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24.滑り出し
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「……」
心臓が今にも口から飛び出そうなくらい、僕は緊張している。なんであれ、新しいことをやろうとするときには恐れを抱くものだ。これを打破しない限り、前には進めない……。
「セインったら、なーにさっきから格好つけた顔しちゃってるのよ。似合わなすぎ。あまりにもキモくて鳥肌が立っちゃったわ」
「あははっ……」
アリシア、本当は素敵って言いたいんだろうに、相変わらず素直じゃないね。そこが彼女のチャームポイントでもあるんだけど。
「で、これから一体何を始めようってわけ?」
「すぐにわかるよ、僕のアリシア……」
「キモキモッ……!」
さあて、歴史的な第一歩を踏み出すとしようか……。
今までの僕は、部分的に【スコップ】していた。どんな掘り方をするにせよ、椅子が出てきたなら椅子を、椅子と関係するテーブルが出てきたならテーブルをといった具合に、あくまでも限定的な発掘にこだわっていた。
けれども、よくよく考えてみると、それしかできることはないんだと勝手に僕が思い込んでいただけなんであって、実はそうじゃないのかもしれない……すなわち、全体にも適用されるかもしれないんだ。
もちろん、その全体というのは、掘り出したものの集合体――カフェそのもの――である。
このカフェ自体に関連掘りをすることで、今僕たちが困っている問題……客と戦力の問題を一気に解決させることができるんじゃないかと思ったのだ。
確かに人を発掘するのが物凄く低確率なのはわかるけど、それがカフェの客として見るならどうかな? 何もないところから新たに生き物を生み出す、というものを、カフェの客を生み出すということに変換することで、その難易度をグッと減らそうっていう試みなわけなんだ。これなら確率的にもそこまで悪くはならないはず。
いやー、最近はスケベなことばかり考えてたせいか、脳みそが幾分ツルツルになってたような気がするけど、ここまでどっぷりと考え込んだためか、かなり皺ができて賢くなったんじゃないかと思う。自分でこんなことを言うのもなんだけどね……。
「ちょっと、セイン、何か掘るんでしょ? だったら勿体ぶらずにとっととしなさいよ!」
「あ、うん、ちょうどこれからやるとこ――」
「――ただいまあっ」
「「あっ……」」
さあ、いよいよこれから始めようってところで司祭様が帰ってきた。
んー、期待しすぎるのもよくないし、今日はこの辺でやめとくかな。アリシアが早くやれと言わんばかりにちょっと怖い顔をしてるけど、少し休めば大人しくなるだろうし、司祭様も前のめりになりすぎるといけないって言ってたからね……。
◇◇◇
「来い来い来い来い来い来い来い来い来いっ……!」
「来るのだ、来るのだ……」
「来てっ、お願いよぉ……」
「グルルゥ……」
「きっ……きったあああああぁぁぁっ!」
「「「おおおおぉっ……!」」」
冒険者ギルドのカジノエリア、ルーレット台前にて、ビスケスたちの歓喜の声が響き渡る。
「よーし、久々に勝ったぜ。もう一勝負すっか――」
「――いや、待つのだ、ビスケス」
「へ……? エギル、どうした、まさか臆したっていうのか……?」
「エギル、どうしたのぉ? ノリ悪いよぉ?」
「グルルァ……?」
いかにも怪訝そうなギャンブラーたちの視線が、盛り上がったところで待ったをかけたエギルに向けられる。
「例のカフェについてなのだが……」
「あー……その件に関しちゃ、もうしばらくはいいって。そりゃ確かにむかつくけど、金がなくなったらまた対策立てりゃいいんだし」
「そうだよぉ。ギャンブルのほうがぁ、ずっとずうっと楽しいしぃ……」
「オォンッ!」
「いや……ビスケス、ステファー、グルドよ、人の話は最後まで聞きたまえよ。面白いことがわかったのだ。あのセインめが生きていて、しかも例のカフェを経営してるらしいぞ……」
「「「っ!?」」」
エギルの発言により、その場の空気が明らかに不穏なものへと変わっていく。
「あ、あいつが……実は生きてた上に、あのカフェを経営してたっていうのか……? じゃあつまり、例のオーガを雇ったのもやつの差し金ってことだよな……」
「うむ、そうとしか思えない。やつは我々をピンポイントで狙っていたのだよ……」
「あ、あのモグラ野郎ぉぉ、無能で役立たずだから生き埋めにされたこともわからずに、そのことを根に持って逆恨みするなんて、胸糞すぎるよぉ……」
「グルル……」
彼らは色めき立った様子で顔を紅潮させ、最早ギャンブルどころではなくなっていた。
「ゴミセインの野郎、調子に乗りやがってえぇ……無能は一生無能だってことを、やつの体に刻み込んでやろうぜ!」
「うむ、完全に同意だ。あんな役立たずの奴隷如きにやり返されたのだと思うと、はらわたが煮えくり返っている……」
「私もっ。骨の髄まで叩きのめしてあげたあと、今度こそモグラ野郎を生き埋めにして、完全にくたばったところをしっかり確認しなきゃっ。ね、グルドォ?」
「ハッ、ハッ……!」
ビスケスたちの目は、周りに人がいなくなるほど鋭利さを増す一方であった……。
心臓が今にも口から飛び出そうなくらい、僕は緊張している。なんであれ、新しいことをやろうとするときには恐れを抱くものだ。これを打破しない限り、前には進めない……。
「セインったら、なーにさっきから格好つけた顔しちゃってるのよ。似合わなすぎ。あまりにもキモくて鳥肌が立っちゃったわ」
「あははっ……」
アリシア、本当は素敵って言いたいんだろうに、相変わらず素直じゃないね。そこが彼女のチャームポイントでもあるんだけど。
「で、これから一体何を始めようってわけ?」
「すぐにわかるよ、僕のアリシア……」
「キモキモッ……!」
さあて、歴史的な第一歩を踏み出すとしようか……。
今までの僕は、部分的に【スコップ】していた。どんな掘り方をするにせよ、椅子が出てきたなら椅子を、椅子と関係するテーブルが出てきたならテーブルをといった具合に、あくまでも限定的な発掘にこだわっていた。
けれども、よくよく考えてみると、それしかできることはないんだと勝手に僕が思い込んでいただけなんであって、実はそうじゃないのかもしれない……すなわち、全体にも適用されるかもしれないんだ。
もちろん、その全体というのは、掘り出したものの集合体――カフェそのもの――である。
このカフェ自体に関連掘りをすることで、今僕たちが困っている問題……客と戦力の問題を一気に解決させることができるんじゃないかと思ったのだ。
確かに人を発掘するのが物凄く低確率なのはわかるけど、それがカフェの客として見るならどうかな? 何もないところから新たに生き物を生み出す、というものを、カフェの客を生み出すということに変換することで、その難易度をグッと減らそうっていう試みなわけなんだ。これなら確率的にもそこまで悪くはならないはず。
いやー、最近はスケベなことばかり考えてたせいか、脳みそが幾分ツルツルになってたような気がするけど、ここまでどっぷりと考え込んだためか、かなり皺ができて賢くなったんじゃないかと思う。自分でこんなことを言うのもなんだけどね……。
「ちょっと、セイン、何か掘るんでしょ? だったら勿体ぶらずにとっととしなさいよ!」
「あ、うん、ちょうどこれからやるとこ――」
「――ただいまあっ」
「「あっ……」」
さあ、いよいよこれから始めようってところで司祭様が帰ってきた。
んー、期待しすぎるのもよくないし、今日はこの辺でやめとくかな。アリシアが早くやれと言わんばかりにちょっと怖い顔をしてるけど、少し休めば大人しくなるだろうし、司祭様も前のめりになりすぎるといけないって言ってたからね……。
◇◇◇
「来い来い来い来い来い来い来い来い来いっ……!」
「来るのだ、来るのだ……」
「来てっ、お願いよぉ……」
「グルルゥ……」
「きっ……きったあああああぁぁぁっ!」
「「「おおおおぉっ……!」」」
冒険者ギルドのカジノエリア、ルーレット台前にて、ビスケスたちの歓喜の声が響き渡る。
「よーし、久々に勝ったぜ。もう一勝負すっか――」
「――いや、待つのだ、ビスケス」
「へ……? エギル、どうした、まさか臆したっていうのか……?」
「エギル、どうしたのぉ? ノリ悪いよぉ?」
「グルルァ……?」
いかにも怪訝そうなギャンブラーたちの視線が、盛り上がったところで待ったをかけたエギルに向けられる。
「例のカフェについてなのだが……」
「あー……その件に関しちゃ、もうしばらくはいいって。そりゃ確かにむかつくけど、金がなくなったらまた対策立てりゃいいんだし」
「そうだよぉ。ギャンブルのほうがぁ、ずっとずうっと楽しいしぃ……」
「オォンッ!」
「いや……ビスケス、ステファー、グルドよ、人の話は最後まで聞きたまえよ。面白いことがわかったのだ。あのセインめが生きていて、しかも例のカフェを経営してるらしいぞ……」
「「「っ!?」」」
エギルの発言により、その場の空気が明らかに不穏なものへと変わっていく。
「あ、あいつが……実は生きてた上に、あのカフェを経営してたっていうのか……? じゃあつまり、例のオーガを雇ったのもやつの差し金ってことだよな……」
「うむ、そうとしか思えない。やつは我々をピンポイントで狙っていたのだよ……」
「あ、あのモグラ野郎ぉぉ、無能で役立たずだから生き埋めにされたこともわからずに、そのことを根に持って逆恨みするなんて、胸糞すぎるよぉ……」
「グルル……」
彼らは色めき立った様子で顔を紅潮させ、最早ギャンブルどころではなくなっていた。
「ゴミセインの野郎、調子に乗りやがってえぇ……無能は一生無能だってことを、やつの体に刻み込んでやろうぜ!」
「うむ、完全に同意だ。あんな役立たずの奴隷如きにやり返されたのだと思うと、はらわたが煮えくり返っている……」
「私もっ。骨の髄まで叩きのめしてあげたあと、今度こそモグラ野郎を生き埋めにして、完全にくたばったところをしっかり確認しなきゃっ。ね、グルドォ?」
「ハッ、ハッ……!」
ビスケスたちの目は、周りに人がいなくなるほど鋭利さを増す一方であった……。
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