嘘つきな君と、本当の僕

柚槙ゆみ

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「莉奈……俺、もうちゃんと言ったよな?」

 相沢莉奈あいざわりなは直人と両思いになるまで付き合っていた女性だ。とはいえ、ほんの数ヶ月で体の関係もない。ただ直人を忘れるためだけに利用してしまった。だから莉奈には申し訳ない気持ちがあって、別れたくないという莉奈の気持ちをやんわりと押しのけるしかできない。

「うん、聞いたよ。春樹くんが他に好きな人ができて、その人と両思いになって付き合うことになったから、莉奈とはお別れするんでしょ?」

 ちゃんとわかっているのに莉奈は春樹につきまとっている。

「だったらもう、会社の前で待ったりするな」
「違うもん。通りかかったら春樹が会社から出てきたんだもん」

 頬を膨らませて拗ねた顔を見せる莉奈は、大きな黒目で見上げてくる。仕草や言葉は男性が好むものばかりだったが、春樹にそれは通用しない。

(これは俺が悪い。直人を忘れたいからって、好意を寄せてくれた莉奈を利用した俺が悪い)

 強く突っぱねられないのも罪悪感からだ。何度説明しても莉奈はわかってくれない。どうすればいいのかわからなかった。

「春樹に好きな人がいてもいいの。付き合っている人がいてもいい。私は二番でいいよ? 彼女と喧嘩したときに莉奈が慰めてあげる。彼女へのプレゼントが選べないとかそういうのも相談にのるよ。だからさ……」
「そんなことできないだろ。莉奈にはもっといい男と付き合ってほしい」
「私にとっていい男って、春樹だもん。春樹しかいないの。だから二番でもいいんだよ」

 莉奈が春樹の腕に自分の腕を絡ませてきた。会社の前で他の人に見られたら冷やかされるに決まっている。

「ちょっと、ここじゃまずいから」

 春樹が歩き出すと「うんっ」と声を弾ませた莉奈が、腕に絡みついたままうれしそうについてくる。全くわかってくれず、春樹は大きくため息をつくしかなかった。
 昔から春樹は誰にでもやさしかった。話上手で聞き上手、その上スポーツマンタイプで爽やかで見た目もいいとなれば女性が放っておかない。だから学生の頃は言い寄られることも多かったが、その頃から男性にしか興味を持てなかったため、告白にいい返事をしたことがない。しかしずっと断ってばかりも怪しまれるので、カモフラージュに交際したこともあった。だがやはり長続きはしなくて、結局は別れることになった。
 今回もそれと似たようなパターンだ。直人を忘れられず、春樹は手近に自分を気に入ったという数合わせの合コンで知り合った、莉奈と付き合うことにしたのだ。
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