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第53回 お守り

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「佐嶋ぁ、起きろおぉ――」

「――う、うああぁぁっ……!」

 の声がして俺は思わず飛び起きたわけだが、そこは紛れもなく病室で、窓際には可笑しそうに口元を押さえる風間の姿があった。

 どうやら、彼が羽田の真似をしたらしい。おいおい……。

「……はぁぁ、はぁぁっ……か、風間さん……脅かさないでくださいよ……」

 本当に、心臓が今にも口から飛び出そうだ。しかも、両腕がない俺に対してやりすぎだろう……。

「す、すまんの、佐嶋よ。まさか、そんなに効くとは……」

 まったく……って、暗がりを映す窓際に風間は立っているわけだが、定期的にフラッシュがたかれていた。誰かに外から写真を撮られているっぽいが、何故だ……?

「不思議か? 佐嶋よ、あれからお前さんが病院へ運ばれて明け方から夜まで眠っている間、わしは学校ダンジョンを攻略したスレイヤーとして取材を受けておったというわけだ……」

「な、なるほど……でも、スレイヤーがダンジョンを攻略するなんて、別に珍しくもなんともないんじゃ……?」

「まあ、それはそうだがの、、となれば、話は別だろう?」

「あっ……」

 そういや、ダンジョンに入る前、風間はそんなことを警官たちに話してたっけか。

「一般人のおりをしながら、一体どうやってボスを倒したのかと、そりゃもう引っ張りだこでなあ……」

「……むしろ、俺が風間さんのお守りをしたんですが……」

「相変わらず言うのー、言うのー。だがな、世間の目は違うのだよ」

 ドヤ顔で決めポーズを取る風間にフラッシュがたかれる。白髪もすっかり染めてるし、服もおしゃれなものに新調されてるしで、見ていて段々苛立ってきた。

「風間さん、後頭部に白髪が目立ってますよ」

「な、なぬっ!? しっかり染めたはずだが……。こっ、後頭部のどの辺だっ!?」

「冗談です」

「ぐあっ!?」

 フラッシュとともに、風間の変顔もしっかりフィルムに収められたみたいなので、溜飲が下がる思いだ。

「風間さん、有名になれてよかったですね」

「お、おいおい、冷たい感じの物言いだが、これでよかっただろう?」

「どうしてですか?」

「お前さんはあの裏切り者の黒坂のように、一般人なのにダンジョンをクリアした英雄として生きたいのか? そんなことをしても無意味に目立つだけだぞ。そしたら、いずれ黒坂、羽田あたりの目にも入ることになるだろうて」

「……そ、それは、確かにそうですね……」

 母さんや妹、それに玄さんらに累が及ぶことを考えたら、事実を明らかにして目立つことは風間の言うように悪手だろう。

「あと、お前さんの体をしつこく調べたがっとる医者がおったから、知り合いのヒーラーを連れてくるからと嘘を言って追い出したんだぞ」

「それって……もしかして、眼鏡を掛けてる医者の男ですか?」

「うむ、そうだったな。よっぽど興奮しとったのか、鼻息を荒くして眼鏡が曇っておった。知り合いか?」

「いえ、顔見知りなだけです。なんか変な感じの医者だったし、追い出してくれてよかったですよ」

「ふむ……」

 あの医者は俺にやたらと執着してたからな。風間がいなかったら解剖でもされかねなかったし感謝しないと。

 ちなみに、医者という職業はヒーラーがいるからまったくいらないってわけでもなく、ヒーラーは身体の欠損には強いが病気の分野には弱いらしいから棲み分けがちゃんとできているってわけだ。ダンジョン菌に対しては、どちらもどうしようもないみたいだが。

「ところで、佐嶋よ、ちょっと聞きたいことがあるのだが……」

「なんですか、風間さん、そんなに改まって」

「両腕がないその体で、どうやってレベルを上げるのかと不思議に思ってな……」

「……そ、それは……まあ、大丈夫です」

 風間に言われてちょっと焦ったが、手がないといっても方法はあるから問題ない。

「わしが手伝おうか?」

「……いえ、大丈夫ですよ」

 手伝うとか言っているが、それを通じて俺の秘密を探ろうとしているのはバレバレだ。

「佐嶋よぉ、遠慮するなぁ」

「だから、自分でなんとかするんで大丈夫ですって。それに、気分が悪くなるから羽田の真似だけはやめてくださいよ……」

 俺の腕がこんな状態だからって風間はしつこいなあ。羽田の名前を出すだけでも具合が悪くなりそうだっていうのに。

「――康介っ!」

「康介兄ちゃんっ!」

「「あっ……」」

 俺と風間の上擦った声が重なる。病室に響き渡ったのは、俺の母さんと妹の灯里の声だったからだ。

「ひっく……こ、こんな腕になっちまってええぇっ! 辛かっただろうにっ! でも、よく生きててくれたよ。これからは母ちゃんが、なんでもしてやるからっ!」

「ぐすっ……! 康介兄ちゃんがこんな風になっちゃうなんてえぇっ……! でも、生きててよかったあっ! 私がずうぅっと側にいてあげるから安心してねっ!」

「…………」

 これはまずいな。使命感によるものか、二人の目が燃え上がってしまっている。

「あ、えっと、母さんも、灯里も、俺のことは大丈夫だから。アムゾンで頼んだ義手がもうすぐ届く予定だし、何より俺の師匠の風間さんが面倒を見てくれることになったから……」

「へ……?」

 呆然とする風間に、二人の魔の手が迫る。ここは申し訳ないが、あなたに避雷針――いや、俺のお守《まも》りになってもらうしかないんだ……。

「あ、あ、あなたが、康介の師匠の風間様でいらっしゃいましたかっ!」

「はふうっ! 康介お兄ちゃんのお師匠さんっ!」

「え、えっと、ふむ、確かにわしがそうだが――」

「――よかったら肩を揉ませてくださいっ!」

「私は足をっ!」

「え、ちょっ!?」

「「全身をっ!」」

「どっ……どわあぁっ!?」

 風間が目を見開いて逃げ回るのもわかるくらい凄い迫力で、に火がついた母さんと妹から追い回される羽目になっていた。いやあ、引き受けてくれて助かるが、さすがに気の毒になってきたな……。
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