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29話 荒れ模様
「……」
「お、王様ぁっ! どうか、どうかご決断ください……!」
フォーゼリアの都の奥に聳え立つ王城、謁見の間にて、兵士の男が玉座に向かって額突いていた。
「治安が悪化している地区に限り、兵士の数を増やしていただきたいのですっ! どうかご決断をっ……!」
「ブツブツ……」
物凄い剣幕で訴える男に対し、王冠を被った恰幅の良い老翁――国王ジュリオール14世――は虚ろな表情で項垂れ、何やら呟くばかりだった。
「王様ああぁっ! 迷っている場合ではありません! 郊外のスラム街に至っては、駐屯地自体がないという惨状。このままではいたずらに民が犠牲になるばかりですぞっ!」
「ブツブツ、ブツブツ……」
「王様あぁぁっ!」
「……」
まもなく王が無表情で立ち上がり、ひざまずく男のほうへおもむろに歩み寄っていく。
「お、王様……?」
「兵長……余がさっきからうるさいと言っておるのがわからんのか?」
「え……? き、聞き覚えがありませぬが……」
「そうか……。では、もう二度と聞かずともよい」
「がっ?」
王が小剣を突き出し、男の耳から耳へと貫いてみせる。
「はあ……」
王の傍らにいたローブ姿の男が天を仰ぎ、高い天井に届かんばかりの深い溜め息をついてみせた。
「王様ぁ……そのようにいちいち殺していては、意見を言う者など誰もいなくなりますぞ……?」
「余は不機嫌ではあったが、ちゃんと返事をしておったのだ……。なのに、やつはそれがまったく聞こえていないかのようにしつこく……ブツブツ……」
「お、王様? で、できれば、もう少し声を大きくしていただければと――」
「――貴様も死にたいのかっ!?」
「い、いえっ。王様の美しい声を拝聴したいあまり……!」
「ならばもっとちこう寄れ!」
「ははぁっ……!」
小さな声を聞き逃すまいと目睫まで接近した大臣に向かって、まもなく王がゆっくりと語り始める。
「わかっておることをいちいち指摘されたら腹も立つわい……。治安の悪い地区に兵士をいくら派遣したところで、無駄に犠牲者が増えるだけのこと。一部の犯罪者どもやエルフら人外の起こす事件に関しては、災害に見舞われたと思うしかあるまいて。違うか……?」
「た、確かに……。し、しかし王様、国内がこの有様では、三月後に迫っている隣国との交渉がまたしても決裂してしまうのではと危惧しているわけでございまして……」
「それもわかっておるわい。ついぞ戦で負けたことのない隣国と同盟関係を結ぶことができれば、いかに我が国が大国に囲まれた小国といえど、迂闊に手は出せぬようになるであろう。だが……最早手遅れだ……」
「……お、王様、手遅れとは……?」
「そんなこともわからんのか? 向こうから国賓として来訪するのは、大臣だけでなく周辺国でも随一と噂される切れ者の参謀……。その場凌ぎで治安をよくしてみせたところですぐに内情を見透かされ、こう結論付けられてしまうはずだ。この国に、同盟関係を結ぶ価値など皆無、とな……」
「……な、ならば、こちらも強力なカードを出せばよいのです、王様……」
「強力なカードだと? それは一体なんなのだ……?」
「王様、どうかお耳を拝借をば……。現在、巷で大いに噂になっていることがございまして。実は――」
「――な、なんだと……!?」
「ひ、ひいぃっ……!」
耳打ちをした大臣が尻餅をついて震え上がるほど、王の両目が飛び出さんばかりに見開かれるのであった……。
◆◆◆
「それじゃ、お気をつけて」
「お大事にー!」
「はーい! ありがとうございましたー!」
俺たちが悩みを解決したことで、客がいかにも嬉しそうに声を弾ませながら帰っていく。
あれから一月ほど経ったわけだが、これでもかと過疎っていた俺とリリのなんでも解決屋は、今や行列ができるくらいまで客足が回復していた。
もう客は一人も来ないんじゃないかと心配した時期もあったが、今思えばあの決死の出張が功を奏した格好なんだろう。あれから右肩上がりで客が増えていったからな。
しかも、あのポポンガおじさんと同じく、この辺で俺たちのことを知らない人間がいるのかって己惚れてしまうくらい、町を歩いてると色んな人から声をかけられるようになったんだ。
所持金も金貨1枚、銀貨9枚、銅貨80枚まで貯まった。銀貨10枚で金貨1枚分なので、ほぼ金貨2枚分あるってことだ。
金貨が3枚あれば土地を購入できる上、店も建てることもできる。この辺で商売してて雨に打たれたり雷に怯んだりすることが割りとあったから考えようかと思ったが、なるべくこういう庶民的なスタイルを続けていきたいし、宿に関してはモモがいる『桃源郷』が一番安心できるので、しばらくはこのままのスタイルでいこうと思っている。
ちなみに、所持スキルに関してはあれからまったく変化がない。というのも、それだけ俺たちが忙しくなったっていうのもあるが、ゴミスキルを駆使することで成功したっていう噂が広まったらしく、いまいちな効果の神授石でもすぐに捨てる者が少なくなり、全体的に価値が上がっているとのこと。
俺たちもそこまで困ってないっていうのもあるが、解決してやれなかった客も何人かいたことを考えると、新しい神授石を獲得できないことで少々不安が残るのも確かだ。ただ、この兆候ももう少し経ったら落ち着くだろう。なんせ、ゴミスキルを有効に扱うには、それこそ俺のオリジナルスキルである【分解】が不可欠なわけだから……。
「――フォ、フォード……」
「ん、どうした、リリ?」
「あ、あれ……」
「あれ……?」
リリが指差した方向に目をやると、こっちのほうに向かって兵隊が歩いてくるのがわかった。なんだ、珍しいな、あんなに沢山の兵士たちを見るのは、アッシュたちを捕まえたとき以来のような……って、ま、まさか……。
「「「「「――そこをどけえっ!」」」」」
「「っ!?」」
どよめきが上がる中、兵士たちが客の行列を掻き分けるようにして迫ってきた。
お、おいおい……一体何が起こってるんだ? 捕まるようなことをした覚えなんて一切ないんだが……。
「「「「「なんでも解決屋のフォードとリリだなっ……!?」」」」」
「「……」」
俺たちはしばらくの間、呆然とした顔を見合わせることしかできなかった……。
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