減ったからと理亜と食事をして帰る提案はしなかっただろう。そう思っての言葉だった。
「いや、兄貴って苦労するよなと思ってさ」
「ああ、そうかも」
お互いの妹の話をしている間に駅に到着した。そのまま夕食は摂らないで帰ると決断をして電車に乗る。車内でも理亜との話題は妹のことかRYDEのことばかりだ。
初めは周りにRYDEのライブ帰りとわかるような人がたくさんいたが、今は首からタオルをかけているのは車内に理亜と玲央だけだ。
「俺、次の駅だ」
「おう、じゃあな」
電車が停まり理亜が下車していった。最後まで笑顔で、電車が出発するまで駅のホームで手を降っていた。そういうところがなんともいじらしくたまらないと思う。
電車がスピードを上げて走り始め、理亜の姿が見えなくなった。振っていた手を太ももに下ろす。その手をじっと見つめて、誰かにこうして手を降ったのは久しぶりだということに気がついた。
(これってどういう気持なんだ?)
ライブの最中に理亜に抱きついてしまった。そのことに関して理亜は一切なにも言わなくて聞いてこなかった。聞かれたらなんと答えたのか、玲央自身にもわからない。今の気持ちをどう言葉にして、どんな名前をつければいいのだろうか。
(今は理亜と楽しんだライブの余韻に浸っていたい……)
最近は友菜のことが落ち着いているので、明日から大学には行けそうだ。ここのところずっとあの義父から友菜を守ることに神経を使っていたので疲れている。
玲央は目を閉じて上を向いて脱力した。しかしそんな心の和む時間は長くは続かなかった。ポケットに入っているスマホがメッセージの受信をバイブレーションで知らせてきたのだ。いつものようにスマホを取り出してメッセージを確認する。
「は?」
玲央は思わず声を上げた。メッセージを送ってきた相手は友菜だ。
『お兄ちゃん、今、家に帰ってきたんだけど、うちに、義父さんが来てる。お願い、帰ってきて』
いつもはもっと絵文字を使った読みにくいメッセージを送ってくるのに、今日は文字だけだ。それがどれほど友菜に危機が迫っているかがわかる。
「あのクソオヤジ……」
玲央は立ち上がって人の少ない車両に移動した。そこで構わず友菜に電話をかける。
「もしもし、友菜? 大丈夫か?」
『大丈夫じゃない……だって外から、ドア叩いてて……怖い』
「ぜってー開けんなよ? もしも帰らないようなら警察に電話しろ」
『だ、だめだよ。そしたらいろいろ聞かれるもん。ママの再婚相手で義父だってわかったらすぐに釈放されるでしょ? そしたらあたし、なに、されるか……わかんない……』
友菜と電話をしている最中も、ドアをドンドン叩く音が聞こえてくる。すぐに駆けつけたいが、帰宅までまだ三十分はかかるだろう。
「わかった。じゃあ、ドアチェーンは外すな。なにがあっても入れるんじゃないぞ?」
『わかってる……わかってる……だから早く帰ってきて……』
電話口でなく友菜を玲央はずっと電話を切らずに励まし続けた。
玲央が家に帰ってきたときマンションの前にパトカーが停まっていてヒヤッとしたが、友菜が『マンションの誰かが通報したみたい』と言っていたので「これか」と落胆する。
パトカーの車の後部座席に義父の姿を見つけたが、玲央は他人のふりで無視してマンションに入った。家に帰り着くと友菜が泣きながら抱きついてきた。どうやら義父はかなり酔っていたようだ。
しかし友菜の家に玲央が帰ってきたことで、ドアを叩き続けられた経緯を聞かれることになった。
「友菜、お前のことは言わないから大丈夫だ」
そう言って外に出て、警察官に事情を話した。とりあえず義父だが、交流はなくむしろソリが合わなくて縁切りしたいので、と話すと酔っ払いの迷惑行為として処理してもらえるようだった。
ひと通りの説明を終えて帰って来ると、友菜は落ち着いていたが不安そうな顔をしていた。
「大丈夫か?」
「そんなわけない」
涙声の友菜は目元を真っ赤にしていた。帰ってきてすぐだったのか、メイクも落とさないままの状態だったのでマスカラもなにもかもが涙で流れて大変なことになっている。
「だよな。顔、洗ってこいよ」
「……ん」
グズグズと鼻を啜りながら友菜は洗面所に入っていく。
ワンルームの部屋にはベッドとテレビと小さな本棚。ローテーブルがひとつあるだけのシンプルなものだった。しかし友菜が転がり込んできてから、部屋の中はなにかとカラフルになっている。テレビの横にはピンクの変な顔のウサギのぬいぐるみが置かれ、唯一勉強するのに使っていたテーブルにはメイク道具が散乱していた。
洋服をかけてあるラックには、派手なシャツとジーンズしかなかったはずなのに、今はそれが端に寄せられて下がっているのはほとんどが友菜の服だ。
「やっぱ俺らって兄貴だよなぁ」
「え? どうしたの? 急に」
理亜がクスクス笑っている。今日、もし友菜が家にいて留守番をしていたら、腹が減ったからと理亜と食事をして帰る提案はしなかっただろう。そう思っての言葉だった。
「いや、兄貴って苦労するよなと思ってさ」
「ああ、そうかも」
お互いの妹の話をしている間に駅に到着した。そのまま夕食は摂らないで帰ると決断をして電車に乗る。車内でも理亜との話題は妹のことかRYDEのことばかりだ。
初めは周りにRYDEのライブ帰りとわかるような人がたくさんいたが、今は首からタオルをかけているのは車内に理亜と玲央だけだ。
「俺、次の駅だ」
「おう、じゃあな」
電車が停まり理亜が下車していった。最後まで笑顔で、電車が出発するまで駅のホームで手を降っていた。そういうところがなんともいじらしくたまらないと思う。
電車がスピードを上げて走り始め、理亜の姿が見えなくなった。振っていた手を太ももに下ろす。その手をじっと見つめて、誰かにこうして手を降ったのは久しぶりだということに気がついた。
(これってどういう気持なんだ?)
ライブの最中に理亜に抱きついてしまった。そのことに関して理亜は一切なにも言わなくて聞いてこなかった。聞かれたらなんと答えたのか、玲央自身にもわからない。今の気持ちをどう言葉にして、どんな名前をつければいいのだろうか。
(今は理亜と楽しんだライブの余韻に浸っていたい……)
最近は友菜のことが落ち着いているので、明日から大学には行けそうだ。ここのところずっとあの義父から友菜を守ることに神経を使っていたので疲れている。
玲央は目を閉じて上を向いて脱力した。しかしそんな心の和む時間は長くは続かなかった。ポケットに入っているスマホがメッセージの受信をバイブレーションで知らせてきたのだ。いつものようにスマホを取り出してメッセージを確認する。
「は?」
玲央は思わず声を上げた。メッセージを送ってきた相手は友菜だ。
『お兄ちゃん、今、家に帰ってきたんだけど、うちに、義父さんが来てる。お願い、帰ってきて』
いつもはもっと絵文字を使った読みにくいメッセージを送ってくるのに、今日は文字だけだ。それがどれほど友菜に危機が迫っているかがわかる。
「あのクソオヤジ……」
玲央は立ち上がって人の少ない車両に移動した。そこで構わず友菜に電話をかける。
「もしもし、友菜? 大丈夫か?」
『大丈夫じゃない……だって外から、ドア叩いてて……怖い』
「ぜってー開けんなよ? もしも帰らないようなら警察に電話しろ」
『だ、だめだよ。そしたらいろいろ聞かれるもん。ママの再婚相手で義父だってわかったらすぐに釈放されるでしょ? そしたらあたし、なに、されるか……わかんない……』
友菜と電話をしている最中も、ドアをドンドン叩く音が聞こえてくる。すぐに駆けつけたいが、帰宅までまだ三十分はかかるだろう。
「わかった。じゃあ、ドアチェーンは外すな。なにがあっても入れるんじゃないぞ?」
『わかってる……わかってる……だから早く帰ってきて……』
電話口でなく友菜を玲央はずっと電話を切らずに励まし続けた。
玲央が家に帰ってきたときマンションの前にパトカーが停まっていてヒヤッとしたが、友菜が『マンションの誰かが通報したみたい』と言っていたので「これか」と落胆する。
パトカーの車の後部座席に義父の姿を見つけたが、玲央は他人のふりで無視してマンションに入った。家に帰り着くと友菜が泣きながら抱きついてきた。どうやら義父はかなり酔っていたようだ。
しかし友菜の家に玲央が帰ってきたことで、ドアを叩き続けられた経緯を聞かれることになった。
「友菜、お前のことは言わないから大丈夫だ」
そう言って外に出て、警察官に事情を話した。とりあえず義父だが、交流はなくむしろソリが合わなくて縁切りしたいので、と話すと酔っ払いの迷惑行為として処理してもらえるようだった。
ひと通りの説明を終えて帰って来ると、友菜は落ち着いていたが不安そうな顔をしていた。
「大丈夫か?」
「そんなわけない」
涙声の友菜は目元を真っ赤にしていた。帰ってきてすぐだったのか、メイクも落とさないままの状態だったのでマスカラもなにもかもが涙で流れて大変なことになっている。
「だよな。顔、洗ってこいよ」
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グズグズと鼻を啜りながら友菜は洗面所に入っていく。
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