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第三六話 探し物
しおりを挟むエリート学園マギーアの入学試験まで、とうとう二週間を切った。原作ゲーム『賢者伝説』の本編開始までは三週間ほどだ。
それでも、現在の俺の魔力レベルは4.5。アイラはというと、あれから0.2上がって2.2になった。
もうこのレベルまで到達したんだから、ヨーク様の祠での魔力トレーニングやシルル山での実戦訓練をして最後の追い込みをかけるより、試験前になるべく体力を温存する作戦のほうが効果的だと思えてくる。
「あおおー。ご主人ちゃま、アイラちゃま。あしゃご飯のお時間よ!」
「うららっ。ご主人しゃま、どうぞお食べになってくだひゃい」
「おお、ありがとうな、キラ、ウッド」
俺は二人が作ったという朝食を前にして、料理を教えたというアイラに目配せする。
う、うん……見た目はグチャっとしてていかにも不味そうに見えるが、味はそこそこだ。アイラが作ったほうがそりゃ美味しいものの、これでも食べられないことはない。
「「どおぉ……?」」
キラキラした瞳を近づけてきたキラとウッドに対し、俺は笑顔で親指を立ててやった。
「中々旨いぞ!」
「やっちゃ!」
「嬉しいでしゅうう!」
キラとウッドが大喜びで抱き合う中、俺がアイラに再び目配せすると、彼女はしてやったりの様子でウィンクを返してきた。
これもアイラの指導の賜物だ。彼女が熱心に教育してくれたおかげで、二人の従魔は今じゃこうして料理を作るだけでなく、配膳までできるようになったんだ。メイドとして大分板についてきたといえるだろう。キラたちも懐いてるし、彼女は良い母親になれそうだな……。
「ん……?」
屋敷内が俄かに騒々しくなってきて、『サードアイ』を見ると珍しい客人の姿があった。当主ヴォルドの第二夫人で側室のレーテだ。それも鬼のような形相で、メイドたちを大勢引き連れている。一体なんの用事があるっていうんだ……?
「ルード、あなたの仕業ですね……!?」
「レーテ様、一体なんのことでしょうか?」
「しらばっくれないで頂戴! うちの子を返してくださらないっ!?」
「ちょっと、レーテ様! いきなりルード様に何をなさるんですか!」
「ご主人ちゃまに何するんでちゅ!」
「ご主人しゃまに何しゅるの……!?」
詰め寄ってきたレーテをアイラたちが制止する。
「そこのあなたたち、ここへレーテ様をお連れになった理由を話してください!」
アイラがメイドたちに説明を求めると、彼女たちは顔を見合わせつつ揃って口を開き始めた。
「それが、前日からクロード様の姿がお見えにならないので、捜索しているところなのです」
「それで、ルード様が何か知っているのではないかと……」
「なるほど……」
俺はアイラたちと顔を見合わせる。弟のクロードが失踪したかもしれないってわけか。
「お前たち、何をぐずぐずしているの!? この男がどこかにクロードを隠していないか、早く探しなさい!」
「「「「「了解」」」」」
「お、おい、お前たち、こんなところを探しても何もありはしないぞ!」
「ルード様の言う通りです。やめてください!」
「やめちぇ!」
「やめへくらしゃい……!」
俺はアイラや従魔とともにそれを止めようとするが、メイドたちは勝手に部屋を荒っぽく探し始めた。おいおい、探し物はなんですかってか。ふざけやがって……。
クローゼットの衣服が次々と引っ張り出され、壺や箪笥、観葉植物が倒されて雑然となった自室内。ひとしきり捜索して気が済んだのか、メイドリーダーがレーテに神妙な顔でヒソヒソと報告している。
「……どうやらここではなかったようですね。お前たち、行きましょう」
「いやいや、レーテ様。俺たちに謝罪するのが先なのでは?」
「そうですよ! いきなりこのようなことをして、ルード様に対して失礼にもほどがあります!」
「失礼にゃあぁっ!」
「無礼でしゅねぇえ……!」
こっちの抗議の声が届いたらしく、レーテたちが揃って立ち止まると億劫そうに振り返ってきた。
「フンッ……お前たち、軽く会釈でもしてあげなさい」
「「「「「はっ」」」」」
レーテは不遜な表情でメイドたちに頭を下げさせたのち、悪びれた様子もなく立ち去って行った。まったく、なんて不愉快な連中なんだ……。散らかった部屋の中で俺とアイラは呆れた顔を見合わせるが、すぐにキラとウッドが競うように片づけを始めた。
おおっ……見る見る整頓されていく部屋を見ていると、結果的には二人の掃除能力を向上させるためにもよかったのかもな。
それにしても、レーテたちはただの嫌がらせのためにここへ来たってわけでもなさそうだな。屋敷内の騒動は収まりそうにないし、どうやら本当にクロードが謎の失踪を遂げた格好らしい。
そこで、噂好きなメイドたちの声に耳をそばだてつつ少し探ってみる。一昨日まではなんら変わった様子もなかったそうだが、俺が王家に気に入られたことのショックで家出したんじゃないかっていう見立てが多いようだ。
「しかし、妙だな、アイラ」
「ルード様、何がでしょうか?」
「いくらショックを受けたといっても、マギーア学園の入学試験も近いっていうのに、こんな大事なときに家出なんかするかなって。なんかタイミング的におかしくないか?」
「それは、言われてみれば確かに妙ですね……」
実際、クロードは原作ゲームで典型的な嫌味かつキザなタイプのクラスメイトとして登場してきたからな。実況動画では『グラスデン伯爵家の恥部』だの『兄のルードよりこいつこそ序盤で退場するべきだった』だの散々な言われようだった。
最初から圧倒的な力を持つ主人公の前じゃクロードの威光も形無しで、手柄を主人公に取られてばかりでろくに目立つこともできず、いつの間にか空気のような扱いだったんだ。
そのたびに悔しそうにハンカチを噛むのがこいつのスタイルで、『ハンカチ伯爵』なんていうしょうもない異名もある。まあ原作のクロードは最初から跡継ぎ確定みたいなもんだったし、今みたいに揉まれてなかったから少しは可愛げがあったのかもな。
「そうだ。アイラ、この際だから俺たちも探してやるか? 全然心配じゃないが、クロードのやつを見つけて一発ぶん殴らないと気が収まらない」
「ふふっ、そうですね。探すついでにあの人たちの部屋も荒らしてあげましょう!」
「お、アイラ、そりゃいいな。よーし、キラとウッドも行くぞ!」
「行きゅ行きゅーっ!」
「行きまひゅよおぉっ……!」
キラとウッドもやる気満々らしく、ホウキを振り上げて応じてくれた。わざわざここまで押しかけてきたんだから、そのお礼参りくらいはしてやらないとな。今から一緒に、これから一緒に荒らしに行こうか。
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