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第5回 蠢くもの

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 パーティーメンバーが俺を含めて6人集まったってことで、早速出発することに。

 待機してモンスターを迎え撃つっていう手もあるが、緊張で体も硬くなってるだろうし、歩きながらのほうがいざ出現したときに対応しやすいと思ったんだ。

「そだ、まずはあたしらの先頭を歩くやつを決めよう、野球帽の人、頼むぜ!」

「は? なんで俺が……」

 黒坂優菜の発言に対して、藤賀真優とかいう野球帽の少年はいかにも不満そうな声を上げた。

「だってあんた、バット持ってるじゃん」

「い、いや、バットを持ってるやつが最初にやられたら洒落にならないだろ。だから俺はパスさせてもらう」

「んだよ、もう。そんじゃ、そこのデブ――じゃなくて、あんた!」

「……正直、自分は怖いので嫌です……」

 山室克明だったか、トラックの運ちゃんには即座に拒否されてしまった。

「あ、わ、わ、私だって、絶対に嫌ですからねえぇっ……!」

 セールスマンの羽田京志郎については、もう聞かなくてもみんなわかってる。

「じゃあ俺が行くよ」

 というかみんな嫌そうなので俺が引き受けることに。不安はもちろんあるけど、このままいつまでも出発できないでいるよりはいい。

「さすが、ガタイのいいあんちゃん! 工事帽!」

「黒坂……一応、俺には佐嶋康介っていう名前があるんだがな」

「ま、まあまあ、気にすんなって! 6人もいたら名前なんていちいち覚えてらんねえって!」

「そりゃそうか」

 確かに名前より、女子高生、工事帽(俺)、野球帽、トラックの運ちゃん、爺さん、セールスマンのほうが頭に入る。

「なあ、野球帽、そのバット貸してくれないか?」

 俺は野球帽の少年に声をかけた。さすがに先頭を歩く上に素手となると不安しかないしな。

「……俺の名前は野球帽じゃなくて藤賀っていうんだ。工事帽」

「それはすまなかった。藤賀、バットを貸してもらえないかな?」

「……いや、これはダメだ」

「なんでダメなんだ?」

「これは、俺の命みたいなもんだから……」

「……そうか」

 俺の命はどうでもいいのかと思ったが、変に波風立てるのもな。

「工事帽のあんちゃん、わしがこの傘を貸してやるぞ!」

「おお、これはありがたい……」

 俺は警備員の爺さん――風間昇――から傘を受け取った。何も持ってないよりは精神的にも大分違うし、これは本当に助かる。

 それから俺たちは、その場に残った客の拍手を背に受けながら、慎重に前へと進んでいった。

 通路を挟んで二つ目の部屋、三つ目の部屋と進んでいくが、構造は一つ目の部屋とまったく変わらない上、モンスターも出てくる気配はまだなかった。



「…………」

 あれからどれくらいコンビニルームを渡り歩いただろうか。十か所を過ぎてからはもう数えてない。

 そろそろ何か出てきてもおかしくない頃だと思えるが、モンスターらしきものは今のところまったく現れなかった。

「――あー、腹減った……」

 黒坂が陳列棚に置かれたメロンパンを掴んだ。

「これうまそー。ちょっとくらいつまみ食いしたっていいよな、ダンジョン化してるんだし」

「ちょっと待て、黒坂。ダンジョン化しているなら尚更、そんなものを食べたらやばいんじゃ?」

「ハハッ、大丈夫だって。佐嶋は心配性なんじゃねーの」

 俺の忠告に対し、黒坂が笑いながらパンの袋を破ったときだった。中に入っていたのはメロンパンではなく、青いゼリー状の蠢く何かだった。

「げえっ……!?」

 黒坂が慌てた様子でそれを床に投げ落としたあと、ウィンドウが表示される。レベル1のモンスターで、カモフラージュゼリーという名称だ。

 まさか商品に成りすましていたとは……。見た目に騙されないようにっていうダンジョンの注意事項はこのことか。

「俺に任せろ!」

 藤賀がバットで叩こうとするも、身軽にかわされてしまう。

「あひいぃぃっ!」

 何度も避けられた挙句、モンスターがセールスマンの羽田京志郎の頭上に乗ってしまった。

「ちょっと、あんた、あたしが捕まえるからじっとしてなよ――イタッ!?」

 黒坂優菜がモンスターを掴んだかと思うと、すぐに顔を歪めながら手離した。皮膚がただれてるのがわかる。このモンスター、触れたものを溶かしてしまうのか……。

「たしゅけてっ! あひっ、あひぃいっ!」

「お、おい、危ないから、暴れるなっ! じっとしてろ!」

 セールスマンの羽田が激しく動き回るので、藤賀がバットで狙えなくなってる。下手すりゃ頭部をバットでフルスイングしかねないからな。

「…………」

 お、モンスターゼリーが羽田の頭上から、今度はトラックの運ちゃんの山室の頭上に乗り移った。

「……は、早く、やっちゃってください……」

 モンスターが頭上にいるというのに、山室は青ざめてはいたが身動き一つ取らなかった。さすが、彼は見た目通りどっしりしているので助かる。

「よ、よし、じっとしてろよ、お前――」

「――いや、藤賀。やつは俺がやる」

 俺は頭上のゼリーに向かって狙いすまして傘の先端部分で突くと、見事に命中して弾けて消えた。どうやら倒したみたいだ……。

 っていうか、見た目の割りにすばしっこくて硬かった。手が痺れてるくらいだ。レベル1とは思えない強さだった。ゲームのようにモンスターを倒すことで経験値が上がってレベルが上がるならいいが、実際はレベルアップクエストをこなさないと上がらないみたいだからな。

「……チッ」

「…………」

 野球帽の舌打ちが聞こえてきたが、どうやら俺に対してっぽいな。まあ気にしない。

「だ、大丈夫かっ、黒坂! フー、フー!」

 黒坂の腫れた右手を爺さんが握ると息を吹きかけ始めた。

「な、何やってんだよ、爺さん、別に大した怪我じゃねえし、大体顔が近すぎんだよ……って、何舐めてんだよ!」

「イダッ!?」

 風間が黒坂にビンタされてなんとも言えない空気になる。初めてのモンスターとの交戦ってことでてんやわんやだったが、まあ一般人のパーティーならこんなもんだろう。
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