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48話 望み
しおりを挟む「バッ、バカなあぁぁっ……!」
クアドラの上擦った声に加えて両目が見開かれたままなのが、今の状況を如実に表していた。
【亜人化】スキルによって熊の力を手にした僕は、怪力の腕輪の効果も相俟って猛烈なパワーとスピードでやつを凌駕し、さらに【鑑定士】スキルの受動的効果で弱点を的確に攻めることができていたから。
このペースならクアドラが倒れるのも時間の問題――
「――はっ……」
まもなく、僕は自分の力が急速に衰えていくのを感じることになった。こ、これは……多分、【亜人化】の効果が解けようとしてるってことだと思う。まずい……。
「お、おおおぉっ……? なんか希望が出てきたああぁぁっ……!」
「……」
こっちの力が弱まったことは、早速相手にも伝わってしまったらしい。【殺意の波動】といい【瞬殺】といい、強力なスキルの再使用には総じて冷却期間が必要なことを考えると、もう望みは……。
いや、諦めたらダメだ。折角ここまで追い詰めることができたんだし、相手も今までのようにはいかないはず。
「いっくじぇええええぇぇぇっ!」
「くっ……!?」
僕の前向きな気持ちを摘み取るかのように、クアドラは猛然と攻勢をかけてきた。特殊防御の超再生で致命傷でさえもすぐ回復するだけあって、パワーやスピードはまったく衰えていない。
ギリギリのところで【殺意の波動】や【瞬殺】を使ってほんの一瞬動きを止める等、工夫を凝らすことでなんとか猛攻を凌いでるような状態だけど、一体どこまで持つのやら……。
【亜人化】の効果が切れたことで僕は気付いたことがあって、人間の体では疲労や頭痛をいくら削除してもそのたびに小さな隙間のようなものができることがわかってきて、それがどんどん少しずつ積み重なっていくような不気味な感覚があった。
着実に死へと近づいていくのがわかるけど、相手の攻撃に慣れてきてるのもあるのか、進行を遅らせることができてるのも確かなんだ。ここからただ座して死を待つのか、それともなんとかしようって足掻くのか……冒険者なら当然後者のほうを選ぶよね。
形あるもの必ず終わりが来るっていうなら、相手も同じ条件だしこっちにだってチャンスはあるはず。もう楽になろうなんて思わず、辛抱強く耐えながら反撃の機会を窺うんだ――
「――早くううぅ、早くこいつを兄さんにたらふく食べさせてやりてえってんだよおおぉぉっ……」
「ヒヒッ……ヒッ……?」
「あっ……」
今か今かと待ち焦がれていた異変がようやく僕の前に訪れた。クアドラの体が徐々に萎んでいくのがわかる。
おそらく【進化】スキルの効果が切れたんだ。さっき聞こえてきた妙な笑い声も多分クアドラが言ってた兄さん――ジギル――のもので、【調和】してる状態からただ【寄生】してるだけの状態に後退したってことなんだと思う。
「ちっ、ちっきしょおおおおぉっ、もうちょっとのところでえええぇぇぇっ……!」
【進化】の冷却期間のことを考えたらしばらくは使用できないはず。よーし、一気に決めてやろう――って思ったけど、やめた。これにはちゃんとした理由があるんだ。
「はああぁぁっ!」
「ぐおおぉぉっ……!? まっ、まだまだあぁっ、まだ耐えられるぞおおぉぉっ!」
今のクアドラは僕が手加減しても防戦一方にさせることができていた。【進化】で【寄生】を【調和】に格上げさせなきゃ余裕で戦える。
超再生があるといっても、レベルやステータスが元に戻ってる影響なのか【殺意の波動】や【瞬殺】で動きが止まる時間も長いし、こっちがやろうと思えば再生する前に倒せる自信がある。
それをしないのは、まだほかにやりたいことがあるからなんだ。そのためには絶望を与えるんじゃなくて希望を与えてあげないとね……。
◆◆◆
「おおおっ、あの化け物が何故か縮んでカインに流れが来たぜ! おしっ、カイン、そこだ、一気にやれっ……って、おいっ、なんで仕留めねえんだ!?」
「「「……」」」
カインを応援する声に一層熱が籠もるナセルだったが、周りにいるファリム、ロイス、ミミルの三人からはこれでもかと冷たい視線を浴びせかけられていた。
「ナセルったら……カインを応援するのはいいけど、いつ援護射撃をしてくれるのかなあ……?」
「オーイエスッ、自分もファリムに完全同意だっ。リーダー、このままでは戦いが終わってしまうと思うのだがっ!?」
「はあ。リーダーさんって正直ビビッてませんかぁ? 援護射撃がきっかけで化け物に狙われる可能性も考えてて、もうこのままカインさんにあの化け物を倒しちゃってくれって思ってますよね……?」
「そっ……そそっ、それはお前たちが穿った見方をしてるだけだっ! 俺はみんなの安全も考えた上で、カインの勝利が確定する絶妙のタイミングを見計らってるわけでなあ――」
「――ククッ、残念ながらもう勝負はついているぞ……」
「「「「えっ……?」」」」
ナセルたちが振り返ると、そこには仮面の男が立っていたがすぐに血を吐きながら横たわった。
「っと、こういうわけだ。カインはまさに吾輩のスキル【死んだ振り】とはまではいかんが、勝負は決まっているのにとある理由で寝た振りをしているのだよ。フハハッ!」
既にナセルたちは逃走済みで聞いてはいなかったが、それでも男は満足そうに右の口角を吊り上げてみせた。
(おそらく、クアドラのスキルを獲得するべくそのタイミングを狙っているのだろう。策士だな。吾輩同様、ダリア様の忠実なしもべになる予定のカインよっ……!)
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