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八話 馴染み
しおりを挟むいよいよ、イレイドとの決闘まで残り八日だ。
普通にやれば【剣術・小】スキルを持つあいつが勝つだろう。もちろん、勝算がまったくないわけじゃないし、そうでないならいくら自分の活路を見出すためとはいえ勝負は受けない。
なんせ、俺にはいつでも訓練する手段があるわけだからな。起きたら自分の部屋で【迷宮】スキルを使い、【異次元の洞窟】でモンスターと戦って訓練すればいいんだ。
ちなみに、あれから洞窟に何度か入ってわかったんだが、使うたびに構造自体、ガラリと変化するので毎回新鮮な気持ちでチャレンジできた。ただ、例の青白い光の向こうにはまだ行けず仕舞いだ。あの向こうには一体何があるのか、想像もつかない……。
「ルーフ兄様、入ってもいい?」
「あぁ、アレンか。いいよ」
「ねえ、ルーフ兄様――って! 何、その空洞……⁉」
「え……?」
しまった。迷宮のことばかり考えてたせいか、いつのまにか【迷宮】スキルを使い、【異次元の洞窟】を出してしまってたみたいだ。そういうわけで急いで消すことに。
「あれ、消えた?」
「ん? 何が消えたんだ? アレン、寝ぼけてたんじゃ?」
「……で、でも、今、確かに……おっかしいなあ……」
目を何度も擦りつつ、【異次元の洞窟】があった方向を見やるアレン。ちょっとだけ罪悪感は覚えるがしょうがない。
「それより、どうしたんだ?」
「……あ、えっとね。イレイドとの決闘、正直不安なんだけど、本当にやるの? ルーフ兄様が負けるとは思えないけど、でも、不安で……」
「そうか。心配してくれるんだな。ありがとう。でも、俺は絶対に負けないから」
「うん。それならいいんだけど……」
それからしばらく話をしたあと、アレンはようやく納得した様子で部屋を出ていった。内心、不安で仕方がないって顔してたな。それもそのはず。
子爵令息のイレイドは幼少の頃から喧嘩でも負けたことがないってことでも有名だし、さらに【剣術・小】スキルを手にしたことで鬼に金棒状態であり、ならず者の冒険者でも目を背けるくらいなんだ。
やつは昔から俺のことを何かと目の敵にしてくるし、おそらく、俺との決闘で手を抜くこともまずないだろう。圧倒的な力でねじ伏せるところを周りに見せつけたいはずだ。普通に考えたら、俺が勝つことを予想している者は家族を除いて限りなくゼロに近いんじゃないかな。
でも、【迷宮】スキルは妹のエリスの言う通り無限の可能性を持っていると俺は思ってるし、苦境だからこそいずれ何かを発見して道が開けると信じている。だから、開き直ってやるしかないんだ。
リリアンはこれについてどう思ってるかどうかは不明だが、あれから俺のところに来訪してくることが一切なくなった。まあ彼女からしてみたら自分は誰のものでもないって考えだろうし、勝手なことをするなって怒ってるのかもしれない。
俺だって、リリアンが自分のものだなんて露ほども思ってない。ただ、あいつとの幼馴染としての今までの関係をイレイドなんかに寸断されるのだけは許せなかった。
「…………」
俺はリリアンから預かったままのハンカチをじっと見つめる。これをあいつに気持ちよく返すためにも、なんとしてもイレイドに勝ちたい。負けたら家族やリリアンにどんな顔をされるかわからない。
……いや、そんなことじゃダメだ。負けることなんて考えちゃいけない。ひたすら勝つことだけを考えるんだ。俺はそう自分に必死に言い聞かせていた。
* * *
「――ふぅ、こんなもんでいいか……」
今日を迎えた時点で、イレイドとの決闘まであと五日となった。俺は朝食後に【異次元の洞窟】でモンスターを討伐し終わったこともあり、ついでに薬草を採取してその足で出入口へ到達し、自室へと舞い戻ったところだ。
相変わらず、洞窟内とは明るさや景色等、色々と違いすぎるので軽く眩暈を覚えるとともにショックを受ける。
この薬草を取った理由は、アデリータさんにプレゼントするためだ。これは傷だけでなく腰痛にも効くので、彼女は最近腰の痛みに悩んでるみたいだからきっと喜ぶだろう。彼女は今どこにいるんだろうと探してみたら、俺の部屋のすぐ近くにある父さんの部屋を清掃していた。
「アデリータさん!」
「あ、ルーフ様、どうされたのですか?」
「これ、プレゼント。腰痛に効くカイエン草っていう薬草」
「……こ、これを私なんぞにくださるのですか? そんな、いけません!」
「いやいや、アデリータさんにはいつも世話になってるし頑張ってもらってるから、これくらい当然だよ」
「ル、ルーフ様……あ、ありがたくいただきます……!」
アデリータさんが泣いて喜んでくれて本当に嬉しい。
リリアンとの一件以降、俺も薬草の種類や効果について本で色々と調べたんだ。父さんの書斎にはそれこそ沢山の本が置いてあって、いつでも好きなものを読んでいいって言われてるから助かる。
まあ今は読書よりも訓練の時間のほうが長いんだけどな。俺は朝食後と昼食後と夕食後、毎回【異次元の洞窟】に通っていることもあって以前より剣の腕は上達していると自覚できているものの、それでもやはり亀の歩みだ。ほんの一ミリずつといった感じなんだ。でも、それじゃ到底間に合わないし、イレイドには及ばない。
やはり、【異次元の洞窟】を発見したときのように、【何か】を発見しないことには、この【迷宮】スキルが飛躍的に伸びるなんてのはありえないってわけだ。
お、馬車の音が近づいてくるのがわかる。とても耳に馴染む優しい音。これは、間違いない……。それを耳にした途端、俺は居ても立っても居られなくなり、部屋を飛び出していた。
母さんとエリスもわかっているのか玄関前に既に来ている。いつも起きてくるのが遅いアレンでさえ、慌てた様子で駆け寄ってきた。馬車の音だけで誰なのかすぐにわかるくらい、会いたいと心の底から思える人が遂に帰ってきたってことだ。
「――おお、私を待ってくれていたのか。ただいま、愛しいリーネ。それに、我が可愛い子供たち、ルーフ、エリス、アレン。アデリータも、本当に世話をかけた……」
穏やかな笑顔で帽子を取る父さん。これだけ凄い人なのに、偉ぶってる姿を一度も見たことがない。
「パパ、おかえりなさい。実はね、ルーフがリリアン嬢を賭けて決闘をすることに……」
「な、なんだって? リリアン嬢を賭けてルーフが?」
びっくりしたような顔で俺のほうを見やると、興奮したのかどんどん紅潮させる父さん。いつになく真剣な表情だ。
「さすが、私の息子だ。それで、一体誰とやるんだ?」
「イレイドだよ、父さん」
「おぉ、ロード・バルテミアン子爵の令息、イレイドか! 確か、彼は【剣術・小】スキルを持っているらしいな。ルーフよ、勝てる見込みはあるのか?」
父さんはまっすぐ俺を見つめながら言う。その目に責めているという感情は一切感じられない。
「もちろんあるよ、父さん。でも、イレイドも強いし絶対とは言えない」
「ふむう……。よーし、父さんが仮想イレイドになってやろう。ルーフ、今すぐ私と木刀で勝負をするぞ!」
「う、うん」
こうして、子供と真っ向から向き合おうとするのが父さんの特徴だ。やりたいことが他にあっても、家族のことなら自身のことよりもそれを優先するんだ。むしろ優先というより、自分のことのように熱中しているように見えるし無理がない。だからこそ俺もそれに応えたいと思うし、精一杯頑張ろうという気持ちが湧いてくる。
それに、【剣術・大】スキルを持つ父さんなら、これ以上ない最高の練習相手になる。もちろん、手加減してもらわなきゃ話にならないと思うが、それでも【剣術・小】スキル持ちのイレイドよりは数段上なわけで、父さんと戦うことで俺の欲しがっている答えが見えてくるかもしれない。
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