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第二章
清掃師、暴れ回る
しおりを挟む「ハ……ハッタリだ……ハッタリに決まってる……!」
哀れにもオーガは俺の力を認められずに飛び掛かってきた。
「くっ……」
それでも完全にはかわしきれず肩を少し抉られたが、今まで通り普通に避けていたら体の一部を切断されてしまうレベルのパワーとスピードだった。
「なっ……?」
オーガが驚くのもわかる。それに対して俺は寸前で自分を切ろうとする意思を読むことで神気を打ち破り、手刀による一撃を【一掃】で払ったためこの程度で済んだということだ。
今までとの違いは、まず相手の攻撃を読まなくてはいけないという神気の壁があるため、【一掃】の与える影響が一時的ではなく一瞬になってしまうということ。ただ、俺の目がもっと相手の攻撃に慣れてくればそれでも充分だと確信できた。
「こっ……このおおぉぉぉっ!」
「……」
しばらくの間、相手の攻撃を読んで【一掃】で払いつつ避けていたら、予想通り掠り傷一つ負うことすらなくなっていた。これで相手が手刀ではなく別の手段を寸前で使ってきたらこうはならなかったが、そこは今までの成功体験が忘れられないオーガの低知能では到底無理な話だったのだろう。
「う……うわああああぁぁっ!」
お、今度は普通に拳で殴りかかってきたわけだが、スピードに慣れていたおかげでギリギリ払うことができた。それでもまともに喰らってたら頭が粉々に粉砕されてたんじゃないかと思えるほど勢いよく向かってきて少々ヒヤッとさせられる。
やつはようやく俺がヤバいやつだとわかったのか、振り返ったときには泣きそうな面になっていた。
「み……みんなあああぁぁっ! 起きてくれえええぇぇぇっ!」
遂に仲間を呼んだか。でもこれでいいんだ。むしろ望んでたことだからな。一匹ずつ低知能のオーガを倒したところでそれ以上の力はつかない。もっと力をつけるにはリスクを抱えてでも虎穴に入る必要があるんだ。それがよくわかったのが、マリベルたちとやったあの訓練だった。
「――どうしたどうした?」
「お、人間じゃーん。まさか独占してたのかー?」
「ち、ちげーよ! こいつ人間っぽいのにメッチャつええっ! 殺すの手伝ってくれぇ!」
「「おい、マジかっ……!?」」
オーガたちの俺を見る目が厳しくなっていくのがわかる。舐められてるよりはよっぽどいい。その上、単純なオーガといえど性格は一匹一匹違うだろうし、神気を払う――相手の心理を読む――訓練にもなる。
「「「うらああぁぁっ!」」」
やつらは単独で来るのが怖いのか、三匹まとめて向かってきた。
「ぐほっ……!?」
その結果、俺の体は壁に激突し、体中の骨が幾つも折れる音がした。多分内臓も今の一撃でかなりやられてると思うが、ちゃんと痛みは払っている。
「あるぇ……?」
最初のオーガがぽかんとした顔になってる。
「なんだよ、よえぇな」
「ただの人間じゃん。食べちまおうぜー」
「「「おうっ!」」」
「……」
いい気になりやがって。でもさっきので全員分の行動は読めた。高い自然治癒能力によって回復したので俺は立ち上がり、勝ち誇った顔のオーガたちに手招きしてみせる。
「どうした、それだけか?」
「「「こっ、こいつううぅぅっ……!」」」
そのあとはもう、俺の一方的な攻撃が続いた。やつらがしてくることは大体読めるのでまとめて【一掃】し、そのタイミングで手を出してやるだけでいい。
「――がっ……?」
「……」
まもなく全部退治した。やつらの死骸を前に物足りなささえ感じてしまう。気付けば、絶望さえ感じるほど手強い相手と戦いたいと思っている自分のほうがよっぽど怖かった。
……お、胸ポケットがざわざわしてるな。
「アルファよ、お見事じゃ! 興奮したぞっ!」
「素晴らしかった、アルファどの」
「素敵でしたわ、アルファ様……」
「アルファしゃん、最高なのれふう」
「あはは……って、マリベル、鼻血が……」
「……へ? はっ、鼻血じゃと……!?」
「「「ププッ……!」」」
「ぬあぁっ! 見たらダメなのじゃあっ!」
よっぽど恥ずかしかったのか、マリベルが爺さんの姿に変化した。てかそれでも鼻血はそのままなんだが……。しかしみんなの興味はすっかり俺の戦いぶりに移行したようで、蟻の蜜にも負けなかったってことだから自信になりそうだ。
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