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第二章
清掃師、間違える
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「アルファさん……大変言いにくいのですがぁ、見たことのある個所が散見できるのでループトラップであることが濃厚ですねぇ」
「そ、そっか。間違えたみたいだ……」
翌朝、第二セーブポイントから幾つかある洞窟を選んで出発したわけだが、そこは明らかにループしていることがわかる構造で、ミュートが似た箇所を指摘してきたことで発覚した。
「みんな……ごめん……」
わざとらしさを払い、本気で落ち込んでるように見せかけるのも忘れない。
「い、いやっ! アルファ君、たまには間違いだってある! 気にするなっ!」
ロディが俺の肩を叩いてくるが、怒ってる感じじゃなくてむしろ安堵したような表情だった。まあ今日を入れてあと六日も猶予があるわけだから急がなくていいっていうのもあるんだろう。
「へえ、アルファが間違えるなんて珍しいね。むしろ、今までが凄すぎたから逆に安心したかも」
「わたしもっ」
「アルファさんも人間だったということですねえ」
「……」
よしよし、これで俺に対してみんな過度に期待するようなこともなくなるだろうし、わざと道を間違えて正解だったと思える。
というわけで俺たちは来た道を戻り、第二セーブポイントに帰還するとこれから登る洞窟を選び直すことになった。誰が道を選択するかは、どうやらジャンケンで決めるらしい。
「――わあい、勝ったー!」
ジャンケンにおける負けパターンを払い、俺は偶然を装って意図的にシェリーに選ばせることにした。メンバーの中じゃこの子が一番素直そうだし、俺が不正解の道を選ばないように密かに干渉しても疑問を持たれにくいと判断したんだ。
「んー……こっちかなー」
よし、俺が何をせずともシェリーが正解を選んでくれた。もし間違ってたら、その道が正解だと思う気持ちを払うつもりだった。
「シェリー、どうしてこっちを選んだのだ?」
「そ、それは……よくわからないけど、なんとなくそんな気がしたからだもん」
「えー、みんなっ! この通り、なんとなくというから絶対間違いだとは思うが、愚妹がやったことだと笑って許してあげてほしい!」
「うー、まだ登り始めたばかりなのに……ロディお兄ちゃんのバカッ!」
「バッ……バカとはなんだ! 撤回しろおぉっ……どわあぁっ!?」
ロディがシェリーを追いかけようとして滑って転んだので笑い声が上がる。雰囲気は上々だな……っと、マリベルたちが何か言ってるってことで、胸ポケットに耳を近付けてみた。
「アルファよ、つけられておるぞっ!」
「アルファどの、くれぐれもご注意を」
「どうか、どうか気を付けてくださいまし、アルファ様っ」
「アルファしゃん、ファイトでしゅ。ユリムが一番心配してましゅからねっ」
「「「「ムムッ……!」」」」
「……」
なんだ、俺をそこまで気遣ってくれるのかと感動したが、違った。誰が一番俺を心配してるのかで競ってただけだった……。まあ俺の力は知ってるだろうしそこまで心配するわけないしな。しかも、どうやら尾行してくるのはガーラント一人だけっぽい。
ただ、オーガがいるとわかってるのにソロで来るわけだし、相当の覚悟、執念をひしひしと感じるから絶対に油断は禁物だ。それに、ガーラントのジョブ【聖騎士】ってかなり厄介なスキルがあるはずだから、本格的に妨害してくるとなると長期戦を余儀なくされるだろう。
「「「「「――おおっ……」」」」」
やがて俺たちは、上方の出入り口から陽射しが降り注ぐだだっ広い空間に出た。そこまではピッケルの刃が必要なほど傾斜のきつい登り坂を越える必要があるわけだが、そんなことはまったく気にならなかった。洞窟内であるにもかかわらず周囲には背の高い木々が鎮座していて、目を奪われるほど美しいものだったからだ。
「「「「「……」」」」」
眩い光が飛び込んでくる。遂に……遂に俺たちのパーティー《リファインズ》は『アント・ヘブン』の頂上までやってきた。多分、上空から俯瞰してみたら切り株のような形をしていることだろう。そこは多くの山々に見守られているかのような神聖な場所で、風もほとんどなく静まり返っていた。
まもなく振動とともに頂上中央に光の柱が立ち、キラーアントよりずっと大きな蟻――ボスのクイーンアント――が出現する。いよいよだな……。
「そ、そっか。間違えたみたいだ……」
翌朝、第二セーブポイントから幾つかある洞窟を選んで出発したわけだが、そこは明らかにループしていることがわかる構造で、ミュートが似た箇所を指摘してきたことで発覚した。
「みんな……ごめん……」
わざとらしさを払い、本気で落ち込んでるように見せかけるのも忘れない。
「い、いやっ! アルファ君、たまには間違いだってある! 気にするなっ!」
ロディが俺の肩を叩いてくるが、怒ってる感じじゃなくてむしろ安堵したような表情だった。まあ今日を入れてあと六日も猶予があるわけだから急がなくていいっていうのもあるんだろう。
「へえ、アルファが間違えるなんて珍しいね。むしろ、今までが凄すぎたから逆に安心したかも」
「わたしもっ」
「アルファさんも人間だったということですねえ」
「……」
よしよし、これで俺に対してみんな過度に期待するようなこともなくなるだろうし、わざと道を間違えて正解だったと思える。
というわけで俺たちは来た道を戻り、第二セーブポイントに帰還するとこれから登る洞窟を選び直すことになった。誰が道を選択するかは、どうやらジャンケンで決めるらしい。
「――わあい、勝ったー!」
ジャンケンにおける負けパターンを払い、俺は偶然を装って意図的にシェリーに選ばせることにした。メンバーの中じゃこの子が一番素直そうだし、俺が不正解の道を選ばないように密かに干渉しても疑問を持たれにくいと判断したんだ。
「んー……こっちかなー」
よし、俺が何をせずともシェリーが正解を選んでくれた。もし間違ってたら、その道が正解だと思う気持ちを払うつもりだった。
「シェリー、どうしてこっちを選んだのだ?」
「そ、それは……よくわからないけど、なんとなくそんな気がしたからだもん」
「えー、みんなっ! この通り、なんとなくというから絶対間違いだとは思うが、愚妹がやったことだと笑って許してあげてほしい!」
「うー、まだ登り始めたばかりなのに……ロディお兄ちゃんのバカッ!」
「バッ……バカとはなんだ! 撤回しろおぉっ……どわあぁっ!?」
ロディがシェリーを追いかけようとして滑って転んだので笑い声が上がる。雰囲気は上々だな……っと、マリベルたちが何か言ってるってことで、胸ポケットに耳を近付けてみた。
「アルファよ、つけられておるぞっ!」
「アルファどの、くれぐれもご注意を」
「どうか、どうか気を付けてくださいまし、アルファ様っ」
「アルファしゃん、ファイトでしゅ。ユリムが一番心配してましゅからねっ」
「「「「ムムッ……!」」」」
「……」
なんだ、俺をそこまで気遣ってくれるのかと感動したが、違った。誰が一番俺を心配してるのかで競ってただけだった……。まあ俺の力は知ってるだろうしそこまで心配するわけないしな。しかも、どうやら尾行してくるのはガーラント一人だけっぽい。
ただ、オーガがいるとわかってるのにソロで来るわけだし、相当の覚悟、執念をひしひしと感じるから絶対に油断は禁物だ。それに、ガーラントのジョブ【聖騎士】ってかなり厄介なスキルがあるはずだから、本格的に妨害してくるとなると長期戦を余儀なくされるだろう。
「「「「「――おおっ……」」」」」
やがて俺たちは、上方の出入り口から陽射しが降り注ぐだだっ広い空間に出た。そこまではピッケルの刃が必要なほど傾斜のきつい登り坂を越える必要があるわけだが、そんなことはまったく気にならなかった。洞窟内であるにもかかわらず周囲には背の高い木々が鎮座していて、目を奪われるほど美しいものだったからだ。
「「「「「……」」」」」
眩い光が飛び込んでくる。遂に……遂に俺たちのパーティー《リファインズ》は『アント・ヘブン』の頂上までやってきた。多分、上空から俯瞰してみたら切り株のような形をしていることだろう。そこは多くの山々に見守られているかのような神聖な場所で、風もほとんどなく静まり返っていた。
まもなく振動とともに頂上中央に光の柱が立ち、キラーアントよりずっと大きな蟻――ボスのクイーンアント――が出現する。いよいよだな……。
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