底辺ジョブ【清掃師】で人類史上最強~俺はドワーフ娘たちに鍛えてもらって超強力な掃除スキルを習得する~

名無し

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第二章

清掃師、甚振られる

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(嗚呼、うんめえなあ。たまんねえ。こいつらが起きる前に全部飲みてえけど、味わいつつじゃなきゃ勿体ねえし、迷うところだぜぇ……)

 仲間たちのいびきがこだます中、胡坐をかきドクロの壺に入った蟻の蜜を陶然と啜るオーガがいた。

「……」

 しばらくして、彼は半開きになっていた目を見開き、鼻をひくひくと動かす。

(ん……これは人間の匂い……? まさかな。今頃人間たちの間じゃ俺らがここにいるって噂になってるだろうし、そんな間抜けは……いや、でも、まさかってことも……)

 オーガはよろめきつつ立ち上がると、人間の匂いがする方向へと歩き出した。

「――なっ……!?」

 彼は仰天した。自分たちがいた空間を出たすぐ近くに人間が立っていたからだ。

(ほ、本当に人間がいやがった……。けど、なんでだ……?)

 オーガの赤い顔が見る見る青ざめていく。

(そうだ……俺らオーガがいるとわかって単独で来るくらいだ。人外が人間に上手く化けて、蜜を奪おうとしてるのかもしれねぇ。だとすると俺だけじゃまずいかも……)

「ひっ、オーガだ……」
「……っ!?」

 一旦仲間のほうへと戻ろうとしたオーガだったが、人間の発した声を耳にして立ち止まった。

(今……こいつ、明らかに怯んでたよなあ……。それに、これは本当に人間の匂いだ。こんなの偽装しようにもできるわけねえ。もし仲間を起こしたら独占できなくなっちまう……)

 オーガの吊り上がった口角から涎が零れ落ちる。

「……お、俺だけの肉、なのか、お前は……?」
「たっ、助けて、くれ……」

 その人間は震え、ゆっくりと後退りしていた。

(やっぱり肉だ……俺だけの美味しい人肉……生きたまま食う、踊り食いしてやる……!)

「嫌だぁ、誰か助けてくれ……」
「う、動くな、喚くな……少しでも楽に死にたいならっ……!」
「ぐあっ……!?」

 オーガが自慢の膂力と爪で人間を圧倒する。

「クカカッ……!」
「あが、が……」

 自分の爪についた血をぺろりと舐めるオーガ。

「美味い、美味いぞぉ……」
「……ら、楽に死なせてくれるんじゃ……?」
「クカカッ……バカな人間だ。お前はこれから、俺に生きたまま少しずつ食べられることになる……」
「そんな……がっ!?」

 オーガが手刀を振り下ろし、人間の右手が地面を転がる。

「がはあっ……!」
「おいおい、静かにしろ。仲間が起きちまうだろうが……!」

 苦しそうにのたうちまわる人間を前にして悦に浸るオーガ。

「ホレホレッ……!」
「がっ……!?」

 異常に隆起した赤い筋肉が躍動し、持ち味のスピードとパワーを発揮するたび、人間は体の一部を生きたまま次々と切り落とされ、ひたすら痛みを訴える動きをするのでオーガは恍惚とした顔で白目を剥くのだった。

「踊れ踊れ、人間……間抜けな自分を恨みながら、少しずつ俺に食われて死んでいけ……」
「嫌、だ……。まだ死にたく、ない……」
「バカか、おめー。今の自分の体見てみろ。そんなんで生きててもしょうがあるめぇ?」
「ひっ……?」

 オーガが得意げに人間の髪を掴んで持ち上げ、残酷な現状を見るように促す。

「こっ……こんなの嫌だあぁぁ……」
「クカカッ……嫌だっつってもしょうがねえだろうが。まあ安心しろ。おめーはこれから俺の胃の中に入るんだからよお――」
「――いや、
「……へ?」

 オーガは仰天した。自分が切断したはずの人間の体の一部が全て元に戻っていたからだ。

「なっ……なっ……?」
「俺の目を慣らすために今までよく頑張ってくれたな。ちなみに痛みも払ってたから痛そうにする演技がバレるかどうかだけ少し心配だったが、知能が低いオーガってことで不自然さまでは払わなかった」
「……へ?」
「さて、これだけ遊んでくれたわけだから、ちゃんとしないとな。人間っていうのは礼儀正しいんだ。覚えておけ」
「……」

 オーガはしばし現状が呑み込めずに呆然としていた。さっきまで食べる予定だったはずの餌が、今では自分を見下ろすかのように立っていたのだから……。
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