40 / 57
第四十話 邂逅を目前にして
しおりを挟む「おおう……。ルードよ、これが噂に聞く、【錬金術】というそなたの能力なのだなっ!」
絨毯の上の『マンホールポータル』を感激した様子で覗き込む第一王子のローガ。つい先ほどまでの陰鬱そうな御顔が一転して快活になられていた。
マズルカと【シルル】の決着をつけるため、ローガ殿下も同行してもらうことになったのだ。長らく目を背けていた問題と対峙するとあってか、甚く塞ぎ込んでおられたご様子だったが、一瞬で目的地へ行けるとあってか声に張りも出てきたほどだ。
シルル山へ向かうメンバーはというと、俺はもちろん、アイラ、ロゼリア、第一王子ローガ、第一王女マズルカの計五人だ。キラとウッドはメイドとして修行させるために屋敷でお留守番する運びとなった。ローガ殿下の意向もあり、近衛兵らは同行せずに完全なお忍びという形だった。
そんなわけで俺は『マンホールポータル』を使用し、名立たる王族たちをシルル山まで送り込む。俺が【シルル】と遭遇したあの場所へ直接赴くというのはリスクが大きいと判断し、デモンストレーションが行われていた空き地へまず降り立つことになった。
アイラも一緒に連れていくのは、さすがにロゼリアも一緒だと隠し通せないだろうし、彼女に黙って俺と従魔だけでシルル山へ行ったことの贖罪の意味も含まれていた。
それと、クロードが行方不明になっていることも地味に影響している。その母のレーテらが逆恨みで悪巧みしないよう、念のためにアイラを手元に置いておきたかったっていうのもあるんだ。彼女なら自分の身は自分で守れると思うが、もしもってこともあるわけだからな。
「ルード様、ドキドキしますね」
「アイラ、何が?」
「それはもちろん、【シルル】と出会えるかもしれないからです。この山の主みたいなものでしょうから」
「まあ、そりゃ本人の名前がついてるくらいだしな……。でも、怖くないのか?」
「蛇のほうがよっぽど怖いですよ!」
「アイラって、蛇が苦手だったのか……」
「はい。私は覚えてないんですけど、『お前の左足に傷跡があるのは蛇にやられたからだ。だから山のほうへ行ったら絶対にダメだよ』ってお父さんに口を酸っぱくして言われて、それで怖くなって……」
「なるほど……。今からでも屋敷に戻るか?」
「いえ、足元に気をつけるので大丈夫です!」
蛇についてはともかく、あんな話を聞いた後だと【シルル】に対する印象が大分変わるのも確かだ。
ただただ恐ろしい魔物でしかなかったのが、人間の哀愁という残り香を感じさせる魔物へとイメージが変化した。マズルカ殿下が決着をつけようとするのも腑に落ちる気がした。
「ルードよ、誠に恩に着る……」
ロゼリアがいかにも申し訳なさそうに話しかけてきた。
「大丈夫だって。私が大好きな侍従様の頼みだから……」
「ううっ。ルード、わかってはいたが、そんなに私のことが好きなのだな……」
「……」
悪戯好きのアイラが雑な感じで俺に成りすましてる。声もアイラのままだし隠す気が全然ないな……というか、見抜ける能力があるのにロゼリアはなんで騙されてるんだよ。
「――アイラアァッ!」
「ご、ごめんなさいいぃっ!」
耳まで赤くしたロゼリアとアイラの追いかけっこが始まった。これぞ猫の恩返しってやつだな。それにしても、なんだか場所の割りに緊張感がない。
とはいえ、俺たちはまだ山頂へ向けて出発したばかりだ。【シルル】も登場してないんだし、この先に待ち受けるプレッシャーを考えたら、今のうちにこれくらいリラックスしておいたほうがいいのかもしれない。
第一王子ローガにしても、謁見した際と比べるとあたかも別人のように怖さがなくなっている。逆に第一王女マズルカはもう侍従のロゼリアはおろか、兄のローガでさえ話しかけれないほどの鬼気迫る空気を放っていた。
【シルル】を刺激しないようにするためにとかなり後方にいるにもかかわらず、すぐ間近にいるかのような存在感があった。まさに冷血の王女然とした佇まいだ。
彼女にとって、妹(第二王女)のエルルカや近しい村人たちの仇である【シルル】との邂逅のときが刻一刻と近づこうとしているのだから当然か。
ん、ローガ殿下が神妙な表情でこっちへ歩み寄ってきた。
「ルード……ちとよいだろうか。そなたに折り入って頼み事があるのだ……」
「殿下……? 頼み事とはなんでございましょう……?」
「近う寄れ。耳を貸すがよい」
「はっ……」
俺の耳元で殿下が囁く。
「そなたに、マズルカの緊張を解してもらえぬだろうか……?」
「えぇ……?」
「余は妹の顔を見やるだけでも力んでおるのが伝わってくるゆえ、そなたの力を是非とも拝借したい。どうか助けてやってくれぬだろうか?」
「はっ……」
俺は一切躊躇うことなく承諾した。というか、暴虐の王子っていう恐ろしい異名を持つ殿下の頼みを無下に断れるわけがないんだよなあ。だが、俺はその前にやるべきことがある。それはもちろん、例のアレだ。
名前:ルード・グラスデン
性別:男
年齢:15
魔力レベル:4.5
スキル:【錬金術】
テクニック:『マテリアルチェンジ』『レインボーグラス』『ホーリーキャンドル』『クローキング』『マンホールポータル』『インヴィジブルブレイド』『スリーパー』『ランダムウォーター』『サードアイ』『トゥルーマウス』『クリーンアップ』『デンジャーゾーン』
死亡フラグ:『呪術に頼る』『王族に失礼なことをする』
従魔:キラ(キラーアント)、ウッド(デーモンウッド)
「……」
うわぁ、ほぼ俺の予想通りじゃないか……。まさに四面楚歌、背水の陣ともいえる熾烈極まる死亡フラグが爆誕していた。
第一王子や第一王女は元より、侍従のロゼリアも厳密には王族とはいえないまでも、それに非常に近い存在ではある。また、アイラはそれに仕える身でもあり、関連性はもちろん王族へ齎す影響がまったくないとは言い切れない。
つまり、だ。俺はこの場にいる誰の機嫌も損ねないように振舞う必要があるってわけだ。しかも、【シルル】との決着を前に気が立っているマズルカの緊張を解すとなれば、まさに一発で針の穴に糸を通すような難易度に等しい。
「……」
それでも、ローガ殿下も気を揉みながら見ておられるんだ。ここでいつまでも留まるわけにもいかない。俺は覚悟を決めてマズルカの元へと歩み寄っていく。
最悪の場合、『マンホールポータル』で過去の地点へ遡ればいいくらいの気楽な気持ちで。両殿下に引けを取らないくらいの今の魔力レベルなら、油断さえしなければ致命傷を免れつつ戻るくらいのことはできるはずだから。
「なっ……」
だが、驚くべきことにマズルカのほうからもこっちへ近づいてくる。それも一切まばたきすらせずに、薔薇のような棘と気品さを携えて。だが、ここで怖気づくようではダメだ。おそらく彼女は俺の度量というものを試している。
だったら望むところだ。俺は不敬を承知でマズルカをこれでもかと睨視してやる。殺すなら殺せと言わんばかりの迫力で。
「……」
俺は死を意識しながらしばしマズルカと睨み合う。すると、自身の頬に柔らかい感触と吐息が当たるのがわかった。
「で、殿下……?」
「ようやく、結論へと辿り着きました。あのときのお返しがまだだったと。わたくし、一生懸命に思い出そうとしていたんです。ルードにそのヒントがあると思って、しばらく見つめることであの感触が脳裏に浮かんできたのです……」
「な、なるほど……でございます」
マズルカはてっきり【シルル】のことを考えてるとばかり思ったのに、まさか俺のことを考えているとは夢にも思わなかった。本当に読めない人だ。あれだけ鋭かった視線が嘘のように安穏な眼差しに変わっているのも気分屋な王女らしい。
「ルード。次はどこに親愛の証をいただけるのかしら……?」
「……」
死亡フラグはまだ終わってなどいなかった。むしろここからが本番なんだろう。親愛の証っていうのはおそらく口づけのことだ。その箇所を間違えれば王女を落胆させてしまい、両殿下の逆鱗に触れてしまう可能性が非常に高い。
かといって、アイラやロゼリアの見る目もあるため大胆な行動はなるべく回避したいのも実情だ。それにしても、まさかこんなところで接吻をするという行為が俺の命運を握ることになろうとはな……。
53
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する
鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。
突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。
しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。
魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。
英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった
海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。
ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。
そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。
主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。
ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。
それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。
ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる