Parallel War(仮)

臼井 リト

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Ⅰ 転移

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 ヤベェ。ヤバいヤバいヤバい。神か!こんな普通な俺にもついに幸せが訪れたッッ!!感謝!ありがとう神よ!
 ………いや、ホントに神のおかげなのかどうかは知らんが。

 俺が絶賛する少女だが、透き通る金髪を腰まで伸ばし、抜けるような白い肌と美しい紫紺の瞳をしており、そこそこ豊かな─────

「イタッ!」
「こら君ー!なに考えてるの?ダメでしょ、まったく。」

 俺の考えていたことを察したのか、少女に頭を小突かれた。

 うお、人の心読みやがった。女の子って怖い。

 俺は叩かれたところをさすりながら、黒髪の少女……否、咲に尋ねた。

「そういえば、名前聞いてなかったな。……咲さん?でいいのか?」
「気安く名前を呼ばないで頂戴。汚らわしい。」

 おい!最後の言葉があるかないかで俺の心のひび割れ度が大きく違うよ!?やめて、泣いちゃう僕!

 またもやかなり辛辣なコメントをいただき、じんわりと涙を滲ませた俺をフォローしてくれたのは、俺好みの例の少女だった。

「ほらー、咲ちゃん!いじめちゃダメでしょ?泣きそうよ?この子。」

 それに対し咲は俺に冷たい視線をおくる。

「泣いたって私には関係のないことです。私は私の要望を述べただけで、彼が勝手に泣いただけですよ。」

 おいてめぇ!俺まだぎりぎり泣いてねぇよ!……こいつ……!
 ────ん?ちょっとまてよ?

「あのー、なんで敬語?」

 さっきから咲が例の少女に対しては敬語なのだ。
 それに対し、咲は当たり前でしょう、という風に俺を睨みつける。

「なんでって、目上の人だからに決まっているでしょう。……この人は私の先輩よ。」
「そーそー!いちおー先輩してまーす。……まあ、私堅苦しいのは苦手なんだけどねー。この子頑なに敬語を使うから困っちゃうわ、まったく。……あ、ちなみに私の名前は『雫』よ!どうぞお見知りおきを。」

 そう言って、例の少女改め雫はペコリと膝を折ってお辞儀をひとつ。
 うお、様になってやがる。さすがだわ。
 つーか、未来になってもやっぱり上下関係はあるのな。
 そんなことを考えていると、まだ自分が名乗っていないことに気づく。

「ど、どうも、時の旅人、天宮奏です。」

 そうして俺がちょっと洒落た感じで名乗ると、さきほどの咲と同じように雫も目を見開いて、「ホントなんだ………」とかなんとか。一方の咲は、げんなりした様子で目を逸らしている。なんでだ。

 ……つーかさー、隠し事とかホントやめてほしーわ。まあ、例えていうならば、なんか明らかに自分を見ながら、ちょっと遠くで三、四人がこそこそ話してて、クスクス笑ってたりしたのに気づいたら傷つくだろ?勘違いだったとしても嫌だろ?
 ───────なに?実体験があるか、だと?……聞くな!!傷口を開こうとするな!!やめろ!!

「……そんで、結局用件はなんなんだ?」

 堪えきれず俺が呟くと、雫はそうだったとばかりに手を叩いた。

「あ、そうそうあぶないあぶない。忘れるとこだった。ついてきて!」

 そう言うと俺の手をつかみ、広場の中央あたりに引っ張っていく。
 うおいまじか!そんな気安く手ぇ握っちゃってもいいのかよ!?
 突然のことに俺は動揺を隠しきれずにいると、咲が

「っ!せ、先輩!?」
「おっと失礼」

 雫も気付いたらしく、一言言って手を離してしまう。
──────────。
 ───!……ざ、残念とか、おおお、思ってないからな!?お前ら勘違いすんなよ!?

「……なに残念そうな顔してるのよ。気持ちが悪いわね。」

 ちょっとだけしゅんとしてる俺に、咲が後ろからさらなる攻撃を加える。

「は、はぁっ!?し、しししてねーし!勝手なこといいい言ってんじゃねーよ!?」

 ……やべぇ。俺、嘘つくのクッソ下手だわ。声裏返っちゃったよ!
 反射的に後ろを振り向いて咲と目が合ってしまい、プイッと顔を背け、雫を追いかけ──────。
 ようとしたところで、ふと冷気を感じた気がして、また後ろを振り向いた。
 …………………咲さん、ジト目痛いです……。



 その後俺は雫と咲に連れられて、広場を抜け、少し開けた場所まで来る。そこで二人は足を止めた。
 …………ん?なんでこんな何もないところで止まるんだ?

「……えっと、雫さん?ここでなにをするんで……?」
「あれま、咲ちゃん言ってなかったのか。……ほら、足元足元。」

 そう言い、雫は下を指差し、言った。
 ん、足元?
 反射的に下を見ると、なにやら変なタイルが。

「なんすかこれ」
「エレベーターよ!」

 ……ふぁ?エレベーター?こんなタイルが?
 ……それよりなんでこの人たち、ここの設備紹介するときこんなに自慢げなんだ。
 そんなふうに思っていると、雫と咲はその謎のタイルの上に乗り、俺に手招きした。

「ほら、奏君も乗った乗った!」

 名前で呼ばれ、若干恥じらいを感じずにいられない俺だったが、仕方なくタイルの上に移動する。そしてしっかり乗ったのを確認するように俺を見て、雫はなにやら左手をスッと上から下にスライドさせるように移動させた。

 その瞬間、彼女の手元になにやらホログラムの画面が出現した。よく見ると、雫の人差し指に指輪のようなものが付けられている。これの効果なんだろうか。
 そのまま出現した画面を手慣れた指使いで操作し、ポンと一回タップしたと思ったら、足元のタイルがその縁を沿うように丸く光り、透き通った板らしき物が下から現れ、スーッと上に伸びていった。

「わ、すげぇ。」

 その一部始終を見て、素直な驚きが俺の口を突いて出た。
 未来やっべーな……。
 そんな感心に浸っていると、咲が肘で俺を軽くつついて言った。

「なに浸っているのよ。動くわよ。」

 するとそれを見た雫が「上へ参りま~す」と言いながら、現れたエレベーターの一番上のボタンを押した。
 雫さんノリノリだな!

 するとエレベーターが下にあったタイルごと音もなくフッと上昇し始める。
 ん?……どんどん高くなって行くにつれ、なんだか寒気が…………。

 ────あ。やべ、俺、高所恐怖症だった。

 嫌なことを思い出してしまい、耐えきれなくなった俺の絶叫が広場に虚しく響いた───。
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