最弱職【村人】を極めた最強の男、過去へ戻って人生をやり直す

名無し

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第18話

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「……はぁ、はぁ……」

 血だまりの中、僕はようやく立ち上がることができた。身体的だけでなく、精神的な意味でも……。それくらい、《内包術》というのは心身に強い負荷を与えるものなんだ。

 これがもし、真の力を開放していたなら、僕は再起するのにもっと時間をかけていたことだろう。

 それでも、今回は違う。手を抜いたし、何より僕にはリーシャがいる。彼女が生きているという事実があるだけで、何度でも立ち上がることができる。

「――リーシャ、無事でよかった……」

 僕はリーシャのほうへ近づいていく。彼女は、座り込んだ状態でミルファと抱き合いながら青白い顔でこっちを見ていた。

「ひっ……」

「ん、リーシャ、どうしたんだ? そんなに怯えた顔して。もうやつはいないよ。僕が倒したから」

「……い、嫌。来ないで……」

「え……何言ってるんだ、リーシャ。僕だよ、アルトだよ」

「……ち、違う。あなたは、アルトじゃない……」

「……何を言って……あ……」

 僕は、差し伸べた自分の手が真っ赤になっていることに気づいた。そうか。犯人の返り血を浴びたんだ。無我夢中だったせいか、気づかなかった。



「「……」」

 あれから、僕とリーシャはこの上なく重々しい空気の中、無言でカフェを出ることになった。

 事件報告とかはどうでもいいし、ギルドへ行くつもりもない。明日になればどうせまたループするんだし。

 僕は確かにリーシャを守ったのかもしれないが、心までも守ることはできなかったみたいだ。犯人とはいえ圧倒的な力で惨殺して、血まみれになっても平気で笑っている姿を見られてしまったんだから。

「ね、ねえ、あなたは一体誰なの……?」

「……」

「お願い、返して……アルトを返してよ!」

「……」

 僕はリーシャの質問には答えなかった。言ったところで、彼女をさらに苦しめてしまうだけだろうから。

 それより、どうやってこのループ地獄から逃れたらいいのか、それを第一に考えないといけない。じゃなきゃ、僕たちもこうして似たような苦しみを延々と味わうことになるんだから。

「ご、ごめん、アルト、助けてくれたのに、こんなこと言って。私ね、なんか気が動転しちゃって……」

「いいんだ、もう」

 リーシャの言葉には、僕に対する恐れがはっきりと見て取れた。これは日を跨げば解決することだから、しょうがない……。



「――ゆ、許してくれ……はっ……?」

 僕が目を開けたら、そこは例の屋根裏部屋だった。薄暗い中、目を凝らして懐中時計に目をやると、午前1時10分を指していた。

 なんでこんな中途半端な時間帯に……って、そうか……。昨日、屋根裏部屋に戻ったあと、ループから脱する方法をずっと考えていたら、いつの間にか眠ってたみたいだ。なんかとても嫌な夢を見ていたような気がする。

 そうだ。気分転換に散歩でもしようかな。その間にいい考えが浮かぶかもしれない。

「すー、すー」

「…………」

 リーシャが寝ていたので、起こさないようにそっとベッドの横を歩いて梯子を下りる。その際、床がギシギシと軋んでしまってヒヤッとした。まあでも、僕は【村人】だし、存在感を消すのは得意だから――

「――アルト?」

「あっ……」

 リーシャに声をかけられてしまった。どうやら、彼女には通じなかったらしい。

「こんな夜遅くにどこ行くの?」

「あ、いや、なんか眠れないから散歩に」

「そうなんだ。私も行っていい?」

「今は一人でいたいから……ごめん」

「そ、そっか。そういうときもあるよね。わかった。おやすみ、アルト」

「うん、リーシャ。おやすみ」

 リーシャが僕のことを全然怖がってなくて安堵するけど、ループしてしまうならまた同じことを繰り返すだけだ。

 だから、なんとかこれを打破する方法を考えなきゃいけない。そのために夜の街をフラフラ歩くのもいいかもしれない。

「さ、さぶっ……!」

 夜の外へ出ると、ちょっとどころか身を竦めるくらい寒かったけど、その分集中できそうだと感じた。

「…………」

 いや、本当に寒い。もう帰ろうかな。これなら、わざわざ寒い時間帯に外へ出るよりも、暖かい屋内で考えたほうが……って、待てよ。

 そうだ。そうだった。僕は肝心なことを忘れてしまっていた……。

 無差別殺人を起こしたあの男は、僕にやられた記憶があるにもかかわらず、わざわざ同じ時間帯を選んで犯行に及んできた。これには絶対何かあるはず。その時間帯を避けられない事情があるってことだ。

 となると、何が考えられる? もしかしたら、あの男にとっては特別な時間帯なのかもしれない。それなら、過去にその時間帯に何か事件を起こしている可能性もあるわけだ。

 じゃあ、事件の記録がある冒険者ギルドへ行けば、何かわかるかもしれない。よし、ようやく手がかりが見えてきたぞ。宿に戻ろうとしていた僕は、その足で目的地のギルドへと向かった。
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