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第4回 曇り時々雨
しおりを挟む味方にスレイヤーが一人でもいるならともかく、一般人が三人だけじゃ厳しいってことで、俺たちはそのあともパーティーメンバーを募ることに。
「はい、そこっ!」
「……自分、ですか……?」
「そうだよ! あんたは見た目が強そうだから!」
女子高生の黒坂優菜が次に選んだのは、体重100キロは優に超えてそうな恰幅のいい男で、顔も眉毛が薄くて強面だった。
そういや、なんか見たことがある人だと思ったら、近所をよく通るトラックの運ちゃんで、このコンビニでも何度か見かけたことがあった。
「自分、別に強くもないし役に立てそうにもないですけど……大丈夫ですか? こう見えて大人しいほうなんで……」
「いいからいいからっ! その強面ならモンスターも恐れるかもしれねーし!」
「は、はあ……」
「よし、決まりっ!」
こうして、トラックの運ちゃん――山室克明――をほぼ強制的に仲間に加えた俺たちは、まだ心許ないってことであと一人だけ指名することに。
「――そこの爺さんっ!」
最後に黒坂が指名したのは、傘を手にした白髪交じりのおじさんだった。そういや、今日は昼から夕方にかけて曇り時々雨の予報だったから持ってきてたんだろうな。結局降らなかったが。
「は、はあぁっ……!? なんでわしが選ばれるのだっ!?」
「だって、あんたの持ってるその傘が武器になりそうだし、元気そうな爺さんだと思って。それだけさっ!」
「まったく。こんな傘で戦えるもんか。こういうときこそ若いモンを選べばいいだけだろうにっ……! というか、わしのことを爺さん呼ばわりしとるがこう見えてもまだ60だぞ!?」
「んなこと言って、あんた自分のことわしなんて言ってるし年寄りの自覚はあんだろ!」
「そ、そんなの、昔から使っとるだけだ、まったくもう、最近の若いモンは……!」
「さっきから若いモンは若いモンはって、やっぱり自覚あんじゃねーか」
「ぐ、ぐぬう……口が減らんな。最近の若いモンは……」
爺さんは顔をしかめつつもこっちに歩み寄ってきたし、仲間として呼ばれたことに対しては満更でもなさそうだった。主に女子高生の黒坂のほうをチラチラと見てたから、元気がいいっていうのはそういう意味も含まれてそうだな。
彼に名前を聞くと、風間昇といって普段は近くの施設で警備員をやっているらしい。今日は非番だからぶらぶらしていたとか。年齢の割りにガタイがいいのはそういうことか。
「よーし、それじゃ、これでメンバー集めは終わりにすっか――」
「――ま、ま、待ってくださいぃ……」
意外なことに、手を挙げながらこっちに近付いてきた人物がいた。
鞄を脇に抱えた、七三分けでスーツ姿のサラリーマン風の男だ。俺たちの仲間になりにきたんだろうか? かなり気弱そうに見えるだけに意外だが……。
「な、なんだよ、一体どうしたんだ、あんた? 怖いならその辺でじっと隠れてろって」
これにはさすがの黒坂も戸惑ってる様子。男は緊張した表情で足を震わせている。
「……そ、その、恐れながら、私はこういう者でしてぇ……」
男が手を震わせつつ名刺を俺たちに手渡してきた。
何々――羽田京志郎、か。怪しげな健康食品のセールスマンをやってるみたいだ。こんな押しの弱そうな人で務まるんだろうか。
「なんだよ、セールスマンか。まさかこんなときに押し売りでもする気か?」
「い、いえっ……」
「じゃあ、ここに何しに来たっていうんだよ、あんた、なんか苛つくやつだなっ!」
「も、申し訳ないですうぅ。わ、わわわ、私もっ、あなっ、あなたたちの仲間に、その、い、入れてもらえないかなって……」
「はあぁ? 仲間になりたいって、あのなあ、あたしらは遊びに行くわけじゃねえんだぞ!?」
「ひぃっ! そ、そう言わずに、どどっ、どうか、お願いしますううぅ……」
「…………」
黒坂に怒鳴られると、羽田という男は涙目で土下座してしまった。こんなに弱気な性格なのにパーティーに入りたいなんて、本当に人は見かけによらないな……。
もしかしたらあれかな、何かを機会に臆病な自分を変えたいっていう、変身願望みたいなものが元々あったのかもしれない。
「ま、別にいいけどよ、足手纏いになりそうならすぐに置いてくから、そのつもりで」
「あ、ありがたいですうぅ……!」
男はネクタイを弄りながら何度も俺たちに頭を下げてきて、周りから失笑が上がるのだった。本当に大丈夫なんだろうか、この人……。
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