底辺ジョブ【清掃師】で人類史上最強～俺はドワーフ娘たちに鍛えてもらって超強力な掃除スキルを習得する～

第二章

清掃師、心配する

「……」
「アルファ君？」
「アルファ？」
「アルファお兄ちゃん？」
「アルファさん？」
「……あ……」

　翌朝、登山者ギルドの一角にて俺は気付けば朝食中にうとうとしてしまっていた。

「ご、ごめん。ちょっとぼんやりしちゃってたみたいだ」

　心配させないように眠気を払い、さっさと飯を食べることに。

「アルファ君はきっと興奮して眠れなかったのだろうが、無理もないっ。なんせ、私たちはもう『アント・ヘブン』の第一セーブポイントへ到着したのだからなっ！」
「リーダー、声が大きいよ……！」
「そうだよ、ロディお兄ちゃん」
「リーダーさん、話しを聞かれちゃいますよお？」
「うっ……そ、それはすまなかった！　だが、近くにやつらの姿は見当たらないし問題なしだっ！　わははっ！」

　みんな呆れた様子でロディの気まずそうな顔を見てる。今の話、ガーラントたちの耳に入らないといいんだけどな。確かに周囲にあいつらの姿はないが、その代わりスパイがいる可能性はあるわけだから注意したいところだ。

「そ、それじゃあ早速出発といこうかっ！」
「あっ！　リーダー、失言をごまかすつもりね！？」
「ロディお兄ちゃんはわたしが捕まえる！」
「うふふ、みなさんでくすぐりの刑ですねぇ」
「そ……それだけはやめろおおぉぉっ！」
「あはは……」

　ロディが涙目でロープを上っていく。どうやらくすぐりの刑にかなりのトラウマがあるらしい。

「……」

　みんなが上ったあと、俺は一人だけ残って周囲を見回したが、こっちを見ている人間は誰もいなかった。ついさっき刺々しい視線を感じたんだが、気のせいだろうか。どうも引っ掛かるな。この心配が無駄に終わってくれるならそれが一番なんだが……。



　◇◇◇



　登山者ギルドへと続く、東側の階段踊り場付近ではパーティー《ホーリーグレイル》の面々があり、一人の女がリーダーのガーラントに近付いて何やら耳打ちしていた。

「なっ……そ、それは確かなのか……？」
「はい、確かに。《リファインズ》のリーダーがそう言ってました」
「あ、ありがとう。これはお礼だ」
「どうも」

　女に金貨を渡すガーラントに対し、メンバーのダグラスとメリルが疑いの目を向ける。

「リーダー、一体何がどうなってるんだぁ？」
「ガーラントさん、只事じゃない空気を感じるのですが……」
「……ロ、ロディたちが……もう『アント・ヘブン』の第一セーブポイントを通過したらしい……」
「「ええっ……！？」」

　沈痛な空気に包まれる中、苦し気に頭を掻きむしるガーラント。

「あと七日もあるのにまさかここまでやれるやつらだったなんて……」
「てか、オーガはどこに行ったんだぁ？」
「ホント。オーガは何をして――」
「――俺が知るかよっ！　大体、なんであんなパシリ野郎がここまでやれるんだよ。オーガを恐れもせずに登って、そんでもってもう第一セーブポイント通過とかよ……。悪夢……悪夢だこれは……！」
「「……」」

　吼えるガーラントに対し、ダグラスとメリルが露骨に不満げな表情を見せる。

「てか、怒鳴るけどよぉ、リーダーがあんな勝負持ちかけるからじゃ……？」
「ダグラスさんの言う通りですよ。元はといえばガーラントさんが相手を見くびってあんな賭けをするからいけないのだと思いますが……？」
「な、何――」
「――ちょっと、あんたらに話があるんだけど、いいかい？」
「いいかな？」
「「「へ……？」」」

　ガーラントたちの前に現れたのは、見知らぬ男女の二人組だった。

「な、なんだお前らは。パーティーメンバーなら募集してないんだが？」
「いや、そうじゃなくてさ。あんたらがやってた例の賭けについて話しがあってここに来たんだけど、聞いてみる気はないかい……？」
「損はしないと思うよ」
「な……なんだと……？」

　ガーラントの両目がこれ以上ないほどに見開かれた瞬間であった。