18 / 21
悲鳴
しおりを挟む『『『『『ゴギャアアァァッ!』』』』』
ゴブリンたちの悲痛に満ち溢れた声は、同時に俺がレベルアップしたことを祝福する声でもあった。
名前:シオン=ギルバート
性別:男
年齢:15
身分:男爵
職業:吟遊詩人
ジョブレベル:8
習得技:風の音 怒声 咆哮の歌 足音 韋駄天の歌 怒涛の歌
俺は早速自分のステータスを確認すると、確かに上がっているのがわかった。この状態だと、新しい音を二つも覚えられるってわけだ。
「シオン様、もしかしてまたレベルが上がったんですか?」
「あぁ、よくわかったな。ジョブレベルが8になったよ」
「やっぱりっ……! シオン様、レベルアップおめでとうございます!」
「ありがとう、エリュ」
エリュネシアは本当に勘が鋭い。
ギルド長との会話で時間を無駄に使ってしまったものの、まだまだ時間はあるのでこれからもどんどん上げていくつもりだ。
「さて、覚えるならやっぱり戦闘向きの音しかないと思うんだが、何を覚えようか……」
「んー、戦いに使えそうな音自体、あまり思いつかないですねー……」
「あぁ……」
確かにエリュネシアの言う通りだ。音なんてそこら中に溢れてるはずなのに、戦闘用となると気合を入れるときに出す怒声や、相手の間合いに踏み込んでいく際の足音くらいしか思い浮かばない。
「ん……?」
そのとき、俺は森の中を一人で歩く少年の姿を発見した。
名前:ケイン=ラディック
性別:男
年齢:15
身分:F級冒険者
職業:剣使い
ジョブレベル:2
習得技:バッシュ
「……」
おいおい……単身ってこともあって、相当の自信があるんじゃないかと思ってステータスを覗いてみたんだが、このレベルじゃあまりにも無謀すぎる。
「一人じゃ危険だ。あの子を止めよう」
「はいっ!」
急いでケインという少年の元へ駆け寄ると、なんとも人懐っこい笑顔を向けられて面食らった。
「おっ、ヘタレ領主様じゃーん!」
「ちょ、ちょっとそこのあなた! とっても失礼ですし、シオン様は変わられたんですよ!?」
「いやいや、エリュ、子供相手に何をむきになってるんだ……」
「「えっ……」」
あれ? エリュネシアとケインがぽかんとしてる。俺、何かおかしいことを言ったか?
って、そうだ。俺も15歳だったんだ。前世のおっさんだったときの感覚で言っていた。
「そ、それは冗談として、そのレベルで、しかも一人でゴブリンエリアは危険すぎるから帰ったほうがいい」
「そ、そうですよ、シオン様の仰る通りです」
俺とエリュネシアの説得に対して、ケインは少しだけ考えたように上を向いたあと、ニカッと白い歯を出して笑った。
「もうちょっとしたら帰るし大丈夫だって! なんせ、ヘタレで有名だった領主様でさえここにいるんだし、俺だってやれるに決まってるぜ! んじゃーな!」
「「はあ……」」
ケインが意気揚々と立ち去り、俺たちは呆れた顔を見合わせるしかなかった。まだ自分に対しては旧シオンのイメージのほうが勝ってしまっているようだ。
「まあ、すぐ帰るって言ってるし、放っておこうか?」
「そうですね……」
「「……」」
と言いつつ俺はエリュネシアと一緒に歩き出したわけなんだが、しばらくしたらやっぱり心配になってきた。
ゴブリンには相手が強いか弱いかを見分ける能力があるし、あの少年のレベルだと集団で来られたらひとたまりもないだろう。
「やっぱり追いかけよう」
「ふふっ、言うと思ってました」
ってなわけで、俺たちは韋駄天の歌を利用して少年のあとを追い始めたが、既に姿が見えなくなってしまっていた。
「いないな……」
「ですねえ……」
「――うわあぁぁっ!」
「「っ!?」」
少年の叫び声がして、俺はエリュネシアの手を引っ張り、その方向へ猛然とダッシュする。
その際にゴブリンを麻痺させるべく咆哮の歌を演奏したが、だからといって安心はできない。
何故なら、これは遠くにいるモンスター相手だと効果が薄くなってしまうんだ。頼む、どうか間に合ってくれ……。
「……」
周辺の樹々や草むらにおびただしい血痕が付着しているのを発見して、俺は息を呑んだ。
この近くにあの少年はいるはずだが、まったく声が聞こえてこない。ってことはやはり、ゴブリンたちにやられてしまったのだろうか……。
「ふう。これでもう安心だから出ておいでー」
「「あっ……」」
俺はエリュネシアとはっとした顔を見合わせる。この聞き覚えのある声は、まさか……。
声がした方向に急いで走ると、そこにはなんとも対照的な二人――涼し気な表情をしたロゼリアと青ざめた顔のケイン――がいた。
その周りにはゴブリンたちの死骸が幾つも転がってることから、ロゼリアが倒したのは一目瞭然だ。どうやら彼女がケインを助けてくれたみたいだ。
「すげーや、これ全部あんたが倒したの?」
「うんっ。楽勝だったよー」
「さすが【剣術士】だな。いいなー」
「えへへっ。【剣使い】でも、頑張ればいい線までいけると思うよ? なんせボクはね、剣とは無関係のジョブの人に剣で負けたことがあるくらいだしっ」
「へぇー。どんなやつなのかな。マジすげー」
大雑把に数えてもゴブリンの死骸は20体以上だというのに、この数相手に楽勝とは……。ロゼリアのステータスを確認してみよう。
名前:ロゼリア=エステード
性別:女
年齢:16
身分:商人
職業:剣術士
ジョブレベル:6
習得技:ラウンドバッシュ エナジーブレイド ソードペイント
「……」
いつの間にやらジョブレベル6か。以前見たときは2だったし、あれから随分成長したもんだなあ……って、礼を言わなきゃな。そういうわけで、俺はエリュネシアとともに彼女たちの元へ近付いていった。
「あ、噂をすれば、領主様ー!」
「ロゼリア、元気だったか?」
「うん。あれから剣に目覚めて、ここでレベル上げしてるところだよー。ケイン君、この人が、ボクが負けた人だよ」
「えぇっ!? 領主様って、そんなに強かったんだ……。ご、ごめん。俺、失礼な態度取っちゃって……」
「いや、いいんだ、ケイン。俺が生まれ変わったように、お前もこれから頑張るんだな」
「おうっ! 俺はやるぜえぇぇっ!」
「「「あはは……」」」
立ち直りの早いやつだ。俺はエリュネシア、ロゼリアと顔を見合わせて笑うのだった。
とはいえ、ロゼリアがいなかったらケインを死なせてしまうところだったし、俺も反省しないとな。
それからまもなく夕陽が射してきたこともあり、俺たちは帰還することに。
「領主様ー、ボクと一緒に帰ろうよお」
「あ、あぁ」
ロゼリアから腕を組まれてしまった。なんだか照れるな……。
「シオン様、わたくしめも一緒に帰りましょう……」
「い、いててっ……!」
逆方向の腕をエリュネシアに強く引っ張られて腕が千切れるかと思った。
「へへっ、領主様モテモテじゃーん!」
「ケ、ケイン、からかってないでちゃんと反省するんだぞ……?」
「わかってるって! いよっ、最強の領主様!」
まったく、調子がいいもんだ。とにかく、これに懲りてケインは無理をしなくなるだろう。
ただ、それでもこういう無謀なことをする冒険者はおそらく今後も出てくるはず。なんせ、ギルド長が冒険者の死は日常的とか言ってたからな。
もちろん完全には防げないのはわかってるが、領主の俺にはなるべく犠牲者を減らそうと努力する義務がある。
「――え、戦闘向きの音を覚えないのですか?」
「あぁ、方向性を変えようと思ってな」
屋敷での夕食後、俺はエリュネシアに自分の考えを打ち明けた。
今までは戦闘向きの音ばかり求めていたが、それ以外の音も覚えたほうがいいような気がしてきたんだ。
たとえば、すぐに誰かをそこから避難させられるような、そんな都合のいい音があれば……。
となると、アレしかないんじゃないか?
《悲鳴を習得しました》
参考にしたのはケインの悲鳴だ。
名称:悲鳴
習得可能レベル:2
効果:悲痛の叫び声により、周りを一瞬怯ませる。
副作用:気力の消耗・微小
調和:可能
うーん、効果は一瞬怯ませる程度なのか。自分が想像していたものとちょっと違うが、近い感じはするしこれと風の音を合わせてみよう。
《恐怖の歌を習得しました》
名称:恐怖の歌
習得可能レベル:6
効果:味方だと思っている者を除く、自分よりレベルの低い相手を恐怖状態にして元の場所に帰還させる。
副作用:気力の消耗・小
調和:不可
おおっ……これなら、仮に領地が山賊に襲われる等の緊急事態が発生した場合、領民を即座に避難させたいときに使えるし、敵も俺よりレベルが低ければ退却させることができる。
「悲鳴と恐怖の歌を覚えた!」
「ええ……? ひ、悲鳴とは、一体誰のです……?」
「え、誰のって……」
「ま、まさか、シオン様……」
洗っていた食器を落とすエリュネシア。なんか彼女、とんでもない誤解をしてるような気が……。
「シオン様、また手を出したのですね。悲鳴を上げたのは、ルチアードさんですか? それとも、ロゼリアさん?」
「い、いや、ケインだよ、ケイン!」
「どうか白状なさいませええぇっ!」
「うわああぁぁっ!」
まさか俺が本物の悲鳴を発することになろうとは思わなかった……。
14
あなたにおすすめの小説
気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした
高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!?
これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。
日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた
歩く魚
ファンタジー
働きたくない元社畜、異世界で見つけた最適解は――「助成金で生きる」ことだった。
剣と魔法の世界に転生したシンは、冒険者として下積みを積み、ついに夢を叶える。
それは、国家公認の助成金付き制度――ギルド経営によって、働かずに暮らすこと。
そして、その傍で自らの歪んだ性癖を満たすため、誰に頼まれたわけでもない人助けを続けていたがーー
「ご命令と解釈しました、シン様」
「……あなたの命、私に預けてくれるんでしょ?」
次第にギルドには、主人公に執着するメンバーたちが集まり始め、気がつけばギルドは、愛の重い最強集団になっていた。
【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件
エース皇命
ファンタジー
前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。
しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。
悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。
ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】
異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。
『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。
しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。
そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる