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第9話
しおりを挟む「ぎゃああああああああああぁぁっ!」
「「はっ……」」
どこからともなく悲鳴が聞こえてきて、僕はリーシャと驚いた顔を見合わせる。
「確か、こっちのほうだ。リーシャ、僕から離れないように!」
「う、うん、アルト……」
濃霧によって視界が著しく悪くなっている上、湿地帯ってことで足も取られやすい悪条件の中、僕たちは悲鳴がした方向へと慎重に近付いていく。
「――こ、これは……」
「……う、嘘……」
そこには、全身に無数の穴を開けた無残な遺体がうつぶせに横たわっていた。血まみれでピクリともしない。
転がっている装備品や体格を見れば大体誰なのか判断できるとはいえ、一応顔を確認してみると、やはり【戦士】ジョブのロイスであることがわかる。
個人的には好きじゃない人物だったとはいえ、一体誰がこんな惨いことを……。
犯人はルシカか、ザラックか? あるいは、それ以外の誰かなのか。はたまた、化け物の仕業か……?
【戦士】自体、物理ダメージをかなり軽減できる術を持っているわけで、ベテランのロイスがここまでの状態になっているってことは、想像もできないような物凄いパワーの物理攻撃を、それもほんの短い間に加えられたことを意味していた。
「……」
濃厚な謎と霧に包まれる中、こっちへ不気味な人影が迫ってくるのが見えた。
「待て。そこにいるのは誰だ……?」
「だ、誰……?」
「……あ、わ、私……」
「「あ……」」
僕とリーシャの前に現れたのは、【魔術師】のルシカだった。
顔面蒼白の彼女はフラフラとした足取りで、杖に凭れかかるようにしてその場に座り込んだ。
「ルシカ、どうしたんだ……?」
「ルシカさん、一体何があったんです?」
「……そ、それが……見たこともないような恐ろしい化け物が出て、ロイスさんは殺されてしまって……」
「見たこともないような化け物だって……? まさか、それって魔物のことかな?」
「た、多分……」
「……」
なんてことだ……。もしそうなら、僕がロイスの悲鳴を聞く前におぞましい気配を感じた件についても納得がいく。
魔物っていうのは、モンスターと同じのように見えて実は全然別のものだ。基本的には弱い順に猛獣、モンスター、魔物といった順番だけど、その中でも魔物は格が違う。
魔王が復活する年と前年のみに魔物は出現するとされており、ただ能力的に強いだけでなく、人間並みかそれ以上に頭が良い個体が存在することでも知られている。
例外はあれど見た目はどれも独特で威圧感があり、周りに影響を及ぼすような瘴気を放つ、モンスターとは一線を画している上級の化け物だ。
ルシカが見たこともないと証言していることから、おそらくただのモンスターではなく魔物の可能性が高い。これはとんでもない事態だ。S級冒険者でも太刀打ちできないことがざらにあるのに。
「……あ、そうだ。ルシカさん、どこか怪我とかしてませんか? 私が回復しますよ」
「……本当? リーシャさん、ありがとう……。是非、お願い――」
「――待った!」
リーシャがルシカに近付こうとした瞬間、僕は嫌な予感を覚えて二人の前に割り込んだ。
「ア、アルト? どうしたの?」
「アルトさん……?」
「……」
何かがおかしい。そう思って僕はルシカをしばし見つめると、胸中に抱いていた漠然とした思いが確信へと変わった。
「ロイスを殺したのは、ルシカ。君だ」
「……は、はい? 私が、ロイスさんを殺した犯人……? 何を言ってるのか、ちょっとよくわからないかな……」
「そ、そうだよ、アルト。こんな状況だから疑心暗鬼になるのはわかるけど、ロイスさんの傷口を見たら何かで抉られたみたいな深い傷だったし、それにルシカさんは【魔術師】だよ?」
「リーシャ、普通に考えればそうだけど、残念ながら間違いなくルシカが犯人だ」
「えぇ……?」
僕はこれ以上弁明しても無駄だということを示すべく、ルシカに対して強い表情で剣の先を向けた。
「……」
まもなく、ルシカが観念したかのように薄く笑ってみせた。
「へえ。どうしてわかった?」
「え、え? ル、ルシカさん、本当にあなたがやったの……?」
「そうだ。私がやった……」
ルシカの鈴のような声色は、地底から響くが如くどす黒いものに変わっていた。やはり人間じゃなかったか。
「もう一度聞くが、アルトとやら。何故わかった?」
「何故わかったって? それは、記憶力を高める観察術を使ったからだ。おそらく再度化け物から人間に変身する際にミスったんだろうけど、姿が以前と少しだけ違う。僕が記憶しているルシカの目の色は濃厚な緑だけど、今はそれより少しだけ薄い緑色だ」
「……ククッ。その程度の差異だというのに、よくぞ見破ったな。驚いた。このような厄介な人間がいるとは、やはり貴様は私が思っていた通りの危険人物だ。ゆえに、消さねばなるまい……」
「……わ、わ……?」
「……」
僕の後ろにいるリーシャが動揺した声を出すのもわかる。ルシカは巨大な赤黒いタコのような姿に変わっていたからだ。
それだけじゃない。周りに黒々とした陰気なオーラを発していることから、瘴気だというのが見て取れる。瘴気は負の感情を増幅させる効果があって、その影響を受けたミリヤがああいう風に変わったのかもしれない。
一周目にはそんな気配すらなかったってことは、魔王を助けたい立場の魔物としては、僕の存在がそれだけ脅威に感じたんだと推測できる。
新しい発見だった。魔物はもうこの時期から、人間に化けて魔王のために勇者候補を殲滅する活動をしていたってわけか。
だとすると、当時流行していたパーティー殺しもこいつがやっていた? それは定かではないものの、一周目に《討伐者たち》パーティーを皆殺しにしたのはこいつで間違いなさそうだ……。
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