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第二章
清掃師、隠密行動を取る
しおりを挟む「いやー、アルファ君っ! 君はやっぱり幸運の女神アルフェリナさんの兄なだけある! 偶然とはいえ、正解を引き当ててしまうなんてっ……!」
「ど、どうも……」
登山者ギルドの一角、俺はロディに手を両手で握りしめられ、なんともいえない心境になっていた。頬を赤く染めちゃってるし、彼は多分アルフェリナのことで頭が一杯なんだろう……。
「リーダーったら、途中までアルファを疑ってたくせに」
「ホント、調子いいんだから。ロディお兄ちゃんは」
「現金さんですう」
「う……! そ、それはだなっ! アルファ君を心配する意味合いもあってのことなのだっ!」
「はいはい。とっとと食べて明日に備えましょ」
「うんっ」
「力つけないとですねえ」
「まっ……真面目に聞きなさーいっ!」
ロディの絶叫がこだます中、みんな気にしない様子で食べ始めてる。当初のじめじめした空気と比べると段違いだ。オーガがいる山ってことでかなり心配したが、『アバランシェ・ブレード』を登頂したときの良い雰囲気になりかけてる。
俺たちはそれからしばらく和気藹々とした夕食を楽しみ、明日の翌朝にここで落ち合うこととなった。もっとも、俺だけ宿に向かう振りをして暗い路地に紛れ、スパイダーロープを使うことにしたわけだが。
蜘蛛の糸をたどって上っていくと、そこは『アント・ヘブン』のクリスタル近くで相変わらず強い風が手荒く迎えてきた。
……お、胸ポケットが暴れてるな。これをスルーしたらオーガより怖そうだってことで、周囲の風や雑音を一時的に【一掃】して耳を傾けた。
「アルファよ……何故反応せんのじゃ……」
よく見るとマリベルが涙目になってる。結構ギリギリだったっぽいな……。
「あ、あぁ、俺もちょっと疲れちゃってて……」
「アルファどの……その割りに、あの女子たちの下着に目を奪われていたようだが……」
「う……」
「アルファ様ったら、マリベルのような正直な反応ですのねっ」
「おぱんちゅがしゅきなら、ユリムも見せましゅう」
「い、いや、いいよ。あれは男の性ってやつで……うっ……?」
そのタイミングで突っ込まれたかのように強風に煽られたので払った。ドキッとしたが、マリベルたちがくすくす笑ってるし機嫌も直ったみたいだから風に感謝だな。
「そろそろオーガのところに行かないと……」
あいつらがいつまでも同じところに溜まってるとは限らないわけだからなるべく急ぎたかった。
「その件じゃが――」
「――あぁ、俺があのときなんで行かなかったってことだろ?」
「いや、むしろあれで正解だったのじゃ」
「え……」
「我もマリベルどのに同意していた。あの時点でオーガの数は三匹、いずれも元気だったからだ」
「元気って?」
「それについてはわたくしが説明しますわっ。オーガたちは蟻の蜜をまだそこまで口にしてない状態だったのですのよ」
「蟻の蜜を飲んだらどうなるんだ?」
「ルカしゃん、ユリムも混ぜてくだしゃい。オーガしゃんは蟻の蜜を沢山飲むと酔うのでしゅう」
「なるほど……ってことは今頃は……」
「うむ、ちょうどよく出来上がっとる頃じゃろ」
「マリベルどのの言う通りだ。あの時点で既に一匹は酩酊状態だったから、アルファどのは最悪の場合でも二匹を相手にすればいいだけのこと」
「そうですわね。新しい参加者がいなければですけれどっ」
「オーガしゃんは一匹いたら、百匹はいるっていいましゅしねえ」
「あ、はは……」
ゴキブリかよと。仮に増えてたとしてもそれはそれで楽しみたいもんだ。
神気持ちの人外相手にこうした気持ちになるのも、それだけ揉まれてきたっていうのもあるんだろうが、普段ただの掃除役の皮を被ってるから大いに暴れたいし、みんなと一緒じゃないからそれができるっていう解放感もあるんだよな。
あのパーティーで平凡なメンバーとして生きるのも楽しいけど、こっちは特上だ。俺はオーガとの激しい戦いを想像して、どうしても口元が綻んでしまうのだった……。
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