16 / 31
第十六階 不遇ソーサラー、筋肉と対話する
しおりを挟む『マスター、一体どうされたんですか?』
『マスター、またボス狩りー?』
『忙しいのか、マスター』
マジックフォンから三馬鹿の耳障りな声が聞こえてくる。
ギルドに入っていると会話モードの画面に切り替えるだけでこうしていつでもどこでも多人数との同時会話が可能だ。映像も見ようと思えば見られるんだが目が腐るからやめておく。今でさえ耳が汚染されているがそれはもうしばらくの我慢だ。
「ちょっとな。俺……僕も忙しいんだ。ソフィアのことだが、あれから反省の意味も込めて、少し休養したいということでギルドを離れた」
『そうなのですか。ソフィアさんはそこまで気にしておられたのですね。あのゴミクズと相方だったときの心労もあったのでしょうけれど』
『うんうん、実はそれが一番大きいかも? ストレス溜まってたんだろうしー。私ならあんな間抜けのレベル上げに利用されるとかぜえーったい耐えられないもん!』
『まったくだ。あんな愚図と一緒に狩りなど考えられん。一日どころか一時間も我慢できずにモンスターごと愚図の頭を粉砕しそうだ』
「……」
勝手なことを言って笑い合ってるが、俺は驚くほど冷静に聞くことができた。もうゴミを二匹も甚振った上で殺してるしな。こいつらの中じゃ俺は今でも笑いの種なんだろうがそこから芽が出て自分たちを苦しめることになるとは夢にも思わないだろう。
「もしかしてその相方ってクアゼルなの!?」
「おい……」
「だ、だって、腹立つじゃない!」
エリナのほうが怒ってどうする。そんなに興奮したらコーヒー零れるぞ。
『マスター、誰かと一緒なのです?』
『なんか女の子の声がした! またナンパー?』
『マスターはモテるからな。誰にも相手にされず惨めに死んだ愚図と違って』
またゲラゲラ笑ってる。本当にしつこいやつらだ。そんなに残虐ショーを楽しみたいのか。
さて。目的の恨みのエネルギーは充填完了した。やつらの醜い声を聞くだけで充分だと思っていたが、まさかのおまけも貰えた。ソフィアとルーサを殺したことでちょっと萎えてたからな。
ギルド会話から一対一モードに切り替える。誰からにしよう。別に誰でもいいんだが相手の姿に転生する以上、違和感が少ないほうがいい。ギルド情報で三馬鹿のレベルを確認する。当たり屋のジュナが49、天然畜生のエルミスが47、脳みそ筋肉のローザが46か。というわけで俺と同レベルのローザからだ。
「ローザ、話がある」
『マスター……何か話でもあるのか』
一対一モードということで意識したのか急に小声で喋り出した。思い上がるな。誰がこんな性悪筋肉少女相手にするんだよ。
「ペア狩りしたい。やっぱり僕にはローザが一番だ」
『わ、わかった。是非』
「30分後に来てくれ」
『嬉しい。マスター』
教祖のお誘いに感動している様子。一番の愚図は誰なのか思い知らせてやる。
「ウプッ……」
なんか隣でエリナが口を押さえて笑いを堪えてるんだが。怒ったり笑ったりと忙しいな。
「マスター、お待たせ」
「おう、よく来たな」
「今日はどこで狩りをするんだ。マスター」
「狩り? 浅い階層でデートに決まってるだろ」
「で、デート……」
ローザの顔が見る見る赤くなっていく。鈍臭いこいつでも意図が理解できたようだ。ただあんまり表情が変わらないのが気色悪い。
「じゃあ、鎧を脱いでいく」
「いやいや、ローザはそのいかにも戦士って格好が可愛いんだよ」
「はあ。ではこれで」
可愛いにはまったく反応しないのかよ。鈍臭いとかいうレベルじゃないな。あまりにも可愛いとはかけ離れてるから筋肉化した脳みそがついてこないのかもしれない。
ダンジョンに潜る際に振り返ると、エリナが陽射しを浴びながらこっちに駆け戻ってくる様子が窓から見えた。よしよし、もうあれを買ってきたか。準備完了だな。
「――この階でデート?」
「そうだよ、ローザ。薄暗いしムード出てるだろう?」
「薄暗いならどこでもそうだが」
「ここなら敵も弱いし色々やれるだろ!」
「ふむ」
今更だがイライラするほど淡白なやつだ。愚図の癖に他人を愚図呼ばわりするなっての。浅い階層といっても、まさかそれが地下一階層だとは思わなかったらしい。筋肉に支配されてそうだし物足りなささえ感じてそうだ。だがそれでいいんだ。さすがにこの状況でスキル構成を確認しようとは思うまい。
「ヒール!」
よし来た。幾重にも重なったやかましい羽音をエリナが引き連れてくる。まるで黒いマントを被ってるみたいでエリナの上半身が見えなくなってるレベルだ。蝙蝠を集めてくれとは言ったが集めすぎだろう、さすがに。
「誰か助けなさいよ! ヒール!」
そこはしおらしく助けて―だろうに。
「愚図めが。マスターはここでお待ちを」
ローザが蝙蝠に向かっていく。さて。そろそろだな。ギルドを抜けてもらうか。マスターには追放の権限があるんだ。エンブレムを探して外す手もあるがこっちのほうが早い。後は俺がパーティを抜けてジョブを変更するだけ。
「ベナムウェーブ――マジックエナジーロッド!」
【先行入力】でエリナの前に軌道を作ると、ローザはあっさり引っ掛かって両足を失った。さらに後ろから駆け寄り、両腕をもぎ取って筋肉達磨の完成だ。
「ヒール!」
エリナがローザの意識を覚醒させ、ついでに蝙蝠たちを押し付ける。手慣れてきたなあ。やつらは雑魚だが血の匂いに反応して少々凶暴化する。でもファイターって無駄に体力あるから簡単には死ねないだろうな。今のヒールで相当回復しただろうし。
「ぐおぉ……?」
このままだとローザの顔すら見えないので少し殴って蝙蝠を減らす。
「マスター? これは一体……」
よしよし、十匹くらい落としたら顔が見えてきた。ローザのやつ真っ青だが全然表情変わってなくてちょっとがっかりだな。まさかそこまで鈍臭いとは。俺はちょっと焦っている。早速ネタバラシをして反応を見てみよう。
「俺はマスターじゃないぞ、ローザ」
「マスター、何を言っている」
ダメだこいつ。脳みそ筋肉に遠回しな言い方は通じないか。
「俺はクアゼルだよ。思い出したか?」
「その愚図がどうしたのか」
「それが俺なんだよ。ほら、これ見たらわかるだろ?」
マジックフォンを顔に擦りつけてやる。
「【転生】……?」
「そう。俺の姿はマスターだが、中身はクアゼルだよ」
「愚図……?」
反応する前に白目剥きやがった。やばいな。
「エリナ、ヒールはダメだ。ポーションを、早く!」
「わかってるわよ!」
エリナのマジックフォンからポーション瓶が出てくる。それをローザに飲ませるとすぐに目を覚ました。よかった。ヒールじゃこいつの体だと回復しすぎるからな。少しくらい弱らせたほうが筋肉も委縮して良い反応が見られそうだし、こんな愚図で長く楽しみたいとも思ってない。
「許してほしい」
「は?」
「悪かった、クアゼルさん」
こいつ、謝り方も淡白すぎるだろ……。
「愚図って言わないのか? お前の口癖だろ?」
「愚図は……私だ」
「私?」
「ローザ」
「うん。お前ほどの愚図はどこ探したっていないよな」
「ぐ……」
お、今ちょっと口元が引き攣ったな。ほんの少しは効いたらしい。
「ここでだけは」
「は?」
「ここでだけは、死にたくない」
涙を流し始めた。あれか、涙の説得ってやつか? こいつの涙って、感動の成分が途轍もなく薄そうだが。あー、そうか。レベル46で蝙蝠にやられるなんて恥だもんな。それならこの路線で行こうか。まず鎧を脱がし、中の服と下着を破いて全裸にするとアソコはモジャモジャだったが結構胸が大きくて驚いた。
「お前はここで蝙蝠に食われて惨めに死ぬんだよ」
「嫌だ……そんなの愚図すぎる……」
「愚図らしい死に方だろうが」
「ひぐっ……」
股間のジャングルにポーションを掛けてやる。
「お前は全裸で男と行為中に蝙蝠たちに絡まれて失禁しながらくだばるんだよな?」
「違う、違う……」
「何が違うってんだよ。ほら、早く飲めよ。死ぬぞ」
ポーションを垂らしてやると、なんの疑いもせずに飲むローゼ。本当にバカだな。ただのわずかな延命に過ぎないのに。余計に苦しむだけってことさえわからないのか。
「愚図がどれだけ惨めに死んでいったか、詳しくみんなに教えないとな」
「やめて、やめてぇ……えうっ……」
ローザが子供みたいに顔をしかめて泣いてる。最高傑作だ。こういうのを見たかったんだ。まもなく白目を出してニヤニヤ笑いだしたところで顔面を潰した。愚図にこれ以上の面白い反応は期待できそうにない。
22
あなたにおすすめの小説
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる