支援者ギルドを辞めた支援術士の男、少年の頃に戻って人生をやり直す

名無し

文字の大きさ
2 / 31

2話 雲の上の存在

しおりを挟む

「……う……?」

 目覚めたと思ったとき、僕は狭い部屋の中で横たわり、ぼろい天井を見上げていた。

 こ、ここは、まさか……。

 急いで窓の外を見ると、遠くに花畑があって、その中心に支援者ギルドの建物が立っていた。

 本当に戻ったというのか、あの頃に……。

 夢じゃないよな……? 恐る恐る、洗面台の鏡を覗き込んでみる。

「…………」

 そこには皺一つない、自分の若かりし頃の姿が映っていた。当然、白髪もまったく見当たらない。

 まさか、今までのことがむしろ夢で、僕は年老いた頃の夢を見ていたのか?

 そう思ってメモ帳を取り出してみたら、これから起こることがびっしりと書かれていた。

 やっぱり、あの魚が時間を戻してくれたのか。ってことは、あれは本当に神様だったのかもしれないな……。

 その上、メモ帳まで残してくれたからこれを参考にすれば人生を変えられるぞ。

「――あっ……そうだ、確か今日は……」

 僕はメモ帳に記された日付を見て、今日が支援者ギルドに入学する日だと気付いて慌ててアパートを出ると、大家のおばさんに声をかけられた。

「おや、クロムじゃないか」

「あ、どうも、大家さん、おはよう」

「確かあんた、今日が支援者ギルドの見習いになる日だったね。遅れないようにね」

「はい」

 潰れてしまったこのボロアパートも、転倒して亡くなった大家のおばさんも生存していることに感動する。何もかもが懐かしい。

 確か、この辺で掃除していて何かに躓いて頭を強く打ったらしいんだよな。

「な、なんだい? クロム、そんな物珍しそうにあたいのほうを見ちゃって。気味が悪いよ」

「い、いや、なんでも……あ、おばさん、足元には気をつけて!」

「え? なんでだい?」

「いいから!」

 これから何日後に亡くなる、なんて具体的に伝えても信じてもらえるわけないし、遠回しに注意することで死を避けられる可能性も高くなるはずだ。

 アパートを出る際、僕は支援術の一つである補助術を使い、自分の足の筋力を中心にバランスよく体を活性化させてみた。そしたら、驚くほど足が速くなって驚いた。そうか、技術も受け継いでる上、若いからこれだけの速度が出るのか……。

 視界一面に広がった美麗な花畑の間を疾走する快感は、ほかに代えがたいものだった。

 はっきりと覚えている。今日は、僕が新人として支援者ギルドに入る日だった。

 確かあのときに限って僕は緊張してあまり眠れず、寝坊して遅刻しそうになったから、景色を眺めてる余裕はほとんどなかったんだよな。

 お……前方に自分と同じ、背中に十字の刻印がある白いローブを纏った女の子がいると思ったら、ギルドで一番の美少女といわれたアルフィナだ。

 しかも、彼女はぼんやりしていたのか手提げ鞄を落とし、中から書類やらメモ帳やらが幾つも飛び出てしまったところだった。腰まである長い髪を地面に散らかしながら、泣きそうな顔で拾い集めてる。どうせだから手伝ってやるか。

「あ、ありがとうございます……!」

「あ、うん、気をつけて」

「はい!」

 あのときは、こんなに綺麗な子がいるんだなあって雲の上の存在を見つめる感覚だったけど、今の僕にとっては年下の子にしか見えなくて、特に浮足立つようなことはなかった。

 どんなときも堂々とした行動を取れば、周りから舐められるようなことも減るはず。細かいかもしれないが、こういうことの積み重ねが大事なんだ。今度こそ人生を失敗させないためにも……。

 支援者ギルドの中へ入ると、懐かしい顔の同僚たちが何人かいた。みんな緊張した様子で、その中には秀才で顔立ちが整った少年ヴァイスもいる。腕組みをしながら厳しそうな顔をしていて、人を寄せ付けないオーラを放っていた。相変わらずだなあ。

 そういや、ダランのやつは寝坊して遅刻してくるんだったな。

 まもなくアルフィナが入ってくるなり、周りの男たちが可愛いとか美人とかヒソヒソ言い合う中、彼女がこっちのほうを向いて頭を下げてきて、どよめいた。多分、彼女は僕に対して感謝してるんだろう。妙に誇らしい気持ちだが慢心は禁物だ。勘違いは男の敵だからね。

 それから少し経ってダランが慌てた様子で飛び込んできて、人助けしてたから遅れちまったとバツが悪そうにつぶやいていた。前にも聞いたことのある台詞だ。当時のあいつは寝坊したから遅れたんだと僕に笑いながら打ち明けてたけど。

 やがて、一人の老齢の男が杖を手に入ってきて、空気が明らかに変わった。

 彼こそ、支援者ギルドのマスター、バロンだ。数多くの患者を救ってきただけでなく、王様の主治医を務めたこともある偉大な人物で、年を取って引退するとともに、後継者を育成するべく彼の故郷であるこのフラーデンの町に支援者ギルドを建設したんだ。

 確か、僕たちが入ってきてからおよそ3年後に容体が急変して、それから数日後に亡くなってしまうんだ。腕のいい支援者がいれば彼を助けられたともいわれたが、衰えたとはいっても彼自身が治せなかったのだから難しいだろう。

「…………」

 そこで僕は気付いた。30年技術を磨き、若さも手に入れた自分なら治せるかもしれないと。立派な上に驕らない彼がこの世を去ってからというもの、この支援者ギルドは権力争いが目立ち、明らかに空気が淀んでいった。

 そのことは、ヴァイスのような優秀な支援者がここを去っていった遠因でもあると思う。

「ゴホッ、ゴホッ……支援者ギルドへようこそ。若者たちよ、夢を抱くのはいいが、まずは身の回りで苦しむ者たちを真心によって救ってあげなさい。その経験によって、本当に大事なものが何かいずれわかるだろう。わしからの話は以上だ」

 そうそう、すぐに話が終わってぽかんとしたのを覚えている。それでも、この台詞はずっと支えになったものだ。具合が悪いのか、すぐに奥へと引っ込んでいったが。

 恩師だし今すぐにでも治療してやりたいけど、新人の僕がやるのは不自然すぎるし、容体が悪化するまで待たなきゃいけない。

 それまでに実績作りをしておきたいものだ。過去に戻ったことで浮かれてたけど、急ぐ必要がありそうだね……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

処理中です...