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第二章
清掃師、避ける
しおりを挟む「って、ってことは……オッ、オオオッ、オーガ……!?」
ロディの顔が見る見る生気を失っていく。そしてそれが伝染するかのように、サーシャ、シェリー、ミュートの顔面が青ざめていった。
「ど、どうしよう……」
「ふぇぇ、怖いよぉ……」
「オーガさんに食べられちゃいますうぅ……」
「……」
このままじゃまずい。恐怖は伝染し、混乱へと繋がりやがて狂気へと導くんだ。というわけで俺はまずはっとした顔を浮かべてみせた。
「あ……ってことは、やっぱり道はこっちで正しかったんだ……!」
「「「「……っ!」」」」
みんなの泳いだ視線が俺に縋ってくるのがわかる。
「ア……アルファ君! 今はそれどころでは……!」
「そうよ、逃げなきゃ……」
「死にたくないよぉ……」
「早く……逃げませんとぉ……」
「いや、まだ気付かれてないかもしれない」
「「「「え……?」」」」
「だって笑い声が聞こえるってことは、どこかで雑談でもしてるってことじゃ? もしオーガの立場が俺たちだったとして、わざわざ笑うことで正体を明かすようなことをするかな? 逃げられるかもしれないのに」
「「「「あっ……」」」」
みんなの表情に明るい色が戻ってきたのがわかる。いいぞ、この調子だ。
「とにかく、ループしてないってことはオーガの声がしたから確定なわけで、今更戻るよりも気付かれないように進んでみるべきじゃ? ある程度近付いてきたらミュートが知らせてくれるだろうし、これだけ先が見えないような曲がりくねった道なら気付かれることなく充分引き返せる」
「「「「……」」」」
みんな無言だがうなずいてくれた。大分落ち着いてきたみたいだしこれならいけそうだ。
――やがて、それまで一方通行だった道が真っすぐと右に分かれていることに俺たちは気付いた。
「ア、アルファ君、どっちへ行けばいいのだろうか……?」
「どっちなの?」
「どっち?」
「私にも判断できないのでお願いしますねぇ」
「……」
【鑑定師】のミュートを差し置いてみんなが切実そうな眼差しをこっちに向けてくるのは、正解の道を実際に選んだことで俺に対する信頼度が相当に上昇してるためだろう。
「んー……オーガの笑い声、右のほうからしたような気がするし、このまま真っすぐで」
実際は声が聞こえたわけじゃなくオーガのいる方向を払っただけだが、みんな安心したようにうなずいていた。
ん……胸ポケットがざわめいてるが、あえてマリベルたちの意見は聞かないことにした。逃げるなとか言われそうだしな。確かにオーガに関しては逃げた格好だが、最初はみんなを守りながらではなく、俺とオーガだけでやり合いたかったんだ。
なので第一セーブポイントが見つかれば、一旦帰ってそのまま休む振りをして俺だけ戻り、あのオーガのいる右方向へと向かうつもりでいる。
「――お……」
しばらくして前方から風が吹いてくるのがわかった。かなり強めなことから外が近いのがわかる。みんなもお互いに顔を見合わせて安堵している様子。俺もそうだが洞窟内は閉塞感が物凄かっただけに、こうした小さな変化であれまるで薬のように感じられるんだろう。
「「「「「おおっ……」」」」」
まもなく、俺たちの前に夜空と月明かりに煌めくクリスタルが姿を現した。遂に俺たちは『アント・ヘブン』の第一セーブポイントへ到着したんだ。
「うあ……」
早速クリスタルに接近したわけだが、倒れそうになるくらい凄い風だった。痛くてまともに目を開けてられなくなるほどだ。クリスタル周辺は安全地帯になってるから大丈夫なんだが、フライアントがブンブンと飛び交っていて隙を窺ってるのが見える。下は断崖絶壁で、左側にはさらなる洞窟への入り口が幾つも覗いていた。
「み、み、みんなっ、おおおっ、落ち着くのだあぁっ……! しっ、下は絶対見てはならんんんっ……!」
「……」
ロディ、うずくまってる上に目を強く瞑ってて一番怖がってる様子。
「す、凄い風ね……スカートじゃなくて本当によかったぁ……」
「サーシャお姉ちゃん、わたしはスカートだよう……」
「私もですうぅ……」
「う……」
下着がもろに見えてしまうのはもう仕方ないだろう。思わず見てしまったことも。それが原因か、胸ポケットの辺りがかなり痛くなったのですぐ目を逸らしたが。
「「「「アルファ……」」」」
「あっ……」
そうだった。俺は帰還すべく、慌ててスパイダーロープを使ったのだった……。
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