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16.念願
しおりを挟む「わーい、当たったぁっ!」
次にクジで復讐の権利を勝ち取ったのは少年で、一見すると女の子だと見紛うほど長めの髪をした華奢な子だった。
「おめでとう」
「グルルァ、おめでとうだ」
「ウミュァア、おめでとうです」
「……あ、ありがとう……」
俺たちの祝福を前にして、彼はとても照れ臭そうにもじもじしていたが、やがて我に返ったのか強い表情で迫ってきた。
「ぼ、僕、ライレルって言います! この前、パーティーを追放されて悔しくて……」
ライレルと名乗った少年は、目に涙を浮かべながら心底悔しそうに話してくれた。
「――なるほど……」
ただ気に入らない……そんな理由だけで、彼はパーティーリーダーから散々嫌がらせを受けて追放されてしまったという。元のリーダーが病気によって脱退し、それまで大人しい男だったメンバーが新リーダーになると態度がコロッと変わったのだそうだ。
具体的には、リーダーの言う待ち合わせの場所にしてもライレルにだけ嘘を教えていたり、聞こえるように陰口を叩かれたりと、下種のような陰湿なやり方で自ずと脱退するように仕向けてきて、それでも歯を食いしばって耐えていたが、ある日リーダーからスカウトされた女の子が自分の代わりに部屋にいて、無理矢理追い出される格好になったらしい。
宿舎での雑用とかダンジョンでの危険な役回りは全部ライレルにやらせていたようで、聞いていて苛立ちが募るばかりだった。新リーダーはメンバーを全員女の子で固めていたというから、嫌がらせをした理由ははっきりしている。ライレルが男の子だからだ。新リーダーのやつは多分ハーレムを作るつもりなんだろうが、やり方が卑劣だし勇者アレクを連想して胸糞が悪くなる。
「許せないな、フェリル、クオン」
「グルルルァッ……まったくだ。オルドの代わりに我が行って成敗してやりたくなる……」
「ウミュァァアッ……クオンもです……」
「……」
二人とも俺より怒ってそうだ。
「僕がやり返せばよかったけど、スキルが弱くて……」
「どんなスキルなんだ?」
「【剣術能力向上・極小】なんです……」
「……そりゃきつい」
「うむ」
「ウミュァ」
「……ですよね。ないよりマシとはいっても、極小ってなんの嫌がらせなのかと……。それでも、負け惜しみかもだけど僕はその分地道に剣を磨いてきたし、ほかのことでもパーティーをサポートできるよう努力してきたつもりだし、やってることはほかのメンバーにだって負けてないはずなのに……」
ライレルはわなわなと肩を震わせていた。ハンデがある分努力を重ねてパーティーに貢献してきたはずだし、尚更追放には納得できなかったんだろう。
「だが、心配するなライレル。お前をすぐ最強の剣士にしてやる」
「え……?」
俺はライレルのスキルの強さを【逆転】させた。
「ま……まさか、僕のスキルの強さが逆になってる……?」
「ああ、剣を構えて少し動いてみろ」
「はい……えっ、あぁぁっ!」
ライレルの剣捌きには凄まじい切れ味とスピードがあり、まさに達人の領域だった。【剣術能力向上・極大】に加えて、それまで培ってきた努力が実った形だろう。
「凄い、凄いよ……本当に【逆転】しちゃうなんて……あ、あのぉ……」
「ん?」
「もう一つ、オルド様にお願いが……」
「なんだ、ライレル?」
「女の子に……してほしくて……」
「……な、なんでだ?」
「何故だ?」
「何故なのです?」
フェリルとクオンも気になる様子。
「……ぼ、僕、実は昔から女の子になりたくて……なんで男の子として産まれたんだろうって思うこともよくあって……」
「……そ、そうか、よくわかった。それっ」
今度はライレルの性別を逆にしてやると、彼ははっとした顔で自分の股間に触れていた。見た目は変わってないが、もう体は女の子だろう。
「……あ! アレがない! 僕、女の子になってる……! やったあぁっ!」
「「「……」」」
ライレルは感涙していて、スキルの強さを【逆転】させたときより嬉しそうにしていた……。
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