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第二章
清掃師、賭けに乗る
しおりを挟むガーラントのイメージングボードに映し出されていたもう一つの迷宮山は、長方形を少し崩したような岩山だった。これは確か……。
「『アント・ヘブン』……」
「おっ、ゴミ拾いのアルファちゃん、せいかーい」
「「ウププッ……」」
「だ、だからっ、仲間を標的にするくらいなら私を侮辱しろと言ったはずだっ! で、これはどういうつもりなのだ!?」
「どういうつもりって……ロディちゃん、もしかして情弱?」
「な、何っ!?」
「まぁまぁ、落ち着いて落ち着いてっ。うん、まぁ確かに『アント・ヘブン』もさ、『アバランシェ・ブレード』と同じくFクラスの迷宮山さ。でも、正確に言うとそれより少し難易度が高いF+になる」
「くっ……だからなんだというんだ! 大して変わらないじゃないかっ!」
食い下がるロディに対し、ガーラントは余裕の笑みを崩さなかった。
「ちっちっち。そういうのを負け犬の遠吠えっていうんだよ。わかる?」
「「クププッ……」」
「……」
ガーラントの後ろでいちいち笑うダグラスとメリルっていうのが最高に鬱陶しい。
「しかも、俺たちはこの迷宮山をたった十日でクリアした。さらに、これから新しい山にも挑戦しようと計画を立てている真っ最中ってわけ。君たちに負けてる要素なんてある?」
「く、くっ……!」
歯痒そうにするロディと愉快そうなガーラントの姿はあまりにも対照的だった。
俺は一度『アント・ヘブン』についても調べたことがあって、確か平均の登頂タイムが二週間っていうから、十日っていうのはそれより四日程度早いだけだしおそらく本当だろう。しかし妙だな。そこまで偉そうにすることかと……。
「まあ、どうしても俺たちに勝ちたいなら、十日よりも早く登頂してみることだね」
「ハハッ、リーダー、そりゃいくらなんでも無理だろぉ」
「ガーラントさん、無茶です。可哀想ですよー」
「や、やってやるっ! この私たちが、九日で登頂してみせるっ!」
「ちょ、ちょっと、リーダー! 勝手にそんな!」
「そうだよ、やめてよロディお兄ちゃん……」
「リーダーさん、冷静になりましょうねぇ」
「それくらいならいけるだろう! びびるなあっ!」
「……」
確かにロディの言う通り、難易度はF+クラスの迷宮山だし急ごうと思えばそんなに難しくないような気がするが、何か妙だ。ガーラントたちの顔にやたらと余裕があるのが引っ掛かる。
「よしよし、ロディちゃんがそこまで言うならこの勝負、受けて立とう。あのー、受付嬢さーん!」
「はーい、どうされましたー?」
「今からこのパーティーリーダーの男とある賭けをすることになったんで、ちょっと手続きいいですかね」
「いいですよー」
ある賭け? 一体何を賭けるつもりだ、ガーラントという男は。
「お、おいガーラント! 何を勝手にっ!?」
「おいおい、ロディちゃん、男に二言はないはずだろ?」
「だなぁ」
「ですねっ」
「……」
やはりおかしい。これはおそらく罠だ。もうギルドの受付嬢がこっちへ来ていて、ガーラントたちが小声で何かを伝えてるところだった。
「な、何を話したのだ!?」
「そう慌てるなって。今からちゃんと教えてやる。もしロディちゃんたちが九日以内に本当に『アント・ヘブン』を登頂したら俺たちの負けでパーティー解散、それまでの登頂もリセット。逆なら……わかってるよな?」
「なっ……そんな、勝手にだな――」
「――怖いのか? やっぱり所詮はパシリだったか」
「ぬ、ぬぐぐぅっ!」
「リーダー、やめてよ、この勝負。なんかおかしいわ」
「わたしもそう思うよ。お兄ちゃん、やめて」
「私もこんな賭けはしたくないですぅ」
みんなが不安視するのもわかるが、俺だけはロディを止めなかった。たとえ罠だったとしても、こっちには神スキルの【一掃】があるし、ガーラントたちのパーティー《ホーリーグレイル》を解散に追い込むことができるんじゃないかと思ったんだ。
「やるっ! 私はやるぞ!」
「よーし。受付嬢さん、向こうのリーダーも了承したし、これで大丈夫だよね?」
「大丈夫ですよー」
ガーラントにそう返した受付嬢がカウンターのほうへ戻っていく。これで負けたほうは強制的に解散となるわけだ。
「絶対に……絶対に私は負けないっ!」
「まあ、精々頑張れよ、ロディちゃん。あ、ちなみに『アント・ヘブン』にはたまに蟻の甘い蜜を求めに、あの恐ろしいオーガが来ることもあるらしいから、行くときは気を付けてな?」
「えっ……」
ぽかんとするロディ。なるほど、そういうわけだったのか。ガーラントたちは、現在の『アント・ヘブン』にオーガが来ているという情報を掴んでいたんだ。
「ん、どうした? 毎日様子を見にここへ来てやるから、良いご報告、待ってるぜ。そこのお嬢さんも、もし解散したらこっちへおいでっ」
「へへっ。こいつら、ショックすぎたのか固まってやがるぜぇ」
「やっと理解したみたいですね。ご愁傷様です」
「「「ププッ……」」」
やつらがニタニタと笑みを浮かべながら立ち去っていく中、ロディを含めて事の重大さが理解できたのかいずれも表情は沈んでいた。確かオーガは神気を纏っていてスキルが通用しないはず。【一掃】は神スキルとはいえすんなり通用するとも思えないし、こりゃ相当厳しいことになってきたな……。
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