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第二章
清掃師、スカッとする
しおりを挟む翌朝、宿舎の前からスパイダーロープで登山者ギルドに移動した俺たちは、その足で都の北門付近でウォーキングバードを借り、迷宮山『アント・ヘブン』へ向けて出発することとなった。
俺も含めてみんなやっぱり気になるのか、リーダーのロディの様子をちらちらと窺ってる様子。
挨拶もしてたし朝食もちゃんと食べてたし大丈夫だと思うが……今日を入れてあと八日で『アント・ヘブン』を登頂しないとパーティー解散に追い込まれるわけで、いつまたメンタルが壊れやしないかと俺もハラハラしてたから、みんなも似たような心境なんだろう。
「――お、来たんだなっ」
「偉いぞお」
「あら、てっきり逃げるかと思ってたんですけど……」
「……」
北門を抜けたところにパーティー《ホーリーグレイル》の姿があった。ガーラント、ダグラス、メリルの三人が嫌らしい顔つきで近付いてくる。どうやら俺たちを見送りにきたらしい。登山者ギルドで俺たちの姿を見つけて先回りしてきたんだろうな。
その理由としては、もちろん冷やかしにきたってのもあるんだろうが、念には念を入れてプレッシャーをかけてやろうっていうのが大きいように思う。わざわざこういうことをしてくる時点でメンタルはあんまり強くなさそうだな。
「ロディちゃん、墓を作って待ってようって思うんだけど、十字架は木の棒でもいいかな……?」
「「ププッ……」」
ガーラントが煽ってきて後ろの二人が笑ういつもの光景だ。こんなの相手にする必要もない、みんなもそう思ったのか、スルーして歩き始めたとき、やつらがすかさず回り込んできた。
「おいおい、スルーかよ。俺たちが折角心配してやってるのにシカトって……いくらなんでも酷くね?」
「酷いなあ」
「酷いですー」
「……」
しつこい連中だ。ちと不自然かもしれないが、強風が来たって嘘を言いつつ【一掃】で払ってやろうか? そう思ったとき、先頭のロディがコホンと咳払いするのがわかった。
「お、ロディちゃん、やっぱり怖くなったか? オーガに生きたまま食われるのは嫌だよなあ?」
「……」
「あ、でもどっちかっていうと、ロディちゃんって人間っていうよりチキンに近い生き物だし、オーガに不味いって思われちゃうかもな?」
「「プププッ……」」
ガーラントのやつ、上手いこと言ったつもりか? 苛立ちは増す一方だが、俺が何かやるにしてもロディの台詞を待ってからでも遅くはないだろう。
「あー、君たち、墓を作ってくれるのは結構なことだが、そこに私たちが入ることになるとは限らないんじゃないか……?」
「何……? おいロディ、どういうことか説明してみろよ、できるものならな?」
「相手の失敗を望んで墓を掘る……まさに墓穴を掘るというやつではないかっ。これには自ら身を滅ぼすという意味があって、その通りに君たちは行動している。そうならないように私は深く憂慮しているよ。ではっ……!」
「「「……」」」
おお、やつら呆然と立ち尽くしている。正直スカッとした気分だ。
「やるじゃない。今日のリーダー、冴えてるねっ!」
「ロディお兄ちゃん、すごーいっ」
「胸がすく思いでしたぁ」
「あぁ、リーダー、やるね」
「こ、この私も伊達にリーダーをやってないっ、やるときはやる男なのだあぁっ! わはは――」
『――クエーッ!』
「ぬはっ!?」
興奮した様子でロディがウォーキングバードの頭を叩いてしまったためか、垂直にジャンプしたことで転倒してしまった。まあでもこういうところも彼らしい……。
ん、胸ポケットがざわめいてるな。なんだろう?
「アルファよ、わしにはわかるっ。あれは恋人でもできた、まさに男の顔をしておるのじゃ!」
「えっ……」
「きっと何か素敵なことがあったのですわ。アルフェリナ様のような魅力的な人が現れたとか……」
「ちょ……」
「一体どんな女性であろう? きっとアルフェリナどののような方だろう」
「おいおい……」
「というか、アルフェリナしゃんそのものだったりしてえ」
「……」
俺は恐る恐るロディのほうを一瞥する。た、確かに以前よりもずっと男らしい顔つきになってるような……うん、もうしばらくこのことについて考えるのはやめよう。
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