【完結】【BL】ダージリンブルー

柚槙ゆみ

文字の大きさ
22 / 42
第三章

クソオヤジ

しおりを挟む
 予想外の返答に驚いたが、妹思いなんだなと胸の中が温かくなる。それを考えれば、玲央自身も友菜のこととなるとすべてを犠牲にしているから似たようなものだろう。

「やっぱ俺らって兄貴だよなぁ」
「え? どうしたの? 急に」

 理亜がクスクス笑っている。今日、もし友菜が家にいて留守番をしていたら、腹が減ったからと理亜と食事をして帰る提案はしなかっただろう。そう思っての言葉だった。

「いや、兄貴って苦労するよなと思ってさ」
「ああ、そうかも」

 お互いの妹の話をしている間に駅に到着した。そのまま夕食は摂らないで帰ると決断をして電車に乗る。車内でも理亜との話題は妹のことかRYDEのことばかりだ。
 初めは周りにRYDEのライブ帰りとわかるような人がたくさんいたが、今は首からタオルをかけているのは車内に理亜と玲央だけだ。

「俺、次の駅だ」
「おう、じゃあな」

 電車が停まり理亜が下車していった。最後まで笑顔で、電車が出発するまで駅のホームで手を降っていた。そういうところがなんともいじらしくたまらないと思う。
 電車がスピードを上げて走り始め、理亜の姿が見えなくなった。振っていた手を太ももに下ろす。その手をじっと見つめて、誰かにこうして手を降ったのは久しぶりだということに気がついた。

(これってどういう気持なんだ?)

 ライブの最中に理亜に抱きついてしまった。そのことに関して理亜は一切なにも言わなくて聞いてこなかった。聞かれたらなんと答えたのか、玲央自身にもわからない。今の気持ちをどう言葉にして、どんな名前をつければいいのだろうか。

(今は理亜と楽しんだライブの余韻に浸っていたい……)

 最近は友菜のことが落ち着いているので、明日から大学には行けそうだ。ここのところずっとあの義父から友菜を守ることに神経を使っていたので疲れている。
 玲央は目を閉じて上を向いて脱力した。しかしそんな心の和む時間は長くは続かなかった。ポケットに入っているスマホがメッセージの受信をバイブレーションで知らせてきたのだ。いつものようにスマホを取り出してメッセージを確認する。

「は?」

 玲央は思わず声を上げた。メッセージを送ってきた相手は友菜だ。

『お兄ちゃん、今、家に帰ってきたんだけど、うちに、義父さんが来てる。お願い、帰ってきて』

 いつもはもっと絵文字を使った読みにくいメッセージを送ってくるのに、今日は文字だけだ。それがどれほど友菜に危機が迫っているかがわかる。

「あのクソオヤジ……」

 玲央は立ち上がって人の少ない車両に移動した。そこで構わず友菜に電話をかける。

「もしもし、友菜? 大丈夫か?」
『大丈夫じゃない……だって外から、ドア叩いてて……怖い』
「ぜってー開けんなよ? もしも帰らないようなら警察に電話しろ」
『だ、だめだよ。そしたらいろいろ聞かれるもん。ママの再婚相手で義父だってわかったらすぐに釈放されるでしょ? そしたらあたし、なに、されるか……わかんない……』

 友菜と電話をしている最中も、ドアをドンドン叩く音が聞こえてくる。すぐに駆けつけたいが、帰宅までまだ三十分はかかるだろう。

「わかった。じゃあ、ドアチェーンは外すな。なにがあっても入れるんじゃないぞ?」
『わかってる……わかってる……だから早く帰ってきて……』

 電話口でなく友菜を玲央はずっと電話を切らずに励まし続けた。
 玲央が家に帰ってきたときマンションの前にパトカーが停まっていてヒヤッとしたが、友菜が『マンションの誰かが通報したみたい』と言っていたので「これか」と落胆する。
 パトカーの車の後部座席に義父の姿を見つけたが、玲央は他人のふりで無視してマンションに入った。家に帰り着くと友菜が泣きながら抱きついてきた。どうやら義父はかなり酔っていたようだ。
 しかし友菜の家に玲央が帰ってきたことで、ドアを叩き続けられた経緯を聞かれることになった。

「友菜、お前のことは言わないから大丈夫だ」

 そう言って外に出て、警察官に事情を話した。とりあえず義父だが、交流はなくむしろソリが合わなくて縁切りしたいので、と話すと酔っ払いの迷惑行為として処理してもらえるようだった。
 ひと通りの説明を終えて帰って来ると、友菜は落ち着いていたが不安そうな顔をしていた。

「大丈夫か?」
「そんなわけない」

 涙声の友菜は目元を真っ赤にしていた。帰ってきてすぐだったのか、メイクも落とさないままの状態だったのでマスカラもなにもかもが涙で流れて大変なことになっている。

「だよな。顔、洗ってこいよ」
「……ん」

 グズグズと鼻を啜りながら友菜は洗面所に入っていく。
 ワンルームの部屋にはベッドとテレビと小さな本棚。ローテーブルがひとつあるだけのシンプルなものだった。しかし友菜が転がり込んできてから、部屋の中はなにかとカラフルになっている。テレビの横にはピンクの変な顔のウサギのぬいぐるみが置かれ、唯一勉強するのに使っていたテーブルにはメイク道具が散乱していた。
 洋服をかけてあるラックには、派手なシャツとジーンズしかなかったはずなのに、今はそれが端に寄せられて下がっているのはほとんどが友菜の服だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

眠れない夜を数えて

TK
BL
はみ出し者の高校生、大野暁は、アルバイトに明け暮れる毎日。 ふとしたきっかけで、訳ありな雰囲気のクラスメイト坂下と親しくなり、二人の距離は急速に縮まっていく。 しかし坂下には人に言えずにいる秘密があり、やがて二人の関係は崩れていく。 主人公たちが心の傷や葛藤と向き合い乗り越えていく物語。 シリアスでせつない描写が中心です。

【BL】死んだ俺と、吸血鬼の嫌い!

ばつ森⚡️8/22新刊
BL
天涯孤独のソーマ・オルディスは自分にしか見えない【オカシナモノ】に怯える毎日を送っていた。 ある日、シェラント女帝国警察・特殊警務課(通称サーカス)で働く、華やかな青年、ネル・ハミルトンに声をかけられ、【オカシナモノ】が、吸血鬼に噛まれた人間の慣れ果て【悪霊(ベスィ)】であると教えられる。 意地悪なことばかり言ってくるネルのことを嫌いながらも、ネルの体液が、その能力で、自分の原因不明の頭痛を癒せることを知り、行動を共にするうちに、ネルの優しさに気づいたソーマの気持ちは変化してきて…? 吸血鬼とは?ネルの能力の謎、それらが次第に明らかになっていく中、国を巻き込んだ、永きに渡るネルとソーマの因縁の関係が浮かび上がる。二人の運命の恋の結末はいかに?! 【チャラ(見た目)警務官攻×ツンデレ受】 ケンカップル★バディ ※かっこいいネルとかわいいソーマのイラストは、マグさん(https://twitter.com/honnokansoaka)に頂きました! ※いつもと毛色が違うので、どうかな…と思うのですが、試させて下さい。よろしくお願いします!

【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―

綾波絢斗
BL
この世界には、二つの特別な称号を持つ者たちが存在する。 一つは、絶対的な権力を持つ王の称号――ルガル(lugal)。 もう一つは、ルガルと対をなし、その力を補う「番」――ムル(mul)。 ルガルは生まれながらに選ばれし存在。 国家からエリート教育と地位を与えられ、能力に応じて厳格なランク分けが行われる。 最上位のルガルは、政治さえも動かす絶対者だ。 一方で、ムルは生まれた瞬間にはその正体がわからない。 遺伝子検査や学力テストを経て候補が絞られるが、 最終的に「真のムル」かどうかを見極められるのは――ルガルだけ。 ムルが覚醒したとき、同じ場所に「紋章」が現れ、その瞬間から、ルガルとムルの力は共鳴し始める。 ムルの能力はルガルの力を最大限に引き出す。 ゆえにルガルたちは、自らのムルを求め、時には他人のムル候補を奪い合う。 そして、すべての出生データと遺伝情報を管理するのは、 巨大企業イルジオン――国家をも超える存在。 その頂点に立つ社長、一条レイ。 冷徹なルガルの頂点に君臨する彼が「自分のムル」と出会った。

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

こじらせ委員長と省エネ男子

みずしま
BL
イケメン男子の目覚まし担当になりました……!? 高校一年生の俺、宮下響はワケあって一人暮らし中。隣に住んでいるのは、同じクラスの玖堂碧斗だ。遅刻を繰り返す彼の目覚まし係になるよう、担任から任命され……。 省エネ男子(攻め)と、ちょっとひねくれた委員長(受け)によるわちゃわちゃ青春BL! 宮下響(みやしたひびき) 外面の良い委員長。モブ顔。褒められたい願望あり。 玖堂碧斗(くどうあおと) 常に省エネモードで生活中。気だるげな美形男子。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

処理中です...