【完結】【BL】ダージリンブルー

柚槙ゆみ

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第四章

腰を据えて話したくて

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「じゃあ参考書を見てから行きますね」
「はい」

 七生がスマホ画面を見せてくる。そこにはQRコードが表示されてある。一瞬「なに?」と思ったが、連絡先の交換だ。
 理亜は「ああ」と呟いてスマホを出し、ラインのQRコードを読み込んだ。七生のアイコンはパルスでダンスしているようなシャドウの格好いいものだった。

「よし、これで連絡できるようになった。前に交換しておけばよかったんだけど、理亜があんまりにも酔ってたから」

 ふふふ、と七生が笑う。

「じゃあ先に行ってるね!」

 七生がにこやかな笑みを浮かべて行ってしまった。まるで嵐のようだと思ったが、ハッとして理亜は参考書コーナーに足を向ける。早く買わないと七生を長く待たせることになってしまう。参考書はあまり急いで買いたくないが仕方がない。

 二階の参考書売り場にやってきて、よさそうなものを探し始めるがなかなか種類が多くて決められない。人を待たせていると思うと落ち着いて選べないので、今日は諦めることにした。
 理亜は急いで売り場から離れる。するとジーンズの尻ポケットでスマホが震えた。取り出してみると七生だ。

『本屋からすぐ近くの機関車ってカフェにいるからね~』

 そんなメッセージの次にウサギの『待ってるね』というテキスト付きのスタンプが送られてきた。
 理亜は雑誌だけを精算し、急いで七生が指定してきたカフェに向かう。偶然、七生に会わなければゆっくり参考書が見られたのに、と少し心のなかで愚痴りながら本屋を出た。

 カフェ『機関車』は大通りから一本中に入った場所にあった。こぢんまりとした小さなカフェで、店の前には背の高い南国の観葉植物が並び、テラス席は二席ほど。そこはペットOKのエリアのようだった。オレンジ色のレトロな丸っこいテントが軒先に突き出していて、そこにはブラウンの文字で「機関車」と書いてある。
 理亜はその下にあるこれまたレトロなガラスの入った木製の枠の扉を引く。カランとドアベルが鳴り、それと同時に「いらっしゃいませ」と声をかけられた。

「あ、待ち合わせです」

 そう言いながら店内を見渡した。人はまばらで、テーブル席が三つ。カウンターが七席ほどの個人経営のカフェだ。見渡してすぐに七生を見つけた。窓際の外が見える四人がけの席に座ってコーヒーを飲んでいる。理亜が入ってきたのに気づいてこちらに手を振ってきた。

「すみません、お待たせしました」

 七生の向かいの席に腰を下ろし、すぐ横の席に鞄と本屋で買ってきた雑誌の入った紙袋を置いた。

「ううん、大丈夫そんなに待ってないし。っていうか理亜は早かったね? ほしい参考書はすぐに見つかったの?」
「あ~、七生さんをまたせてると思うとなかなか選べなくて、今度時間のあるときにしようかなって……」

 話していると店員さんがやってくる。小腹が減っていたのでココアとスコーンを注文した。

「なんか悪いタイミングで誘ってしまったかな?」

 申し訳なさそうに言われたが、その顔は会ったときと同じ好意的な笑みだった。

「いえ、いいんです。雑誌だけでも買えたので」
「同じの二冊買うタイプなの?」
「え?」
「いや、同じ雑誌を二冊持ってなかった?」
「いつもは一冊なんですけど、RYDEの特集と特典がついてて、これ、玲央もほしいかなと思って二冊買ったんです。あ、でももしも玲央がもう買ってたら、一冊は保存用に、もう一冊は読む用です!」

 あくまでも自分の考えでやったので、玲央には押し売りしませんという気持ちを込めて語尾を強くする。すると七生が驚いた顔をして次の瞬間、吹き出すように笑い始めた。

「ふ、あははははは!」
「え、あの……?」

 そんな変なことを言っただろうかと思いつつ七生を見ていると、ひとしきり笑い終えた七生が目尻に浮かんだ涙を指先で拭い「ごめん、ごめん」と謝った。

「なんか涙ぐましいほど玲央のことを考えているんだね。でもまさか理亜もRYDEが好きだなんて意外だった」
「あ、それよく言われます。見た目と趣味が合わないって」
「まぁ確かに。RYDEが好きなら玲央とは気が合うでしょ」
「あ、はい。この間、初めてのライブに行く機会があって、玲央と楽しみました」
「ああ! なんかRYDEのライブに行ったって興奮気味に話してたな。一緒に行ったのは理亜だったのか」

 なるほど……と呟いた七生がコーヒーカップを手にしてゆっくりとひと口飲む。なにがなるほどなのだろうと思っていると、理亜の注文したココアとスコーンがテーブルに届けられた。

「あまいの好きなんだ?」
「あ~、なんか小腹が減ってしまって」

 えへへ、と笑いながら皿の上のスコーンを見つめる。手のひらサイズの大きなスコーンの横には真っ白でふわふわな生クリームとアイスが添えられ、小さな赤い野苺のような果物が乗せてあった。

(かわいい……)

 内心でふふっと微笑みつつスコーンを手にとって少しだけクリームを付けて口に運ぶ。サクッとした食感と冷たいアイスのあまい味が広がる。

「おいしい」

 小さく呟くと、向かいの七生がふふっと笑ったのがわかる。少し照れくさくなったがなにも言わずに食べ進めた。

「今日はね、腰を据えて理亜と話したくって誘ったんだ」
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