パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し

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99.目では見えないもの

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 謁見の間の玉座前にて、俺たちは最後のボスが登場するのをじっと待っていた。

「――来たっ……」

 少し長めのインターバルのあと、一際大きい魔法陣が出てきて回り出し、とうとう大ボス――ファーストガーディアン――がその中心に出現した。

「やつが……古城の守護者か……」

 満を持して登場したのは、全身に鱗の鎧をまとった半魚人サイズの兵士で、両手で青い炎のような形状の長剣を構えていた。大型、小型ときて今度は中型ってわけだ。

 俺はバニルから聞いた説明を思い出していた。確か、やつの固有能力は【リカバリー】のほかに【反射】があり、基本スキル《反発》は食らったダメージの半分を相手に返し、派生スキル《反動》は、ボス自身に対して行使されるあらゆるスキルの再使用時間を長くさせるものだ。

 大した攻撃力はないがとにかくタフで弱点もなく、倒すのに丸一日かかることも珍しくないという。最初のうちは普通より遅い程度の動きだが、時間が経過するにつれて次第に速くなっていき、最終的には恐ろしいほど俊敏になるらしい。

 それでも俺たちはここまで独自の攻略法を見つけ出してきたんだ。大ボス相手とはいえ、倒すのに膨大な時間を費やすつもりは毛頭ない。何か必ず打開策はあるはずで、それを探すだけだ。

「……あ、あ……」

 何かが物凄い勢いでこっちに近寄ってくると思ったら……そんな、まさか……。赤い稲妻、ルベックだ……って、一人だけだと……? 俺は思わぬ事態に面食らっていた。もう間近に迫っている。

「――クソセクトオオォォッ!」

「……ル、ルベック……」

 謁見の間に飛び込んできたのは、信じたくなかったが紛れもなくあいつだった。とんでもないスピードだったし、それがやつの固有能力なんだろう。それを生かして俺を捕まえにきたってわけだ。

 畜生、どうするんだよ……。まだやつを倒せる方法なんて思いつかない……というか、考えている暇なんてなかった。ボスがこっちに迫ってくる中、ルベックも一気に距離を詰めてきた。

「おい、びびってんなよ。昔みたいに仲良く遊ぼうぜ、クソセクトッ!」

「くっ……」

 俺はボスの前に《ワープ》を罠のように設置した。情けないが倒し方がわからない以上、逃げるしかないだろう。

「みんな、こっちだ!」

「……うん……」

「はーい」

「わかったあ!」

《ワープ》にみんなが入ったあとで俺も乗るつもりだ。まもなくボスがワープゾーンに触れて飛ぶのがわかる。

「こ、こいつ……! 逃すかああぁぁっ!」

 ルベックは俺が大人しく従うと思ったのか、意外そうな顔をしたあとでまっすぐこっちに向かってきたが……好都合だ。

「あ……? どこに消えやがった……!? そんなに殺されたいのか!」

《インヴィジブル》で姿を隠すと、やつは目視できないほどの速さで周囲を探している様子だった。見てると目がおかしくなるんじゃないかと思えるほどだ。案の定、速度に関係した固有能力を持ってるらしい。

《結合》でルベックの足を地面とくっつけてやろうかと思ったが、やつはあまりにも速い上に武器を振り回してるみたいだし、こっちの透明な状態も長くは続かない。再使用まで少し時間も空くしな。下手に近寄ってちょっかいを出すのは危険な気がする……。

「畜生っ! どこに行きやがったって言ってんだよ、クソセクトオォ……いい加減ぶち殺すぞコラアアアァッ!」

 やつが狂ったように叫びながら血眼で俺を探す間に、ミルウ、スピカ、ルシアが《ワープ》に乗った。さあ、あとは俺……って、バニルがまだいる。何故だ……。

「バニル!? なんで乗らない!」

「クソセクト!? いるのか? どこだ! どこに隠れやがった!?」

「う……」

 俺は口を押さえた。このままじゃ声で居場所がバレるからだ。

「セクト! 先に行ってて!」

「な、なんで、そんなことできるわけ――」

「――そこか!? ちっ! また隠れやがって……」

 声で判断したのかルベックが斬りかかってきて、咄嗟にかわしたものの俺の右肩に裂傷が走っていた。触れてもいないのに……というか、かなり距離があったのにこれかよ。一体どんな武器を使ってるんだか……。

「そこかあああああっ!」

「くっ……」

《インヴィジブル》の効果が切れたので再使用する。血で居場所がバレないよう、傷口を押さえながら。俺も早く《ワープ》に入りたいが、バニル一人だけここに置いていけるわけがない。一体何を考えてるんだ?

「出てこねえならこいつを人質にしてやるぜ……!」

 ルベックのターゲットがバニルに向かうのは時間の問題だった。一体何やってるんだよ、バニルのバカ……。

「――くっ……その程度……?」

「な、んだと……?」

 俺の心配をよそに、バニルはルベックの物凄い速さの攻撃を受け流していた。これが【鑑定眼】の派生スキル《補正》の底力なのか。ランクはそれほど高くもないのに計り知れない強さを感じる。というか、今まで手加減していたのかっていうレベルだ。

 あの表情の陰りと何か関係があるんだろうか? 頑張りすぎると体に異変が起きるとか……まさかな。とにかく彼女の剣術の凄さも相俟って、それは最早芸術作品とも思える動きだった。俺が目で拾うのがやっとなルベックの攻撃をもろともしないなんて……。

「こ、このアマ……運がよかったなあ? 俺の手が負傷してなきゃ、今頃死んでるぜ……!」

「言い訳、格好悪いよ……?」

「くうぅ……こんのクソアマがああああぁっ!」

 もう《ワープ》は既に解除されてしまっている。今度出したとき、同じ場所に行けるかどうかは限らないが、状態は維持されるはずだし時間をやたらと置かなければ大丈夫のはず。というわけで俺は《ワープ》を再使用して待つが、バニルを一人残していけるはずもなく立ち尽くしていた。

 ……あ……そうか。わかった。バニルはスピカの《招集》で帰る気なんだ。おそらく、それまでルベックの能力を俺のために調べようっていうんだろう。

 俺はその気持ちに応えるべく、バニルの無事を何度も確認してから《ワープ》に乗った。頼む、バニル。もう少しでいいから耐えていてくれ。絶対に生きて俺の元に帰ってきてくれ……。
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