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第5話 スキルの可能性
「……」
あくる日の早朝、まだ暗いうちから目覚めた俺は、ユニークスキルの【スライド】を試そうとしていた。
いよいよだ。体についてはまだあっちこっちが痛むものの、スキルを試すくらいなら大丈夫だろう。
リハビリの意味も兼ね、まだ眠っている執事モラッドの目を盗んでこっそり外へ出かける。
なんせ、今はゆっくりしてる暇なんてないからな。
兄姉のダリックとエリーズがライバル貴族のグレゴリスに領地を明け渡してしまった以上、なるべく急がないといけない。
三男の俺やモラッドを血眼で探そうとしてくるはず。
猶予があるとしたら、おそらく砂浜の防壁が完成するまでだろう。
それまではモンスターや海賊が襲ってくる恐れもあるため、やつらはここまで来る余裕なんてないはずだ。
ただ、そういう事情があっても遠出だけはしないように心がけている。
手負いの状態で隠れ家の小屋から離れすぎたら、モラッドに迷惑をかけることになるかもしれないしな。
なので、小屋が見えるところでスキルの実験をする。
ここなら色々試せるし、仮に何かあってもすぐに小屋の中に逃げ込むことができる。
ただ、多分モラッドは気配でわかってると思う。俺がスキルを試したくてこっそり出かけていることは。
彼は【剣使い・中】スキルを持っている。武術系のスキルを持つ者は、気配を察する力もあるそうだから。
それでも止めないのは、スキル使用禁止期間の三日間も過ぎてるし、体も治りかけてるので問題ないと踏んだんだろう。
「スライド」
俺はその辺に転がっている小石に対して【スライド】スキルを使ってみる。
すると、斜面でもないのに転がっていった。
大きめの石にも使ったが、問題なく転がっていく。
これが本来の意味での滑らせる効果だ。
消費エネルギーについては、大したことはやってないためかあまり浪費したと感じない。
次にやるのは、自分自身に対してだ。
「うおっ……⁉」
問答無用で転倒したが、念のためにクッションのある雑草の上でやったので怪我はなかった。
これで、このスキルが自分にも適用されるのがわかった。
戦闘に使えないってわけでもなさそうだな。石畳の上でこれを敵に使えば相当なダメージがあるだろう。
だが、これだけじゃただの外れスキルに過ぎない。
スライドっていう言葉には滑るという意味があるのはもちろん、ずらす意味合いもあったはずだ。
……待てよ? 滑らせるだけじゃなくて、ずらせることもできると考えると、その可能性は大きく広がるんじゃないか?
よし、ダメ元で試してみるか。
ずらせる対象となると、何があるだろう。
アレにしよう。
俺は目についた一メートルほどの小さな木に、【スライド】スキルを使ってみる。
「スライド」
なんと、木は30cmほど横に動いた。そのまんま移動した感じで、倒れる心配もなさそうだ。
若干気力は消耗したが、横だけじゃなく前後左右に動かせるのがわかった。
「おぉ……」
小屋全体にも使えるかと思ったら、さっきよりも規模が大きくて複雑なせいかもっと疲れたものの、小屋だけを10cmほど動かすことができた。
確か、スキルって使えば使うほど少しずつ強化され、消費エネルギーも減るって聞いた覚えがある。それなら、ユニーク系のスキルだってそうかもしれない。
この分であれば、いずれあの防壁だって動かせるようになる可能性がある。
「……」
この時点でも使えるスキルなのはわかったが、俺はさらに凄いアイディアを思いついてしまった。
物理的にだけでなく、それ以外のものもずらせるとしたら……?
たとえば、土だ。土は、『つち』と読む。この頭文字をスライドしてみよう。
たとえば、つちから『もち』、すなわち餅なんてどうだ?
「スライド」
だが、何も起きない。
あれ……できないのか。俺の勘違いだったかな。
というか、つちの頭文字はタ行だから、それ以外の文字だとずらす割合が大きすぎてダメなのかもしれない。
それなら、土から太刀に変えてみるか。これなら『つち』から『たち』になるので、同じタ行ってことでそこまでずらさずに済む。
「スライド」
その言葉を口にした途端、土の一部が盛り上がり、太刀に変わった。
「……」
俺はしばらく呆然としていた。
す、凄いぞ、これは……。
握ってみるが、まさに太刀だ。
俺は土という文字を一文字スライドし、太刀を手に入れたんだ。
数量もできるのかと思い、太刀の数量を対象にスライドすると、『1』という数字が現れたので、それを『2』にずらしてみる。
「なっ……」
すると、驚くべきことに太刀は二つに増えた。
こりゃ、外れスキルなんかじゃない。それどころか、どう考えても神スキルだ。
気をよくした俺は、太刀の文字にスライドすることで、さらに何かできないかと考える。
太刀、たち、ちち、つち、てち、とち。
この中で、乳ならいけそうだってことでスライドしてみる。
……おおっ、少量だが出てきた。恐る恐る舐めてみると、普通にミルクだった。
ただ、それ以外は微妙なものばかり。
じゃあ次は尻文字をスライドさせてみるか。一方だけでもスライドすると気力がガンガン削れるので、二文字をずらすのは現時点じゃ不可能だと思える。
たた、たち、たつ、たて、たと。
たつ……? これはすなわち『竜』じゃないかってことで期待したが、何も起きない。
さすがに竜を出すのは現時点の能力じゃ無理か。というか、生き物にスライドすること自体、今は難しいだろうな。
それなら、太刀という言葉を言い換えてみたらどうかな?
太刀は剣という意味でもあり、『けん』と読む。
この頭文字のカ行を順にスライドしていくと、かん、きん、くん、けん、こんとなる。
かん、きんといえば、アレしかない。
「スライド」
試してみたところ、『缶』や『金』にスライドできたので俺は小躍りした。
金塊に関しては手の平に収まる程度だが、これらの数量をスライドさせれば、缶詰やお金を楽に増やすことができるぞ。
缶詰があれば食料を保存できるし、お金があればこれで新たに領民を雇うことだってできる。
「……はぁ、はぁ……」
あれ? 俺は気づけば息が切れ、眩暈がしていた。どうやら調子に乗りすぎて、スキルを使いまくって気力が尽きたらしい。
俺は自力で小屋の前まで辿り着いたものの、そこで倒れてしまった。
もう息をするのがやっとだ。スキルの実験に夢中になるあまり、ちょっと無理しすぎちゃったみたいだな……。
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