23 / 71
第二章 新しい恋の予感
12
しおりを挟む
思い出に捕らわれすぎていることは自覚はしている。けれどどうしても心の整理が付かない。時間が経てば忘れる、時間が解決の一番の薬だ、周りの友人からも何度となく言われた言葉だ。でもそれは藤崎にとっては逆効果だった。時間が経てば経つほど、奥村の記憶は濃く胸の中に刻まれていった。
彼との新しい思い出で上書きができない分、今までの楽しかったでき事がセピアの中で深くなる。この気持ちはきっと自分だけしか分からない。だから今でもどれほどのものなのかなんて、誰にも言えないし理解してもらえないだろう。
「店長?」
「あ、ごめん。ちょっとボーッとしてた」
「体の調子、悪いですか? 少し顔色が……」
「ううん、平気だよ。それより、その店長ってのやめてもらえないかな?」
カラになった花桶を持った藤崎が振り返ると、どうしてですか? と真宮はにっこりと笑った。不意を突く彼のやわらかな笑顔に、どうしてもドキドキさせられてしまう。
「んー、じゃあ藤崎さん、でいいですか?」
「まぁ、それでいいか」
赤くなったのを気付かれないように、レジの脇のコルクボードに配達メモを貼り付けた。しばらく真宮の視線を感じていたが、少しして店先から呼ぶ声に彼は仕事に戻っていった。
「ちょっと忙しかったから、疲れてるのかな」
シオンの花にチラリと視線を流し、話しかけるように呟いた。
夕方過ぎになると、前日に藤崎が作った商品はほぼ売れてしまっていた。ホームセンターができても、季節物のアイテムは出がいいらしい。明日の準備をしようと花のチェックをするためにシートを取りだした。
空の色と同じ青のエプロンをつけた真宮は、花桶の水替えを始めている。今日、何度もそうして眺めたように、再びボンヤリと真宮を見つめている。
赤っぽい茶色の髪は癖毛でピンと跳ねている。くっきりとした二重は目を大きく見せる。笑うと口角が上がり、王子かアイドルかというようなあまいマスクは、藤崎でも油断をするとドキッとさせられた。仕事をしているときは真剣な眼差しで、一文字に閉じられた形のいい唇は引き下がっている。そういう表情は奥村に似ていると思う。
(ん……?)
花桶の花を移し替えるときに、真宮が何やらブツブツと呟いている。聞き耳を立てれば、どうやら話しかけているようだ。
「明日は、買ってもらえるよ。大丈夫、とてもキレイだから」
そんな風に聞こえてきた。胸の奥がキュンとするような感情があがってくる。愛しげに見つめながら、残ってしまった花に言葉をかけていた。
「真宮くん……」
藤崎はポツリと呟いた。彼が初めてこの店に来たのは、妹のために花を買いに来た時だった。シオンの花の前で少し話したのを覚えている。
(花は言葉が分かるって言ったこと、覚えてたんだ)
心が揺さぶられた。胸の深い場所を掴まれた気がした。そんな小さな事だったが、藤崎は大きく真宮に引き寄せられたのが分かった。トクトクと心臓が鳴る。心地のいいあまく疼くようなそれに、胸の前でギュッと手を握りしめた。
彼との新しい思い出で上書きができない分、今までの楽しかったでき事がセピアの中で深くなる。この気持ちはきっと自分だけしか分からない。だから今でもどれほどのものなのかなんて、誰にも言えないし理解してもらえないだろう。
「店長?」
「あ、ごめん。ちょっとボーッとしてた」
「体の調子、悪いですか? 少し顔色が……」
「ううん、平気だよ。それより、その店長ってのやめてもらえないかな?」
カラになった花桶を持った藤崎が振り返ると、どうしてですか? と真宮はにっこりと笑った。不意を突く彼のやわらかな笑顔に、どうしてもドキドキさせられてしまう。
「んー、じゃあ藤崎さん、でいいですか?」
「まぁ、それでいいか」
赤くなったのを気付かれないように、レジの脇のコルクボードに配達メモを貼り付けた。しばらく真宮の視線を感じていたが、少しして店先から呼ぶ声に彼は仕事に戻っていった。
「ちょっと忙しかったから、疲れてるのかな」
シオンの花にチラリと視線を流し、話しかけるように呟いた。
夕方過ぎになると、前日に藤崎が作った商品はほぼ売れてしまっていた。ホームセンターができても、季節物のアイテムは出がいいらしい。明日の準備をしようと花のチェックをするためにシートを取りだした。
空の色と同じ青のエプロンをつけた真宮は、花桶の水替えを始めている。今日、何度もそうして眺めたように、再びボンヤリと真宮を見つめている。
赤っぽい茶色の髪は癖毛でピンと跳ねている。くっきりとした二重は目を大きく見せる。笑うと口角が上がり、王子かアイドルかというようなあまいマスクは、藤崎でも油断をするとドキッとさせられた。仕事をしているときは真剣な眼差しで、一文字に閉じられた形のいい唇は引き下がっている。そういう表情は奥村に似ていると思う。
(ん……?)
花桶の花を移し替えるときに、真宮が何やらブツブツと呟いている。聞き耳を立てれば、どうやら話しかけているようだ。
「明日は、買ってもらえるよ。大丈夫、とてもキレイだから」
そんな風に聞こえてきた。胸の奥がキュンとするような感情があがってくる。愛しげに見つめながら、残ってしまった花に言葉をかけていた。
「真宮くん……」
藤崎はポツリと呟いた。彼が初めてこの店に来たのは、妹のために花を買いに来た時だった。シオンの花の前で少し話したのを覚えている。
(花は言葉が分かるって言ったこと、覚えてたんだ)
心が揺さぶられた。胸の深い場所を掴まれた気がした。そんな小さな事だったが、藤崎は大きく真宮に引き寄せられたのが分かった。トクトクと心臓が鳴る。心地のいいあまく疼くようなそれに、胸の前でギュッと手を握りしめた。
0
あなたにおすすめの小説
冷徹勇猛な竜将アルファは純粋無垢な王子オメガに甘えたいのだ! ~だけど殿下は僕に、癒ししか求めてくれないのかな……~
大波小波
BL
フェリックス・エディン・ラヴィゲールは、ネイトステフ王国の第三王子だ。
端正だが、どこか猛禽類の鋭さを思わせる面立ち。
鋭い長剣を振るう、引き締まった体。
第二性がアルファだからというだけではない、自らを鍛え抜いた武人だった。
彼は『竜将』と呼ばれる称号と共に、内戦に苦しむ隣国へと派遣されていた。
軍閥のクーデターにより内戦の起きた、テミスアーリン王国。
そこでは、国王の第二夫人が亡命の準備を急いでいた。
王は戦闘で命を落とし、彼の正妻である王妃は早々と我が子を連れて逃げている。
仮王として指揮をとる第二夫人の長男は、近隣諸国へ支援を求めて欲しいと、彼女に亡命を勧めた。
仮王の弟である、アルネ・エドゥアルド・クラルは、兄の力になれない歯がゆさを感じていた。
瑞々しい、均整の取れた体。
絹のような栗色の髪に、白い肌。
美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。
第二性はオメガだが、彼は利発で優しい少年だった。
そんなアルネは兄から聞いた、隣国の支援部隊を指揮する『竜将』の名を呟く。
「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」
不思議と、勇気が湧いてくる。
「長い、お名前。まるで、呪文みたい」
その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。
【完結】火を吐く土の国の王子は、塔から来た調査官に灼熱の愛をそそぐ
月田朋
BL
「トウヤ様、長旅お疲れのことでしょう。首尾よくなによりでございます。――とはいえ油断なされるな。決してお声を発してはなりませんぞ!」」
塔からはるばる火吐国(ひはきこく)にやってきた銀髪の美貌の調査官トウヤは、副官のザミドからの小言を背に王宮をさまよう。
塔の加護のせいで無言を貫くトウヤが王宮の浴場に案内され出会ったのは、美しくも対照的な二人の王子だった。
太陽に称される金の髪をもつニト、月に称される漆黒の髪をもつヨミであった。
トウヤは、やがて王家の秘密へと足を踏み入れる。
灼熱の王子に愛され焦がされるのは、理性か欲か。
【ぶっきらぼう王子×銀髪美人調査官】
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
仮面の王子と優雅な従者
emanon
BL
国土は小さいながらも豊かな国、ライデン王国。
平和なこの国の第一王子は、人前に出る時は必ず仮面を付けている。
おまけに病弱で無能、醜男と専らの噂だ。
しかしそれは世を忍ぶ仮の姿だった──。
これは仮面の王子とその従者が暗躍する物語。
竜人息子の溺愛!
神谷レイン
BL
コールソン書店の店主レイ(三十七歳)は、十八歳になったばかりの育て子である超美形の竜人騎士であるルークに結婚を迫られていた。
勿論レイは必死に断るがルークは全然諦めてくれず……。
だが、そんな中で竜国から使者がやってくる。
そしてルークはある事実を知らされ、レイはそれに巻き込まれてしまうのだが……。
超美形竜人息子×自称おじさん
塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】
蕾白
BL
国境近くにあるその白い石の塔には一人の美しい姫君が幽閉されている。
けれど、幽閉されていたのはある事情から王女として育てられたカミーユ王子だった。彼は父王の罪によって十三年間を塔の中で過ごしてきた。
そんな彼の前に一人の男、冒険者のアレクが現れる。
自分の世界を変えてくれるアレクにカミーユは心惹かれていくけれど、彼の不安定な立場を危うくする事態が近づいてきていた……というお話になります。
2024/4/22 完結しました。ありがとうございました。
高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】
きど
BL
愛されていないのに形だけの番になるのは、ごめんだ。
オメガの王族でもアルファと番えば王位継承を認めているエステート王国。
そこの第一王子でオメガのヴィルムには長年思い続けている相手がいる。それは幼馴染で王位継承権を得るための番候補でもあるアルファのアーシュレイ・フィリアス。
アーシュレイは、自分を王太子にするために、番になろうとしてると勘違いしているヴィルムは、アーシュレイを拒絶し続ける。しかし、発情期の度にアーシュレイに抱かれる幻想をみてしまい思いに蓋をし続けることが難しくなっていた。
そんな時に大国のアルファの王族から番になる打診が来て、アーシュレイを諦めるためにそれを受けようとしたら、とうとうアーシュレイが痺れを切らして…。
二人の想いは無事通じ合うのか。
現在、スピンオフ作品の
ヤンデレベータ×性悪アルファを連載中
愛しの妻は黒の魔王!?
ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」
――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。
皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。
身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。
魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。
表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます!
11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる