最弱職【村人】を極めた最強の男、過去へ戻って人生をやり直す

名無し

文字の大きさ
3 / 20

第3話

しおりを挟む

「ア、アルト、強すぎだよ……一体どうしちゃったの?」

 リーシャが信じられないといった顔をしている。

「たまたまだよ。僕も正直驚いてる」

「う、嘘だぁ!【村人】ジョブって、実は滅茶苦茶強いんじゃ……⁉」

「まさか……」

 なんせジョブを貰ったばかりだし、不自然なのもあってとぼけてみせたけど、実際に【村人】は強い。時間はかかるけど、極めたら一人で魔王を倒せるくらい。

 でも本当ならそれが理解できるのは、これからずっとあとのことなんだけど。

 当時の僕は、深い霧の中を彷徨うかのようだった。元々大人しい性格っていうのもあったけど、【村人】である自分を信じられなくてオドオドしていた。焦る気持ちが更なる迷いを生み出すっていう悪循環に陥っていた。

 大きい、あるいは小さな自信は自惚れや卑屈さに繋がるけど、ある程度の自信は自分を良い方向へと変えてくれるものなんだ。今の僕みたいに。

「それより、リーシャ。ワグルを治してやって」

「あ、うん!」

 リーシャがはっとした顔になり、ワグルに向かって手を合わせて祈るような仕草をする。

「う……?」

 まもなくワグルの体がほんのりとした輝きに包まれ、彼は目を覚ました。

 さすが【聖女】。普通、気絶状態を治すまでには回復術を使ってから5分はかかるっていうのに、ほぼ一瞬で立ち直らせてしまった。

「ワグル、大丈夫?」

「……あ、あ……」

 ワグルはもう、僕のほうしか見ていなかった。怯えた顔でフラフラと立ち上がり、這う這うの体で逃げ出していった。

 あれほど馴れ馴れしかったやつが……。自分より強いってわかった途端、姿をくらますなんてね。まあワグルからしてみたら、踏み潰してやろうと思ったら逆に潰されたようなものだから当然か。



 あくる日の朝のこと。

 僕とリーシャは冒険者ギルドへと向かうことになった。もちろん、冒険者として登録するためだ。

 勇者候補に選ばれるには、五つの条件をクリアしなきゃいけない。

 一つ目は、ジョブを貰った冒険者であり、1人または6人以内のパーティーであること。

 二つ目は、1月15日現在から、勇者選定の儀式が始まる4月1日の正午までに冒険者階級をC級以上にすること。

 三つ目は、期限までに事件を1つ以上解決すること(依頼ではなく突発性の事件だと目撃証言が必要になる)。

 四つ目は、期限までに勇者候補の申請書を提出すること(過去に犯罪歴があった場合、その罪の重さ次第では却下される)。

 五つ目は、勇者ランキングというもので100以内に入ること(このレミンガルの町だけでなく、各都市のギルドの冒険者も含まれるので難易度は高い)。

 これらが最低条件だ。もちろん競争なので、期限内にできるだけランクを上げたり多くの事件を解決したりする必要がある。

 その結果、ソロも含めて申請者の中から100位までの冒険者が勇者候補として王城に招待されたのち、トーナメント形式で御前試合が行われ、上位のトップテンが晴れて勇者として選定されることになる。

 一周目の人生は、当然だけど僕は選ばれなかった。当時はまだ、【村人】ジョブを全然扱いきれてなかったのもあるしね。後半に師匠から教えを受けたのもあって追い上げたものの、結局上位の100位以内には入れなかったんだ。

「えっと、えっと……」

「リーシャ、僕がやるよ」

 受付で戸惑っていたリーシャに代わって、僕がさっくり登録を終わらせると、彼女は唖然とした顔で見つめてきた。

「ア、アルト、はやっ!」

「そりゃ、二周目だから――いや、楽しみにしてたからね」

「そ、そうなんだぁ……」

 随分前の出来事とはいえ、【村人】ジョブのテクニックの一つに《観察術》ってあるからなあ。

 最初から積極的に行動を起こせるジョブではないからこそ、周りをよく見ようとする力が備わったってわけなんだ。

 この術のおかげで、一度でも見たものならほぼ記憶できる。そういや、あの頃はこういう面倒なことはリーシャに任せきりだったっけ。

 彼女は当たり前のように私がするねと言っておきながら凄く手間取ってたから当時はイライラしたけど、今なら余裕で許せる。

「アルト、二人だけじゃ心もとないから、パーティー募集するね」

「うん」

 そうだ。これから僕たちはから誘われることになるんだ。

 ここに入ったことで、僕とリーシャの人生はさらに狂い始めることになる。

 だから断ることはできるんだけど、僕はあえてこのパーティーを選ぼうと思う。

 愛着っていうのもあるし、とても悔しい思いをした経験があるから、それを晴らしたいっていうのもあるんだ。

「どんな人たちから誘われるかなあ。ワクワクするね、アルト」

「そうだね」

「な、なんだか冷静すぎるよ、アルト……」

「あ、う、うん。楽しみだね」

「アルト、急に大人っぽくなったみたい……」

「ははっ……」

 そりゃ、何十年も経験しちゃってるからね。リーシャが死んだときの光景もはっきりと覚えている。だから、なるべく冷静でありたい。そうすることで、もうあの悲劇を二度と繰り返したくない……。

「――やあ、君たち」

「あ……」

 壁にかかった時計を見ると、午前10時43分だ。ほぼ予想通りの時間帯に僕らは声をかけられた。

 男二人、女二人の四人組パーティーの《討伐者たちクルセイダーズ》からだ。彼らがあまりにも懐かしくて、僕は一周目と同じように呆然としてしまった。

 あのときはただ緊張してただけだけど……。

 正式に仲間になることになり、僕らはお互いに自己紹介し合う。

「自分はロイスっていうんだ。ジョブは【戦士】。まあ耐えることくらいが長所だけど、よろしく」

 パーティーリーダーの青年ロイスが笑顔で言う。

 彼はそこそこ強いし性格も良さそうなんだけど、僕は正直苦手だった。理由は、なんかいい人すぎて自分がないっていうか、裏がありそうで気味が悪かったからだ。

「あたしはミリヤ。ジョブは【双剣士】よ。ま、モンスターの殲滅なら任せて頂戴」

 あー、ミリヤか。彼女は態度が悪いしプライドも高いしで、僕にだけ冷たく当たってくるもんだから、本当に嫌気がさしたもんだ。

 彼女は負けず嫌いの努力家っていう一面もあり、強さだけなら【剣豪】のワグルよりも上で、この四人の中でもナンバーワンなんだけどね。

「……私、ルシカ。ジョブは、【魔術師】。余ったモンスターなら、任せて。よろしく……」

 物静かな少女、ルシカが無表情で挨拶してきた。印象が薄いのが特徴といえば特徴なのかもしれない。

「俺はザラック。【補助術師】だ。ま、そこそこのクオリティのバフはできると思う。正直、にはあんま期待してねえけど、まあよろしく」

 愛想も口も悪いザラックがぶっきらぼうに語りかけてくる。そっちの男っていうのは僕のことだ。でも何故か憎めない、そんな男。

 僕はこの四人組に会えたことで感動していた。嫌な思い出ばかりなのに。彼らの目的は、【聖女】のジョブを持つリーシャであって、【村人】の僕なんて眼中にはないからね。

 じゃあなんで心が動いたかっていうと、孤独な時間がそれだけ長かったせいもあると思う。彼らとまたこうして再会できたことが純粋に嬉しかったんだ。

「私はリーシャって言います。ジョブは【聖女】で、回復が得意です。皆さん、よろしくお願いします」

 リーシャの自己紹介が終わると、待ってましたとばかり拍手が起こった。

 もうみんな知ってることだからね。パーティーを募集する際は自分のジョブを提示しないといけないんだ。だからこそこんなにスピーディーに声がかかったわけで。

「僕はアルト。ジョブは【村人】。村人に関係する術を使えるみたい。よろしく」

 僕の自己紹介に対しても拍手が起きたけど、ワンテンポ遅れてたし、嫌な視線が纏わりつくのを感じた。

 一周目もこうだった。【村人】のお前なんかに何ができるんだって声が今にも聞こえてきそうだ。

 当時の僕は、そういう空気をひしひしと感じつつも、オロオロとするしかできなかった。でも、 二周目は違う。

 僕は力を隠すつもりは毛頭ない。彼らに【村人】の力を見せつけてやるつもりだ……。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...