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21話 噂
しおりを挟む「はー、むしゃくしゃするぜえぇ……」
冒険者ギルドの片隅にて、酒を浴びるように飲む【風の紋章】のリーダー、剣士ゴート。
「ゴート様の気持ち、よくわかるよ……」
「私もです……」
その傍らには、沈痛な面持ちの戦士ロナと白魔導士カリンの姿があった。
「モンドの糞野郎が……カス魔力の勘違い黒魔導士如きが、調子こきやがってよおぉっ……! ひっく……」
「うんうん……。今頃モンドのやつ、自分を追放したからあたしたちがダメになったって思ってそうで超むかつく。ちょっと墓穴を掘っちゃっただけなのに……」
「……で、ですね……。想像しただけでも気分が悪くなっちゃいますし、あれはただの小さなミスです。私たちはなんにも悪くありませんよ……」
堂々とした物言いのロナと違って、カリンのほうは半分溶けた顔を隠すように項垂れていた。
「だな……。てかカリン、お前まだその顔治らねえのか? これじゃ、次の依頼を受けにくいじゃねえか!」
「そうよ、カリン、いい加減にしてくれない? 周りからジロジロ見られるし、今回もあんたのせいで恥をかいたようなものなんだからね!?」
「ひっく……リ、リーダー様、ロナさん、ごめんなさい……なんとか、なんとかしますから見捨てないで……」
カリンが謝罪しつつ自身の顔に回復魔法を使うが、一時的には治ってもすぐに元に戻ってしまうのだった。
「「「はあ……」」」
重い空気と溜め息に支配される三人。
「――モンドとかいうやつ、気の毒だなあ」
「うむ、モンドとやらはもう終わりだな……」
「「「っ!?」」」
隣のテーブルに座る二人組の男の会話に対し、ゴートたちが我に返った様子になる。
「お、おい、そこのやつら! 今モンドって言ったよな、やつが何かしでかしたのか!?」
「やらかしたの?」
「失敗したんです……?」
「「……」」
ゴート、ロナ、カリンの三人に詰め寄られ、二人組が唖然とした顔を見合わせる。
「あ、あんたら、モンドってやつの知り合いか? 別にそいつがやらかしたわけじゃない。なあ、相棒?」
「う、うむ……。むしろ、モンドとやらはやらかされる側なのだよ」
「「「やらかされる側……?」」」
「おう。一部じゃ結構噂になってることでなあ。俺たちみたいな、臨時で色んなパーティーに入るようなタイプの冒険者にとっては、特に」
「うむ。【時の回廊】とかいう、呪われたパーティーにモンドという男が入ってしまったらしくてね……」
「「「呪われたパーティー……」」」
顔を見合わせるゴートたちの目には、薄らと光が宿っていた。
「く、詳しいことを教えてくれ!」
「お願いするわ! 少しくらいならお金も出すから!」
「早く、早く聞かせてください……」
「べ、別にいいぜ。なあ、相棒?」
「う、うむ……」
二人組の男は目配せし合ったあと、【時の回廊】パーティーの呪いについて語り始めた。
「――んでな、やつら【時の回廊】パーティーは中々の実力者揃いらしいが、大きな依頼をやる際、必ず失敗することで知られてる。んでたまらず臨時メンバーを募集することになったわけなんだが、それでもいつも失敗に終わるみてえでなあ……」
「うむ……。しかもだ、彼らは決まって虚ろな顔で呟くようだ。依頼をこなせそうだったのに、気付いたら失敗していた、これは明らかに呪いによるものだ……とな」
「そうそう。まあそんなわけだから、G級パーティーを成功に導いたっていうモンドってやつが入ったところで、おそらく失敗に終わるだろうよ……」
「うむ。しかも、【時の回廊】に入った臨時メンバーは、その呪いで精神的にショックを受けて廃人状態になるっていう話もあってだな……」
「おう、それなら俺も見たことあるぜ。真っ青な面でガクガク震えてて、何が起きたのか聞いても何も答えられなかったっていうし、本当に呪いで廃人にされちまった可能性は大いにあるんじゃねえかな……」
「「「……」」」
二人組の男が礼を受け取って席を立ち、ゴートたちは顔を見合わせてほくそ笑む。
「聞いたか? ロナ、カリン……! 今の話が本当なら、モンドは終わりだ!」
「うんうん、呪われてるパーティーなんて、相当にヤバイ連中と関わったみたいだねえ。今まで散々あたしたちの足を引っ張ってきたくせにいい思いをしようなんて、絶対に神様が許さないわよ!」
「本当に、そう思います。最高にいい気味ですし、今なら回復魔法も上手くいく気が……あっ……!」
「「っ!?」」
ゴートとロナがあんぐりと口を開ける。カリンの顔の溶けた箇所が見る見る元に戻っていったからだ。
「よおおぉし、治ったっ! これは、来てるな。俺たちのほうにいい風が吹いてきてる、確実に!」
「ホントだね……! モンドがもし廃人になって帰ってきたら、本人の前でざまあみろって言ってやりたい気分!」
「そのときは絶対、みなさんで言ってやりましょうよ……」
「「「ププッ……」」」
ゴートたちの満足げな笑い声が絶えることはしばらくなかった……。
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