43 / 50
43話 予感
しおりを挟む「――ぜぇ、ぜぇ……」
「「「……」」」
走り疲れてうずくまるハロウドの背中に、仲間たちの重量感のある視線が圧し掛かる。
「ハ……ハロウドオォッ……! お前っ、軍師だからってなんで逃げるように指示したんだよ!? あれじゃ、ただの腰抜けみたいじゃねえかあぁぁっ!」
「アッシュの言う通りですわ。ハロウド……これは一体どういうことなのか、是非わたくしたちに説明していただきたいですわね……」
「うんうんっ、パルルも超疑問だし、カンカンなんだからねえ! ハロウド、なんで逃げたのー!?」
「……はぁ、はぁ……と、とととっ、当然……です……」
「「「当然……?」」」
「はい……」
おもむろに振り返るハロウド。その充血した目は泳ぎっぱなしで、焦点がまったく定まっていなかった。
「彼らは雑魚なので、戦ってもなんら問題はありませんでしたが……もう一人、僕たちのほうに近付いていたのです……」
「「「もう一人……?」」」
「え、ええ……。あ、あのおぞましい、異常なまでの殺気は……ま、【魔術】スキルを持つ僕が、今まで感じた中で、間違いなく最高のものでした……。おそらく……都の商店街で見た、あのエルフ以上の化け物が接近していたのではないかと……」
「「「っ!?」」」
ハロウドの弱々しくも重みのある台詞により、アッシュたちの顔は恐怖で塗り潰されたが如く、一斉に強張るのであった。
◆◆◆
「こ、こここっ……この界隈で、名を馳せるユユ様が、な、なんで、こんなところへ……?」
「「「「「なじぇ……」」」」」
教会から少々離れた一軒家の陰では、なんとも異様な光景が広がっていた。体格の良い男たちが、いずれもガクガクと体を震わせながら、小柄なローブ姿の人物に向かって額突いていたからだ。
「だから、何度も言っておるじゃろう? このスラム街、教会地区に余所者という異物が紛れ込んだらしいではないか。それでわざわざこうして参ったのじゃ……」
深く被ったフードの下から発せられる声はしわがれており、なおかつ小さなものだったが、小柄な体の持ち主とは思えないほどの迫力を孕んでいた。
「あ、あ、あの教会にいるみたいでっ、そ、それで、お、俺たちも、ふざけたやつらを退治したいって思ってたところでして……! な? オメーら……?」
「「「「「イッ、イエッス……!」」」」」
「そうであったか……。スラム街という荒んだ場所で産まれ、逞しく生きてきた我々にとって、恵まれた生活を享受している外部の者に侵入された挙句、好き勝手な真似をされているというのは、決して許容できぬことじゃ。ゆえに日常的な殺戮という、スラム街の厳しい掟というものを示してやらねばならぬ……」
「な、なるほどぉぉ! で、でででっ、では、是非、ユユ様に協力を……!」
「うむ。ならば早速、我のスキルでお前たちの体を弄らせてもらうぞ」
「えっ……?」
「我のスキル【改造】の実験台になってもらう。どうした? 今更嫌とは言わせぬぞ……?」
「い、い、い、いやっ、俺たち、具合が悪くて……なっ? オメーら?」
「「「「「……」」」」」
「お……おいおい、な、なんとか言えよ、オメーら! おい、後ずさりするなっ、俺を置いていくなっ……!」
「ふむ……ならば、我が今すぐ具合をよくしてあげようぞ?」
「にっ……逃げろおおおぉぉっ!」
ならず者たちが必死の形相で逃走を試みるが、まもなく親分の男を始めとして派手に転倒することとなった。
「「「「「っ……!?」」」」」
転んだ男たちが不審そうに足元を見ると、反対側に曲がっていただけではなく、よく見ると腕に変化していた。
「逃げようとしているのがバレバレだったから、我がお前たちの足と腕を交換してあげたのじゃ。さあ、それ以外の部分もたっぷりと【改造】してやるから、ありがたく思うことじゃ……」
「「「「「――ぎゃああああぁぁぁっ!」」」」」
◆◆◆
『あと1人まで』
【宙文字】で書いた文字が示すように、この客で終了するということもあって、すっかり行列はなくなっていた。もう日が暮れてきてるし、こうでもしないときりがないからな。
銅貨1枚とはいえ、今日だけで304枚も貯めることができた。これは銀貨3枚分に相当するものだし、本当によく頑張ったと我ながら思う。
もちろん、ここまでやれたのはリリやメアの協力があったからこそだ。待ちくたびれた客の間で喧嘩が起きることもよくあったが、そのたびに彼女たちが上手く宥めてくれたからな。
「――ありがとうございましたー」
「ああ、それじゃ、また」
「気を付けて帰るんだよっ!」
「……」
最後の客が帰っていき、俺たちはホッとした顔を見合わせた……はずが、メアだけが何か浮かない顔をしていた。
「メア、さっきから表情が暗いが、どうしたんだ?」
「どうしたんだい? まさか、同僚たちが恋しくなったとか?」
俺はリリの言葉にはっとする。そういや、隠居した神父たちがまだ帰ってこないんだったな。ただ、順調に治安も回復してるっぽいし、このままいけば教会も以前のように元通りになるんじゃないか。
「メア、大丈夫だ。神父や同僚たちもいつか戻ってくる」
「そうだよ、メア。フォードが言う通り、心配ないって!」
「……」
「「メア――?」」
「――あ、あああっ、フォード様、リリ様、申し訳ありません……! 考え事をしておりました……!」
「メア、神父たちのことが心配なのはわかるが、あんまり焦らないほうがいい。体に悪いからな」
「そうだよ、果報は寝て待て、さ!」
「い、いえ、私は神父様たちのことを考えていたわけではありません」
「「えっ……?」」
「嫌な予感を覚えておりました……」
「「嫌な予感……?」」
「はい……。これから、近いうちになんらかの災いが起きるような予感がするのです。私の嫌な予感は結構当たるので、それで心配で……。実は、前回教会に行く前もそんな予感がして、フォード様とリリ様を発見しましたから」
「「なるほど……」」
「発見できたのは、埃だらけの教会ゆえ、足跡が目立っていたからでもありますが。
でも、おかしいですね。嫌なことなど、そのときはなかったはずですのに……」
「「……」」
俺はリリと苦い顔を向け合う。【蛇忘れ】で蛇に関する記憶を消したとはいえ、【蛇の巣】スキルによって苦手な蛇の大群に襲われる結果になったんだから、確かにメアのよく当たるっていう嫌な予感は的中しちゃってるわけだ。
となると、近々本当に嫌なことが起きる……?【聖域】スキルの隠し効果のようなものだろうか。ただ、もう今日の営業に関しては終わってるしなあ。
多分気のせいだとは思うが、それでも妙に気になるので、俺は念のためにとあるスキルを使用することにした。
【目から蛇】【輝く耳】【視野拡大】を組み合わせると、【監視】という、視界に異変が起きるとすぐにわかるスキルが出来上がる。怪しいやつが近付いてないか定期的に使っているもので、これならメアの言う嫌な予感にも対応できるはず――
「――っ!?」
なんだ……赤く染まった空から何かが飛んでくるぞ。あ、あれは……。
70
あなたにおすすめの小説
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。
夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!
俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~
風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…
コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。
あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」
長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。
だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。
困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。
長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。
それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。
その活躍は、まさに万能!
死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。
一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。
大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。
その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。
かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。
目次
連載中 全21話
2021年2月17日 23:39 更新
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる