26 / 42
第四章
腰を据えて話したくて
しおりを挟む
「じゃあ参考書を見てから行きますね」
「はい」
七生がスマホ画面を見せてくる。そこにはQRコードが表示されてある。一瞬「なに?」と思ったが、連絡先の交換だ。
理亜は「ああ」と呟いてスマホを出し、ラインのQRコードを読み込んだ。七生のアイコンはパルスでダンスしているようなシャドウの格好いいものだった。
「よし、これで連絡できるようになった。前に交換しておけばよかったんだけど、理亜があんまりにも酔ってたから」
ふふふ、と七生が笑う。
「じゃあ先に行ってるね!」
七生がにこやかな笑みを浮かべて行ってしまった。まるで嵐のようだと思ったが、ハッとして理亜は参考書コーナーに足を向ける。早く買わないと七生を長く待たせることになってしまう。参考書はあまり急いで買いたくないが仕方がない。
二階の参考書売り場にやってきて、よさそうなものを探し始めるがなかなか種類が多くて決められない。人を待たせていると思うと落ち着いて選べないので、今日は諦めることにした。
理亜は急いで売り場から離れる。するとジーンズの尻ポケットでスマホが震えた。取り出してみると七生だ。
『本屋からすぐ近くの機関車ってカフェにいるからね~』
そんなメッセージの次にウサギの『待ってるね』というテキスト付きのスタンプが送られてきた。
理亜は雑誌だけを精算し、急いで七生が指定してきたカフェに向かう。偶然、七生に会わなければゆっくり参考書が見られたのに、と少し心のなかで愚痴りながら本屋を出た。
カフェ『機関車』は大通りから一本中に入った場所にあった。こぢんまりとした小さなカフェで、店の前には背の高い南国の観葉植物が並び、テラス席は二席ほど。そこはペットOKのエリアのようだった。オレンジ色のレトロな丸っこいテントが軒先に突き出していて、そこにはブラウンの文字で「機関車」と書いてある。
理亜はその下にあるこれまたレトロなガラスの入った木製の枠の扉を引く。カランとドアベルが鳴り、それと同時に「いらっしゃいませ」と声をかけられた。
「あ、待ち合わせです」
そう言いながら店内を見渡した。人はまばらで、テーブル席が三つ。カウンターが七席ほどの個人経営のカフェだ。見渡してすぐに七生を見つけた。窓際の外が見える四人がけの席に座ってコーヒーを飲んでいる。理亜が入ってきたのに気づいてこちらに手を振ってきた。
「すみません、お待たせしました」
七生の向かいの席に腰を下ろし、すぐ横の席に鞄と本屋で買ってきた雑誌の入った紙袋を置いた。
「ううん、大丈夫そんなに待ってないし。っていうか理亜は早かったね? ほしい参考書はすぐに見つかったの?」
「あ~、七生さんをまたせてると思うとなかなか選べなくて、今度時間のあるときにしようかなって……」
話していると店員さんがやってくる。小腹が減っていたのでココアとスコーンを注文した。
「なんか悪いタイミングで誘ってしまったかな?」
申し訳なさそうに言われたが、その顔は会ったときと同じ好意的な笑みだった。
「いえ、いいんです。雑誌だけでも買えたので」
「同じの二冊買うタイプなの?」
「え?」
「いや、同じ雑誌を二冊持ってなかった?」
「いつもは一冊なんですけど、RYDEの特集と特典がついてて、これ、玲央もほしいかなと思って二冊買ったんです。あ、でももしも玲央がもう買ってたら、一冊は保存用に、もう一冊は読む用です!」
あくまでも自分の考えでやったので、玲央には押し売りしませんという気持ちを込めて語尾を強くする。すると七生が驚いた顔をして次の瞬間、吹き出すように笑い始めた。
「ふ、あははははは!」
「え、あの……?」
そんな変なことを言っただろうかと思いつつ七生を見ていると、ひとしきり笑い終えた七生が目尻に浮かんだ涙を指先で拭い「ごめん、ごめん」と謝った。
「なんか涙ぐましいほど玲央のことを考えているんだね。でもまさか理亜もRYDEが好きだなんて意外だった」
「あ、それよく言われます。見た目と趣味が合わないって」
「まぁ確かに。RYDEが好きなら玲央とは気が合うでしょ」
「あ、はい。この間、初めてのライブに行く機会があって、玲央と楽しみました」
「ああ! なんかRYDEのライブに行ったって興奮気味に話してたな。一緒に行ったのは理亜だったのか」
なるほど……と呟いた七生がコーヒーカップを手にしてゆっくりとひと口飲む。なにがなるほどなのだろうと思っていると、理亜の注文したココアとスコーンがテーブルに届けられた。
「あまいの好きなんだ?」
「あ~、なんか小腹が減ってしまって」
えへへ、と笑いながら皿の上のスコーンを見つめる。手のひらサイズの大きなスコーンの横には真っ白でふわふわな生クリームとアイスが添えられ、小さな赤い野苺のような果物が乗せてあった。
(かわいい……)
内心でふふっと微笑みつつスコーンを手にとって少しだけクリームを付けて口に運ぶ。サクッとした食感と冷たいアイスのあまい味が広がる。
「おいしい」
小さく呟くと、向かいの七生がふふっと笑ったのがわかる。少し照れくさくなったがなにも言わずに食べ進めた。
「今日はね、腰を据えて理亜と話したくって誘ったんだ」
「はい」
七生がスマホ画面を見せてくる。そこにはQRコードが表示されてある。一瞬「なに?」と思ったが、連絡先の交換だ。
理亜は「ああ」と呟いてスマホを出し、ラインのQRコードを読み込んだ。七生のアイコンはパルスでダンスしているようなシャドウの格好いいものだった。
「よし、これで連絡できるようになった。前に交換しておけばよかったんだけど、理亜があんまりにも酔ってたから」
ふふふ、と七生が笑う。
「じゃあ先に行ってるね!」
七生がにこやかな笑みを浮かべて行ってしまった。まるで嵐のようだと思ったが、ハッとして理亜は参考書コーナーに足を向ける。早く買わないと七生を長く待たせることになってしまう。参考書はあまり急いで買いたくないが仕方がない。
二階の参考書売り場にやってきて、よさそうなものを探し始めるがなかなか種類が多くて決められない。人を待たせていると思うと落ち着いて選べないので、今日は諦めることにした。
理亜は急いで売り場から離れる。するとジーンズの尻ポケットでスマホが震えた。取り出してみると七生だ。
『本屋からすぐ近くの機関車ってカフェにいるからね~』
そんなメッセージの次にウサギの『待ってるね』というテキスト付きのスタンプが送られてきた。
理亜は雑誌だけを精算し、急いで七生が指定してきたカフェに向かう。偶然、七生に会わなければゆっくり参考書が見られたのに、と少し心のなかで愚痴りながら本屋を出た。
カフェ『機関車』は大通りから一本中に入った場所にあった。こぢんまりとした小さなカフェで、店の前には背の高い南国の観葉植物が並び、テラス席は二席ほど。そこはペットOKのエリアのようだった。オレンジ色のレトロな丸っこいテントが軒先に突き出していて、そこにはブラウンの文字で「機関車」と書いてある。
理亜はその下にあるこれまたレトロなガラスの入った木製の枠の扉を引く。カランとドアベルが鳴り、それと同時に「いらっしゃいませ」と声をかけられた。
「あ、待ち合わせです」
そう言いながら店内を見渡した。人はまばらで、テーブル席が三つ。カウンターが七席ほどの個人経営のカフェだ。見渡してすぐに七生を見つけた。窓際の外が見える四人がけの席に座ってコーヒーを飲んでいる。理亜が入ってきたのに気づいてこちらに手を振ってきた。
「すみません、お待たせしました」
七生の向かいの席に腰を下ろし、すぐ横の席に鞄と本屋で買ってきた雑誌の入った紙袋を置いた。
「ううん、大丈夫そんなに待ってないし。っていうか理亜は早かったね? ほしい参考書はすぐに見つかったの?」
「あ~、七生さんをまたせてると思うとなかなか選べなくて、今度時間のあるときにしようかなって……」
話していると店員さんがやってくる。小腹が減っていたのでココアとスコーンを注文した。
「なんか悪いタイミングで誘ってしまったかな?」
申し訳なさそうに言われたが、その顔は会ったときと同じ好意的な笑みだった。
「いえ、いいんです。雑誌だけでも買えたので」
「同じの二冊買うタイプなの?」
「え?」
「いや、同じ雑誌を二冊持ってなかった?」
「いつもは一冊なんですけど、RYDEの特集と特典がついてて、これ、玲央もほしいかなと思って二冊買ったんです。あ、でももしも玲央がもう買ってたら、一冊は保存用に、もう一冊は読む用です!」
あくまでも自分の考えでやったので、玲央には押し売りしませんという気持ちを込めて語尾を強くする。すると七生が驚いた顔をして次の瞬間、吹き出すように笑い始めた。
「ふ、あははははは!」
「え、あの……?」
そんな変なことを言っただろうかと思いつつ七生を見ていると、ひとしきり笑い終えた七生が目尻に浮かんだ涙を指先で拭い「ごめん、ごめん」と謝った。
「なんか涙ぐましいほど玲央のことを考えているんだね。でもまさか理亜もRYDEが好きだなんて意外だった」
「あ、それよく言われます。見た目と趣味が合わないって」
「まぁ確かに。RYDEが好きなら玲央とは気が合うでしょ」
「あ、はい。この間、初めてのライブに行く機会があって、玲央と楽しみました」
「ああ! なんかRYDEのライブに行ったって興奮気味に話してたな。一緒に行ったのは理亜だったのか」
なるほど……と呟いた七生がコーヒーカップを手にしてゆっくりとひと口飲む。なにがなるほどなのだろうと思っていると、理亜の注文したココアとスコーンがテーブルに届けられた。
「あまいの好きなんだ?」
「あ~、なんか小腹が減ってしまって」
えへへ、と笑いながら皿の上のスコーンを見つめる。手のひらサイズの大きなスコーンの横には真っ白でふわふわな生クリームとアイスが添えられ、小さな赤い野苺のような果物が乗せてあった。
(かわいい……)
内心でふふっと微笑みつつスコーンを手にとって少しだけクリームを付けて口に運ぶ。サクッとした食感と冷たいアイスのあまい味が広がる。
「おいしい」
小さく呟くと、向かいの七生がふふっと笑ったのがわかる。少し照れくさくなったがなにも言わずに食べ進めた。
「今日はね、腰を据えて理亜と話したくって誘ったんだ」
5
あなたにおすすめの小説
眠れない夜を数えて
TK
BL
はみ出し者の高校生、大野暁は、アルバイトに明け暮れる毎日。
ふとしたきっかけで、訳ありな雰囲気のクラスメイト坂下と親しくなり、二人の距離は急速に縮まっていく。
しかし坂下には人に言えずにいる秘密があり、やがて二人の関係は崩れていく。
主人公たちが心の傷や葛藤と向き合い乗り越えていく物語。
シリアスでせつない描写が中心です。
【BL】死んだ俺と、吸血鬼の嫌い!
ばつ森⚡️8/22新刊
BL
天涯孤独のソーマ・オルディスは自分にしか見えない【オカシナモノ】に怯える毎日を送っていた。
ある日、シェラント女帝国警察・特殊警務課(通称サーカス)で働く、華やかな青年、ネル・ハミルトンに声をかけられ、【オカシナモノ】が、吸血鬼に噛まれた人間の慣れ果て【悪霊(ベスィ)】であると教えられる。
意地悪なことばかり言ってくるネルのことを嫌いながらも、ネルの体液が、その能力で、自分の原因不明の頭痛を癒せることを知り、行動を共にするうちに、ネルの優しさに気づいたソーマの気持ちは変化してきて…?
吸血鬼とは?ネルの能力の謎、それらが次第に明らかになっていく中、国を巻き込んだ、永きに渡るネルとソーマの因縁の関係が浮かび上がる。二人の運命の恋の結末はいかに?!
【チャラ(見た目)警務官攻×ツンデレ受】 ケンカップル★バディ
※かっこいいネルとかわいいソーマのイラストは、マグさん(https://twitter.com/honnokansoaka)に頂きました!
※いつもと毛色が違うので、どうかな…と思うのですが、試させて下さい。よろしくお願いします!
【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―
綾波絢斗
BL
この世界には、二つの特別な称号を持つ者たちが存在する。
一つは、絶対的な権力を持つ王の称号――ルガル(lugal)。
もう一つは、ルガルと対をなし、その力を補う「番」――ムル(mul)。
ルガルは生まれながらに選ばれし存在。
国家からエリート教育と地位を与えられ、能力に応じて厳格なランク分けが行われる。
最上位のルガルは、政治さえも動かす絶対者だ。
一方で、ムルは生まれた瞬間にはその正体がわからない。
遺伝子検査や学力テストを経て候補が絞られるが、
最終的に「真のムル」かどうかを見極められるのは――ルガルだけ。
ムルが覚醒したとき、同じ場所に「紋章」が現れ、その瞬間から、ルガルとムルの力は共鳴し始める。
ムルの能力はルガルの力を最大限に引き出す。
ゆえにルガルたちは、自らのムルを求め、時には他人のムル候補を奪い合う。
そして、すべての出生データと遺伝情報を管理するのは、
巨大企業イルジオン――国家をも超える存在。
その頂点に立つ社長、一条レイ。
冷徹なルガルの頂点に君臨する彼が「自分のムル」と出会った。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
こじらせ委員長と省エネ男子
みずしま
BL
イケメン男子の目覚まし担当になりました……!?
高校一年生の俺、宮下響はワケあって一人暮らし中。隣に住んでいるのは、同じクラスの玖堂碧斗だ。遅刻を繰り返す彼の目覚まし係になるよう、担任から任命され……。
省エネ男子(攻め)と、ちょっとひねくれた委員長(受け)によるわちゃわちゃ青春BL!
宮下響(みやしたひびき)
外面の良い委員長。モブ顔。褒められたい願望あり。
玖堂碧斗(くどうあおと)
常に省エネモードで生活中。気だるげな美形男子。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる