パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し

文字の大きさ
20 / 130

20.忍び寄る郷愁

しおりを挟む

「……はぁ、はぁ。疲れたよ、ルシア……」

「しっかりしなさい。男の子でしょ!」

 さすがはルシア。ここまでほとんど走りっぱなしだっていうのに、レギュラー陣の一人なだけあって疲れる素振りすらない。

 町の中心部に入ると、湖畔の町というよりは晩秋の山林に囲まれた町といった様相で、紅と緑が混ざる華やかな景色や豊富な商店街の出し物に視線を奪われることもしばしばあった。

 凄いなあ、故郷の村イラルサとは規模がまったく違う……。

 人や店の多さが段違いで、どこを見ても人まみれで歩道だけでなく階段の両脇にも多くの品物が所狭しと並んでいた。

 故郷にある樹齢1000年以上の神仙樹付近で、初春の一月に行われる賢者イラルサ生誕祭のときよりも賑わいがあって驚かされる。使われなくなった物がタダ同然で出品されるから楽しみだったんだ。ここは値が張りそうだが。

「セクト、どうしたのよ、きょろきょろしちゃって。何か見たいものでもあるの?」

「ちょっとね」

「男の子なら、女の子のパンツが見たいって言うのが普通でしょ!」

「……」

 果たして本当にそれが普通なんだろうか?

「いたっ」

「気つけろや!」

 誰かの肩に俺の頭がぶつかって怒鳴られてしまった。時間帯のせいもあるんだろうが、ただでさえ多いのに人がどんどん増えてる感じだ。

「何よあいつ! セクト、こっち通りましょ!」

 混雑してるせいで中々先に進めない状況、ルシアが俺の手を引っ張って路地裏に入っていく。

「る、ルシア、狭い……!」

「我慢しなさい! 男の子でしょ!」

 ルシアが入り込んだ道はなんとも狭くて、小柄なルシアはいいが俺はなんとかぎりぎり通れるレベルだったが、そんなところでスピードを出せば肩やら肘やらが摩擦するので、どうしても横向きになってしまうのだ。こうなるといつ転んで引き摺られてもおかしくない状況なわけで、俺は精神まで削られるような感覚だった……。

「――着いたわっ! あれよ!」

 片手を腰にやったルシアが指差す先には、巨大な船を改造したかのような建物があった。あれが冒険者ギルドか。

 背後には湖も見えて、より船を意識させるような構造になっている。甲板の支柱には帆のように掲げられたフラッグが幾つもあり、不気味な漆黒の翼を生やした塔の模様が描かれていた。

 あれは吟遊詩人にも歌われている伝説の『最後の塔』だ。

 遥か昔、堕落した神がダンジョン好きな人類のために作ったとされる塔だが、誰もがまったく歯が立たなかったために落胆し、塔とともに姿を消したという。

 全てのダンジョンを攻略せし者――ダンジョンマスター――が現れたとき、神が人類の力を試すべく、再び自身とともに塔を出現させると言われている。

 ん? あれだけ元気いっぱいだったルシアが、ギルドを見て若干緊張した顔になってる。俺みたいに初めて来た場所でもないだろうに、どうしたんだろう。体調が優れないんだろうか。

「ルシア? 具合でも悪いのか?」

「な、なんでもないわよ。どうせあたしがエッチなことでも考えてるって思ってたんでしょ! ふん!」

「……」

 なんでそうなるかな。気のせいだったのか、元に戻ったルシアに連れられてギルドの中に入っていく。室内は人が多い上に薄暗くてスモークや酒の臭いが充満していたが、とても広いせいかそこまで不快感はなかった。

 むしろそれ以上に緊張感とか高揚感みたいなものが漂ってて、初心者じゃないルシアでも緊張するのはわかる気がした。

 故郷のイラルサにもこういう溜まり場はあったが、たまにならず者が集まってくるくらいで過疎ってたからな。だからこそ、俺みたいなコミュ障でもパーティーに入れたってのがあるが。オモチャとして……。

「……ぐぐっ」

「セクト? どうしたの?」

「……いや、なんでもない……」

「トイレならついていってあげてもいいわよ!」

「……遠慮しとく」

 この封印のペンダントがあって本当によかった。少し思い出すだけで胸が苦しくなるものの、大暴れせずに済むんだから。これがなかったら、それこそとんでもないことになる。

 ここで暴れて死人が多く出るようなことになった場合、余程のことでない限り動かない教会兵たちも出張してくるだろう。彼らは寛容に見えて、一度目をつけられたら終わりだと言われるくらい精鋭揃いなんだ。

 そのため、どんなならず者であっても町中で暴れるようなことはほとんどないそうだ。あの赤い稲妻のルベックやクールデビルのラキルも、喧嘩の強さで近隣では結構知られた存在ではあったが、村の中で必要以上に暴れるようなことはしなかった。

 そう考えると、俺はバニルたちのおかげで生きていけると改めて感じる。このペンダント代をなるべく早く返せるよう、お金を貯めないとな。ギルドに登録するのはその近道だといえる。

 カルバネはガキの使いとか言ってたが、イラルサでやれる仕事なんて山菜、魔鉱石、薬草集めとか単調できついばかりで報酬も僅か50ゴーストとかだったから、この規模でそれ以下というのはないだろうと楽観視できた。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

処理中です...