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20.恥晒し

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「今日は最高の日になると思うから、楽しみね、マゼッタ、エスティル……」
「ですねぇ」
「だな」

 王都の広場には、勇者アレクの銅像からほどよく離れた場所に僧侶ロクリア、魔術師マゼッタ、戦士エスティルの姿もあった。いずれも、近々アレクによって行われるであろうオルドに対する公開リンチを心待ちにしていたのだ。

「「「――あっ……」」」

 三人の上擦った声が重なる。ついに待ちに待った残虐ショーのやられ役であるオルドが登場し、アレクのほうに歩み寄っていったからだ。

「開始一分で公開謝罪、公開土下座と袋叩きが始まるから、みんな見ててね」
「「はーい」」

 彼女たちの表情は期待と喜びで今にも溢れんばかりだった。

 アレクがロクリアたちと行った事前の打ち合わせでは、アレクがオルドをこれでもかと痛めつけて気絶させたあと、ロクリアたちが颯爽と登場してオルドの今までの非道の行いを涙ながらに周りに打ち明け、一気に庶民を味方につけるという腹積もりであった。そこからは正義という名の拷問で、死ぬまで徹底的に苦しめる予定だ。

 オルドが不敬罪で勇者パーティーを追放されたことを除いては全てでっちあげなのだが、勇者パーティーの言うことを民が疑うはずはないと楽観視していたのだ。

「……あれ?」

 ロクリアの開いた口が塞がらなくなる。それもそのはずで、アレクは怒りに満ちた顔であるにもかかわらずオルドに対して小声で何かブツブツと呟くだけで、どちらかというと押されているように見えたからだ。マゼッタとエスティルも思わぬ光景を前に呆気に取られていた。

「ど、どういうことですぅ……? アレク様、様子がおかしいですよぉ……」
「お、お疲れなのでは……?」
「お黙りなさい!」
「「……」」
「今はアレク様が餌を撒いている段階よ。そんなこともわからないの? あの方は誰よりも尊い勇者様なの。オルドとかいう、あんなどうしようもない、そこらへんの石ころなんかとは違うし、そんなのに翻弄されるはずがないわ……。ほら、御覧なさい!」
「「おおっ……」」

 三人の表情がパッと明るくなる。勇者アレクが凄い剣幕でオルドに掴みかかったからだ。

「ここだとよく聞こえないから近くで聞くわよ!」
「「はいっ!」」

 周りからどよめきが上がり、いやおうなしにロクリアたちの期待は高まっていく。

「「「――えっ……?」」」

 だが、まもなく視界に入ってきたとんでもない光景を前に、彼女たちの顔は見る見る沈んでいった。土下座をしていたのはオルドではなく、勇者アレクのほうだったからだ。

「……い、一体何をしているの? アレク様……?」
「う、嘘でしょぉ……」
「あ、ありえん……」

 しかもアレクはその体勢のまま自らの顔を殴り始めて、周りから失笑まで上がっている始末だった。そんな奇妙な様子が受けたのか、続々と人が集まり始めていた。

「見て見て、なんなのあれ?」
「見世物?」
「うわー、カッコ悪……」
「ていうかあれ、完全に頭イカれちゃってるでしょ……」
「ぐばっ……」
「「「……」」」

 ロクリアたちがしばし呆気に取られた表情になる中、アレクは自分を殴り続けた末にピンク色の泡を吹いて倒れてしまった。

「てかこいつ、見たことあるぞ、勇者アレクだ!」
「な、なんだって!?」
「本当だ!」
「平和になって頭おかしくなったんじゃないか?」
「「「「「どっ!」」」」」

 悲鳴にまみれていたどよめきはやがてお笑いの方向へと変わり、アレクはただの見世物と化していた。

「……か……帰るわよ、マゼッタ、エスティル……」
「「えっ?」」
「……どうしてアレク様がこのような奇行をして恥をかいたのかは知らないけれど……このままじゃ私たちにまで火の粉が及ぶわ。とっとと行くわよ……」
「「はいっ!」」

 真っ赤な顔で引き揚げていくロクリアと、そのあとを青い顔で追いかけるマゼッタとエスティル。放置されたアレクは群衆に囲まれたまま、しばらく嘲笑の対象にされていたのだった。
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