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47話 畏怖

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「……」

 続々と集まってくる好奇な、それでいて好戦的な視線に頭がおかしくなりそうになる。一体なんだ、何が起こっているんだ……。

「おい、買うって言ってるのが聞こえないのか? それとも、もう始まってんのか?」
「い……いや、待ってくれ!」

 やっと声が出せた。頭が真っ白になると声もろくに出せなくなるなんてな。ジラルドが言っていた、平常心維持能力っていうのがいかに大事かっていうのを思い知らされる……。

「なんだ? 怖気づいたのかよ?」

 リーダーらしき長髪の若い男が鼻で笑うと、相手のパーティーからどっと笑い声が上がる。

「……な、なんなんですか、あなたたちは……!」

 コレットもようやく落ち着いてきたらしい。

「はぁ……? 自分たちのほうから喧嘩吹っ掛けてきておいてその言い分はねえだろうが」
「「……」」

 俺はコレットと顔を見合わせるも、彼女は当然だが困惑した様子で首を左右に振った。

「俺もコレットも覚えがない。詳しく教えてほしいんだが……」
「「「「はぁ?」」」」

 絡んできた四人パーティーは怪訝そうな顔で話し合ってる様子。とりあえず一触即発のピンチは乗り切ったと考えていいんだろうか? まだ油断はできないが……あ、話し合いが終わったのか、さっきの長髪の男が一歩前に出てきた。

「ギルドの広告の貼り紙にこう書いてあんだよ。『今すぐ初級ダンジョンに来て、俺たちと喧嘩してみろチキンのゴミ冒険者ども。俺たちは泣く子も黙る天下の《ゼロスターズ》の一員だ』ってよ。二人組っていうのも同じだし、書かれてた容姿とかもぴったり合ってるからお前たちで間違いねえ……」
「……バ、バカな……知らない! 俺たちはそんな広告貼ってない!」
「そうですよ! 私たちだって初心者なんです。なのに、なんで無差別に喧嘩を売る必要があるんですか!?」

 おそらく、誰かの嫌がらせだ。考えたくないが、あいつらの仕業としか思えなかった……。

「……じゃあ聞くけどよ、なんで強豪パーティーの《ゼロスターズ》のメンバーがこんなところにいるんだよ?」
「「……」」

 俺たちは黙り込んでしまった。これはまずいな。ヨークとラシムが俺たちを嵌めるために喧嘩を売るような広告を貼ったんだろうが、それを否定しても上級ダンジョンが主戦場のはずの《ゼロスターズ》のメンバーがこんなところにいる理由にはならないし、不自然に見えるのは確かだ。全て計算済みってわけかよ……。

「おい、どうするよ? なあ、エリック、ダラム、レジュネ。どう思う? 違うっていうならやめとくか?」
「なんか様子が変ですなぁ」
「だがな……」
「何してるんだい? 構わずやっつけておやり!」

 お、相手の仲間内で意見が割れ始めている様子。第三者による悪戯の可能性が出てきたからだろう。

「反対意見はレジュネだけならやめとくか? つまんねえけどよ……」
「いや、待つのだリーダー……」
「ん? ダラムも反対か?」
「彼らが《ゼロスターズ》のメンバーであることはほぼ間違いない。リーダーのジラルドが彼らに接触しているのを実際にこの目で確認したし、私の情報収集能力の高さはリーダーもよく知っているだろう……」
「……まあ、お前が嘘を言うとは思えねえな」
「やはり、怪しいですな」
「だからあたいは初めからそう言ってんだろ! 知らんぷりで油断させておいて仕留める気なんだよ!」
「……」

 にわかに雲行きが怪しくなってきた。ここで逃げるという選択肢もあるが、広告のことを考えると追いかけてくる可能性があるし、ほかのパーティーに捕まることも考えられる。それくらい異様なほど注目されているのがひしひしと伝わってくるんだ……。

「まあいずれにせよ、売られた喧嘩を買っただけとはいえ……あの《ゼロスターズ》のメンバーに絡んだわけだし報復は避けられねえだろ。やられる前にやっちまうか?」
「ですなあ。トップにいるやつらの鼻を明かそうと我々も準備してきたのですからねえ」
「うむ。ここで引くのはあまりに無様かと……」
「大体さ、《ゼロスターズ》って外れスキル持ちの集まりなんだろ? あたい全然怖くないよ。なんか不正でもしてるから上に行けてるってだけなんだろ!」

 ダメだ。あいつら全員戦う方向に傾いているのがわかる。メンバーの強がった台詞を聞いてもわかるが、やつらは《ゼロスターズ》に対する恐れから、やられる前にやろうとしているんだ。もうどうやっても戦闘は避けられそうにない……。

「カレルさん……怖いです……」
「……大丈夫だ、コレット……大丈夫だから……一か八か、逃げるぞ……」
「……はい……」

 それしかない。とにかく全力で逃げるしかないんだ。ただ逃げるにも工夫が必要だと思って、俺は意を決してニヤリと笑ってみせた。
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